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借金持ちの俺、ゴブリン牧場で大金を稼ぎます  作者: といとい


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第44話: 新人さん、コミュ障だった

昼。

いつものように俺たちは青梅ダンジョンの管理所にやってきた。


カウンターの奥には、当然のようにゆきちゃんの姿。

けれど今日は、なにやら受付の前にもうひとり立っていた。


「おはよーっスー!」

「おはようございますー! 新人紹介されに来ましたー!」


コハルの挨拶に応じるように、ゆきがちらりと顔を上げた。

その隣にいる女の子が、一瞬こちらに目線を向ける。けれどすぐに逸らす。


前髪ぱっつん。

顔の半分くらい隠れそうな、まっすぐで黒くて艶のあるロングヘア。

制服っぽいジャケットに、黒いロングスカート。目つきは鋭い……というより感情が読めない。


「……こっち来なさい」


ゆきが手で招くと、彼女はまるでロボットのようにコクンとうなずいてから、一歩だけ前に出た。


「紹介するわ。この子が、言ってた空間魔法の子」

「えっ、あの……?」


俺が思わず聞き返すと、ゆきが彼女の肩をポンと叩いた。


「名前、言って」

「……山田千秋」


か細く、けれどハッキリとした発音で、彼女は答えた。

やっぱり感情がない。声にも顔にも、なんの抑揚もない。


「わぁ……ほんとに人形みたいっス」


コハルがぽそりとつぶやく。

すると千秋の目が、ゆっくりとコハルの方を向いた。


(……睨まれてる?)


「えーと……俺がボン、この太ったのがブタオ、こっちがコハルです」


ブタオが気を利かせて言った瞬間、彼女はすっとスマホを取り出した。

画面にはチャットアプリの「友だち追加」のバーコードが、すでに表示されていた。


「……連絡先」

「うお、準備してたのか」

「無駄がないっスね……」


スマホを読み取り、すぐに登録する。

試しに「こんにちは」とスタンプを送ると、十数秒後──


《ご挨拶失礼します。このたびはお忙しいところお時間を頂戴し、大変ありがとうございます。私は山田千秋と申します。本日はご縁があって皆さまとご一緒できること、大変嬉しく思っております。至らぬ点も多々あるかと存じますが、どうぞよろしくお願いいたします。なお、「人形みたい」というお言葉、大変恐縮です。お世辞とわかってはおりますが、そのように言っていただけること自体、ありがたく受け止めております。》


と、めちゃくちゃ丁寧な長文が返ってきた。


「……え? これ別の人?」

「めっちゃちゃんとしてる……」

「いやいや、現実とのギャップがすごすぎるっス!」


コハルに人形って言われたの嬉しかったんかい。


呆然とする俺たちを見て、ゆきが小さく笑った。


「あー、その子ね。めちゃくちゃコミュ障だから」


なんじゃそりゃー。


千秋との挨拶が一通り終わったあと、ふと彼女のスマホに通知が入り、彼女はそれに気づくと指先で何かを操作し始めた。


《ご一緒させていただくにあたり、参加理由をお伝えさせてください》


というメッセージが届いたあと、チャット画面に長文が次々と流れてきた。


《安全に、かつ効率よくレベルを上げる手段を探しておりましたところ、管理所の受付担当であるゆき様より、貴チームの活動内容についてお話を伺いました。非公式な取り組みであること、また機密性の高い情報であることは重々承知しております。そのうえで、貴チームが行っている業務の詳細を知りたく参加の依頼をさせていただきました。理由は以下のとおりです》


そこからさらにスクロールしないと読めないほどの長文が続いた。


「うわ……まためちゃくちゃ長いの来たぞ」

「敬語ガチガチっスね……」

「お、おれこのタイプのチャット、3行目から読まなくなるやつだ……」


ブタオとコハルがスマホをのぞき込みながら小声でつぶやいた。


内容をざっくりまとめると──安全な形でレベルを上げられるなら、ぜひ手伝わせてほしい、というものだった。


「えーと、千秋さん、なんでそこまでレベル上げたいの?」


俺がスマホ越しに尋ねると、即座に返事が来る。


《親が経営していた会社が、昨年倒産いたしました。その影響で、当家には多額の借金が残されております。私自身が探索者として収入を得る以外に、返済の道がなく──》


そこからまた長文が続いた。読み終えるまでに1分以上かかる。


「……ちなみに、いくらくらい?」

《十億円です》


「……」

「……」


俺とブタオの顔が引きつった。


「どぅええぇ!? 私の十倍じゃないっスか!!」

「俺の3000万とか……マジで小銭に感じるんだけど……」

「俺の500万なんてないのと一緒だな。と言うことは実は最初から借金なんてなかった……?」


コハルが目を丸くし、ブタオが膝に手をついて項垂れる。


「えっと……千秋さん」


俺がもう一つ、大事なことを尋ねる。


「僕らのこと、他人に漏らさないって約束できます?」


すると千秋は、無言でバッグから一枚の書類を取り出した。


「……?」


差し出されたのは、厳重な封筒に入った一通の契約書。

封を開けて目を通すと、そこには「秘密保持契約書」の文字があり、しかもすでに千秋のサインと印鑑が押されていた。


「……あの、これマジのやつじゃん」

「内容、えげつなく厳しいぞ……」


読み進めると、「契約違反があった場合、違約金三十億円を支払うこと」という条項まである。


「いやいや、絶対払えないでしょこれ」

「払えないし、払わせたらこっちがニュースになるっスよ……」

「安心しなさい。私が責任持って払わせるから」


いつの間にか背後に立っていたゆきが、さも当然のように口を挟んだ。

無表情で紅茶を飲みながら、まるで今日の天気でも語るように言い放つ。


「は、はい……」


俺たちは反射的にうなずくしかなかった。


「……じゃあ、行きますか。ダンジョン」


コクリとチアキがうなずく。

思ってた以上にすごいのが来たな──そんな空気のまま、俺たちは本日の牧場運営へと向かった。


⸻



現在のゴブリン牧場の状況(623匹)

⸻⸻⸻⸻⸻⸻

・檻A(ゴブタロウ + メス356匹)

ゴブタロウ

メス137匹

ハーフメス111匹

ホブメス28匹

メス赤ちゃん24匹

ハーフメス赤ちゃん41匹

ホブメス赤ちゃん15匹

・檻B(262匹)

オス112匹

ハーフオス131匹

ホブオス19匹

・檻C(92匹)

魔石回収係10匹

ハーフオス62匹

ホブオス20匹

⸻⸻⸻⸻⸻⸻




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