第38話: ゴブリンさん、帰還!
管理所の扉を開けると、ひんやりとした空気が迎えてくれた。
「ただいまー……って感じでもねぇか」
昼前からゴブリンたちを派遣し、出産チェックまで終えて暇を持て余した俺たちは、いったん管理所へと戻ってきていた。持ち帰ったのは、朝に大部屋で拾い集めた魔石──計119個だ。
「ゆきー、魔石あるぞー」
「おかえり。……今日もすごい数ね」
受付カウンターに立っていたゆきが、やや驚いたような目で袋を受け取る。手慣れた手つきで魔石の袋を抱え、奥にあるカウンター裏へと下がっていく。
そのとき、カウンターの奥に見慣れない小さな装置があった。
「ん? それ、なんだ?」
「ああ、これ? 新しく入ったの。魔石の品質を自動で計測して金額を出してくれるやつ」
「ほげー」
「ここみたいな過疎ダンジョンには本当は必要ないんだけど、あんたらが魔石をたくさん持って帰ってくるからね。本部に頼んどいたのよ」
「それはあざっス」
そう言いながら、ゆきが機械の上に魔石をガラガラと入れていく。
シュン……カチャン、という軽快な音と共に、小さなディスプレイに数字が加算されていく。
「すげぇ……」
「え、今ってそんな文明の利器あるんスか」
「これ1回動かすごとに魔石をちょっと消費するけどね」
「出た。魔石駆動の機器。最近増えたよなぁ」
しばらくして、全ての魔石の読み込みが終わったようで、ディスプレイに金額が表示された。
【183,000円】
「はい、勝ち確です」
「あんたら順調だね」
ゆきが軽く微笑むと、俺たちは隅にあるソファ席へと腰を下ろした。
柔らかなクッションが身体に沈む。
こういう時、管理所が過疎ってるのは本当に助かる。
人がいるとぐだぐだするのが恥ずかしいからね。
「はー、疲れた……」
「そんな働いたっス?」
「いや、気のせいでした」
俺はペットボトルの麦茶を口に運ぶ。コハルはソファに寝転び、ブタオはタオルで汗を拭きながらぼーっと天井を見ている。
そんな中、ゆきがぽつりと声をかけてきた。
「……ねぇ、あんたら、今日は帰らないの?」
俺たちは顔を見合わせた。
「あのさ、ゆきちゃん」
受付のカウンターに近づき、座るゆきに声をかけた。
「ん? なに?」
「ちょっと大きな声で言えないんですけど。実は最近、俺の《飼育》スキルのレベルが上がりまして」
「ほう?」
「で、それで……新しい効果が追加されたんですよ」
「どんな?」
「ゴブリンに指示ができるようになリマした」
「指示?」
ゆきの眉がわずかに動く。
「うん。たとえば、『騒げー!』って指示すると本当に騒ぐのよ。流石に『自殺しろ』とかは聞いてくれないんだけど。で、今朝は149匹のゴブリンを10チームに分けて探索させてます」
「……マジ?」
「マジです。魔石回収係を各チームに1匹ずつ配置して『絶対に生きて帰ってこい』って命令してます。多分このあとめちゃくちゃ魔石持って帰ってきますよ」
「それは……やばいわね」
「やばいっス……とにかく、楽しみにしててください」
「ふーん……」
ゆきは珍しく黙って考え込んでいた。腕を組み、視線を少し上に向けて、言葉を選んでいるような顔をしている。
「探索者を普通のゴブリンに見せかけて殺すこともできると」
「そんなひどいことしないですよ!!」
「でもできるよね?」
「……できそうですね」
俺とゆきが顔を見合わせて、無言でうなずいた。
「……ま、頑張ってよ」
「え、それだけ?」
「いやいや、私はしがない受付嬢だから。あんたたちが何やってようが、特に口出ししないから」
「え、じゃあ上納金は?」
「……黙って払っといた方がいいんじゃない?」
「そうします!」
そう言って、ゆきはニヤリと笑った。完全に面白がっている顔だった。
俺はソファに戻ってブタオとコハルに報告すると、3人でまたのんびりと椅子に体を沈めた。
そして3人同時に、頭の中でレベルアップのアナウンスが流れた。
【レベルが6に上がりました】
「レベル上がったー!?」
「え、なんで?」
「え、えー!? なんもしてないっスよ?」
3人で驚愕する。
え、これマジでなんで上がったの?
「たぶん、あれか。ゴブリンたちが戦ったりしてる分の経験値が、俺たちに入ってるのか?」
「つまり、超安全にレベル上げができると?」
「チートっスね! 即垢BANレベルっス!」
これは……完全にチートだろう。
ゴブリンの殺処分も十分チートだったけど、これはその上をいくレベルのチートだ。
「……はは、でもよ。これ、マジで革命的じゃね?」
「俺ら、いよいよ働かなくてよくなってきたな」
「夢の自動化牧場っス」
そんなふざけたやり取りを交わしつつ、俺たちは引き続きまったりと時間を潰すのだった。
夕方。
俺たちは再び、大部屋へと戻った。
「……戻ってきてるかな」
少し期待しながら入口をくぐる。すると──
「……あ」
戻ってきていた。
たった4匹だけ。
チビの魔石回収係、そして、見るからにボロボロになったホブ3匹。
他の145匹の姿は──どこにもなかった。
「何ー!? 魔石回収係1匹だけか!?」
「チビ……生き残ったのか」
コハルが慌てて近づく。チビはビニール袋を大事そうに抱えたまま、足元をふらつかせている。
袋の中には、まぁまぁ魔石が詰まっていた。ざっと数えて34個。
どれも小さく、質の低い、いわゆる普通のゴブリンからしか取れない魔石だ。
3匹のホブは傷だらけだった。
明日は万全じゃないだろうが、戦えないほどではなさそうだ。
「魔石回収係……10匹送り出したのに、帰還率悪いな……」
「どこまで進んだんっスかねー」
「むしろなんで生き残ったんだ、こいつ……」
チビは俺たちの顔を見ると、「ぎゃ」と一声あげて、ぱたりと尻もちをついた。
疲労と安心が入り混じった、情けない表情だった。
「……こいつは大物になる気がする」
「いや、明日にでも死にそうじゃね?」
「ブタオ、お前容赦ないな」
「うーん……それよりなんで帰ってこなかったんだろ?」
それである。
ちゃんと生きて帰ってこいと指示したのに。
「普通に帰り道に殺されちゃったんじゃないっスかね?」
「まぁそうだよなー」
「1匹で帰ってたら他のゴブリンに出会った瞬間にアウトだな」
まぁそれしか考えられないか。
「帰るタイミングを早めるか、もしくはボディーガードをつけるか」
「明日どっちか試すか」
「だな」
俺たちはゴブリンを檻に入れ、魔石の詰まったビニール袋を手に再び地上へ戻った。
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「で、成果は?」
ゆきがカウンター越しに顔を上げる。俺は少し気まずそうに、ビニール袋を差し出した。
「……今日は、これだけ」
「ふーん。何個?」
「34個っす」
「しょぼ。『楽しみにしててください(キリッ)』とか言ってたのに」
「キリッとは言ってないっすよ!」
ゆきは受け取った魔石を、品質チェック機械に流し込んでいく。
金属音が軽く響き、内部でカチャカチャと魔石が転がるような音がした。
液晶パネルに、金額が表示される。
【34,000円】
1匹の魔石回収係でこの金額だ。
全チームが帰ってきてたら340,000円くらいいっていたはず!
明日の指示をどうするか、家に帰って眠りにつくまでずっと考えていた。
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現在のゴブリン牧場の状況(380匹)
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・檻A(ゴブタロウ + メス222匹)
ゴブタロウ
メス106匹
ハーフメス58匹
ホブメス9匹
メス赤ちゃん15匹
ハーフメス赤ちゃん25匹
ホブメス赤ちゃん7匹
・檻B(158匹)
オス72匹
ハーフオス78匹
ホブオス8匹
・処分済み
0匹
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