第40話: ゴブリンさん、出稼ぎから帰ってくる
管理所に戻ると、ゆきちゃんがいつもの場所でスマホをいじっていた。俺たちが扉を開ける音に気づき、顔を上げる。
「おかえり。どうだった?」
「今回は11チームに分けて、2階層までの探索に制限してみました」
「ふーん、まぁそれくらいか」
ボンの簡単な報告に、ゆきは短く頷いてまたスマホへ視線を戻した。俺たちはお決まりのソファに腰を下ろし、ふぅっと息をつく。
コハルはぐだっとソファに座りこみ、腕を伸ばして大きくあくびをした。
「なぁ……ゆきちゃんって、いつもスマホで何見てるんだろうな?」
俺がぽつりと呟くと、隣のコハルが唐突に口を開いた。
「AVっスね」
ん? 聞き間違いかな?
うぇーいビデオ?
陽キャがしか出てこなそうだな
「……えーと、アニマルビデオってオチ?」
「いや、アダルトビデオっス」
「「……ええぇ!?」」
俺とブタオが思わず変な声を上げると、コハルは真顔で頷く。
「マジっスよ。高校の時からハマってるらしいっス。何度も家族会議が開かれてますっス」
「え、それガチで?」
「うちの姉ちゃん、なんか作品として楽しんでるらしいっス。エロを求めてるっていうより、演出とか演技とか、そういうとこに注目してるみたいで。私にはよくわからないっスけど」
「ゆきちゃん……それ聞いたあと、どういう顔すればいいのか分かんないよぉ……」
「何系が好きなのか気になるわ」
「自分で聞いて欲しいっス。人の趣味は人それぞれっス」
そんな感じで、だらだらとどうでもいい話を繰り返しながら、俺たちは夕方まで管理所で過ごした。
ゆきちゃんのスマホの中身がAVだったとか、もう二度と目を合わせられない話題で、無駄に脳のリソースを消耗した気がする。
「……さて、戻るか」
ボンの一言で腰を上げると、俺たちは管理所を出て、大部屋へと向かった。
ダンジョンの空気は、昼と夜の区別がないくせに、なぜか夕方っぽい雰囲気を感じさせる。
湿り気のある石壁の匂いと、どこかから漏れる水音。そして、檻のある大部屋に近づくにつれて聞こえてくる、ゴブリンたちの鳴き声。
「お、帰ってきてんじゃん」
大部屋の入口に立つと、すでに何匹かのゴブリンが戻ってきていた。数えてみると――ざっと50匹くらい。
まぁまぁ帰ってきてくれたかな?
「武器……なんか持ってんな」
戻ってきたゴブリンたちは皆、手に得物をぶら下げていた。ボロい木の棒、刃こぼれした短剣、釘の刺さった木片――まさに質の悪い武器のオンパレード。
明らかに、2階層で倒した野良ゴブリンから奪ってきたものだ。
「こいつら、やるな……」
しばらく眺めていると、戻ってきたゴブリンの顔ぶれも見えてくる。
ホブゴブリンがちらほら。あとはハーフ。
通常のゴブリンの姿は――ほとんど見えない。
「あー……普通種、ほぼ全滅か」
まぁ、戦力差考えたらそうなるか。
2階層にいる野良の中で、武器を持ってるのが混じってたら、素のゴブリンじゃ太刀打ちできるはずもない。
でも、ホブとハーフが生き残って帰ってきたのは大きい。これなら、明日以降も探索できそうだ。
「魔石回収係は集まれー!」
俺が声を張ると、反応したのはゴブリンたちの中でも、ちょっとだけ背丈の低い、チビ系の面々。
例のチビを筆頭に、合計で8匹がわらわらと俺の前に集まってくる。
「おお、今回は意外と帰ってきたな」
みんな手にビニール袋を提げている。中にはうっすらと魔石が詰まっているのが見える。
俺は一袋ずつ受け取りながら、中身をざっくり確認していく。
「……うん、30個前後ってとこか。バラつきはあるが、平均はそんなもんだな」
全部で8袋。単純計算で240個前後か。
しかもそのほとんどが、明らかに通常種のゴブリンから取れた小ぶりの魔石だった。
「これだけで……24万ってとこか?」
正直、これだけの魔石なら殺処分してもそれなりの額は稼げたはずだ。
効率的にはトントンか?
あ、でも残ったやつを魔石換算すると10万は超えそう。
やっぱり探索させた方が効率はいいか。
経験値稼ぎって意味でもこっちの方がいいかな。
この調子で明日も探索に行かせれば、さらに収入は伸びるだろう。
ホブやハーフも多くなってきているし、育成の意味でも探索を繰り返すのは悪くない。
「よし……今日はこのへんで終わりにしよう」
生き残った連中を改めて数え、檻Cに入れていく。
残ったゴブリンたちはボロボロなのがほとんどだ。
明日も探索してこいとかブラック過ぎる。
来世は絶対にゴブリンになりたくない。
俺たちは魔石をすべてまとめ、袋に詰めて管理所へと戻った。
ゆきちゃんに換金処理をお願いすると――
「……251個。251,000円ね」
「うおお……本日もご馳走様です」
そこから上納金10%を差し引いて、残りの225,900円を3人で山分け。
一人あたり、ざっと75,300円。
「いやー……今日もよく働いたな」
「明日はもっと稼げそうっスね! すぐに借金返済できそうっス!」
「だな。俺の借金もすぐ返せそうだわ。明日は何匹帰ってくるかな……」
そんな他愛もない会話をしながら、俺たちは明日への期待を胸に、静かに夜を迎えるのだった。
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現在のゴブリン牧場の状況(571匹)
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・檻A(ゴブタロウ + メス283匹)
ゴブタロウ
メス121匹
ハーフメス83匹
ホブメス16匹
メス赤ちゃん21匹
ハーフメス赤ちゃん28匹
ホブメス赤ちゃん12匹
・檻B(236匹)
オス102匹
ハーフオス124匹
ホブオス10匹
・檻C(52匹)
オス8匹
ハーフオス33匹
ホブオス11匹
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