第42話: 妹ちゃん、空を飛ぶ
「冗談だ」
俺がぽつりと言うと、間髪入れずに声が返ってきた。
「ちょっとぉぉぉぉぉ!!! めっちゃ焦るかないっすか! やめてくださいっす!」
目を見開きながら両手をブンブン振って抗議するコハル。顔は真っ赤、耳まで真っ赤。しっぽがあったら今にも千切れそうな勢いで振ってそうだ。
「いや、別に本気で追放するわけないだろ……」
「ほんとマジで! 心臓止まるかと思ったっスよ!? やめてくださいよもう~!」
「まあまあ」と俺は苦笑しながら、立ち上がる。
「もちろん、任せたい仕事はあるよ」
その言葉に、コハルの目がキラリと輝いた。前のめりになって手を合わせる。
「おお! それはなんっスか!?」
「えーっと……あのー……なぁ?」
俺は思わず隣のブタオに助けを求める。
「えーと……マスコットキャラ的な?」
「いるだけでイイっすか!?」
「いや、そういうわけじゃなくて……」
「お、お茶を準備するとか……?」
「んー、ゴブリンの数を数えるとか……」
「雑用じゃないっすか! もっとこう、ないんスか!? 任された感のある、重要っぽい任務!」
コハルがほっぺを膨らませて抗議してくる。
俺とブタオは顔を見合わせ──そして、同時に思いついた。
「……あ」
「……あ」
「「ボディーガードだ!!」」
2人の声が重なった。
「えっ」
コハルがぱちくりと瞬きをする。
「そうだ、俺らさ、正直戦闘系のスキルほとんどないし、万が一襲われたときとか、ガチでピンチじゃん」
「うんうん。だから万が一のときのために、お前が近くで護衛してくれたらめっちゃ助かる」
「おぉぉぉ……やっぱり、いるだけでイイっスか!!」
「違う違う、護衛な。ガチで頼りにしてるんだからな」
「へへっ、なんか嬉しいっス!」
コハルは拳を握って満面の笑み。さっきまで膨らんでいたほっぺも元通り。テンションが一気に回復したらしい。
「じゃあスキルの練習でもしてなさい。近接戦はできなくても、念力で対応できるようになってたら頼もしいし」
「なるほど! 了解っスー!!」
気合の入った返事とともに、コハルは両手を握りしめた。
「練習って、何すればイイっスかね?」
「……え? んー、とりあえず、浮いてみたら?」
「おお! そういえば私、ゴブリンを浮かせてたっス! 今なら自分も浮ける気がするっス!」
満面のやる気を浮かべて、コハルはぴょんと軽くジャンプし──いや、念力で浮こうとした。
「がんばれー」
ブタオが適当に応援し、俺はちょっとだけ期待しながら見守った。
……さぁ、コハルの浮遊チャレンジタイムである。
「……いきますっス!」
気合いを入れたコハルが、両足を肩幅に開き、腕をぐっと前に伸ばす。目を閉じて、集中。
今までと違うのは――対象が自分ということだ。
「浮け……浮け……浮け……っス……!」
地面の砂埃がわずかに舞う。
「……あっ……浮いた?」
ほんの少し、コハルの足元が地面から離れた。たった数センチ。されど確かに――空中に。
「うおおおっ!? すごいっス! マジで浮いてるっス!」
歓喜の声を上げた瞬間、バランスを崩してドスン! と尻もちをついた。
「いてて……」
「いやでも、今のすげーよ。マジで浮いてた」
「初回にしては上出来じゃね?」
ブタオと俺が手を叩いて称賛する。
コハルは照れ笑いを浮かべながら、お尻をさすって立ち上がった。
「もう一回やってみるっス!」
二度目のチャレンジ。
今度は深呼吸をしてから、腕を軽く開いて、意識を足元へ集中する。
「ふんぬ……!」
ブゥン、と空気が震えたかと思うと、コハルの体がふわりと浮かび上がる。
「おお……! 今度は安定してる!」
「見てこれ! めっちゃ浮いてるっス! 私、鳥になれるっス!」
そのまま、ほんの20センチほどの高度を維持しながら、足をばたばたと動かす。
「これで……前に進めたら……」
がんばって手足をバタつかせるが、前に進まずその場で回転しはじめる。
「わああっ!? あばばばばっスー!!」
完全に目を回して、そのまま空中で横に倒れ――パタン。
「くうっ……でも……これは、いけるっス!」
コハルは諦める様子もなく、キリッとした顔で言い放った。
「このままいけば、世界一周も楽勝っス!」
「それは不法入国だな」
「おまわりさーん! ここでーす!」
「バレなきゃ大丈夫っス!」
再度、コハルが空中に浮く。
「ふんぬぬぬ……!」
今度はさらに慎重に、身体のバランスを微調整しながら、浮遊高度を安定させている。
腕と脚をまるで操り人形のようにゆっくり動かしながら、空気の抵抗を探っているかのようだった。
「……お?」
「んんっ……んんんんっ……よしっ!」
ふいに、前方へスッと滑るように進み出した。
まるで風船が風に乗って流れていくような、ふわりとした動き。
「おお!? 進んだ!?」
「おー、すげー」
俺とブタオが立ち上がる。
その目の前で、コハルはふわぁっと浮かび上がり、さらにそのまま水平に――
「わーーーーっ! 飛んだあああっスーーー!!」
叫びながら、まるでドローンのように空中を右へ左へ蛇行しながら高速で飛び回る。
下で見上げる俺たちは、完全に口を開けて棒立ちだった。
「ちょっ、速すぎじゃね!?」
「風きってるっスよ! きもちぃぃぃっスーーー!!」
コハルは地面スレスレの高度から一気に天井近くまで急上昇したかと思うと、今度はくるりと宙返り。
「ひゅいっ! ひゅいっ! 私が風っスーーー!!」
「ちょ、危ないって!! ぶつかるぶつかる!!」
「コハルちゃんそろそろ降りてこーい!!」
俺が声をかけるとコハルがこちらに戻ってくる。
「ふぅ~~っ、着陸~~~っス」
ふわっと空中をひと回りし、回転しながらくるくると地面に近づき、そのままふんわりと着地した。
「……どやっ」
「いや、すごいわ。こんなすぐに飛べるもんなのか」
「これもしかして俺たちも飛べる?」
「お、自分を動かすよりも100倍楽っスよ。やりますっス?」
「……なんか怪我しそうだからいいや」
「なんでっスかー!」
この後もコハルは跳ねたり、飛び回ったりを繰り返し、ゴブリンが帰ってくるまでスキルの練習に時間をあてた。
この子はやっぱり手元に置いてたほうが何かしらには役立つ気がする。
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現在のゴブリン牧場の状況(623匹)
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・檻A(ゴブタロウ + メス356匹)
ゴブタロウ
メス137匹
ハーフメス111匹
ホブメス28匹
メス赤ちゃん24匹
ハーフメス赤ちゃん41匹
ホブメス赤ちゃん15匹
・檻B(262匹)
オス112匹
ハーフオス131匹
ホブオス19匹
・檻C(0匹)
オス0匹
ハーフオス0匹
ホブオス0匹
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