第37話: ゴブリンさん、朝会ですよ
昼、俺たちはいつも通り青梅ダンジョンの管理所に集合した。
「おはよー」
「今日もやるぞー」
ゆきに挨拶をしてから、俺たちはダンジョンへと入った。慣れた足取りで階段を下り、大部屋へ向かう。
「さて……まずは魔石の回収だな」
昨日処分したオスゴブリンたちの死体──は、もう跡形もなく消えていた。その代わり、光を放つ魔石が床に散らばっている。
「オス57匹、ハーフ60匹、ホブ2匹……計119個だな」
コハルの念力で拾い集める。大きめの袋に詰めていくと、ずっしりとした重さが腕にくる。
魔石、ありがてぇ。
「んじゃ、次──檻Bを開けるか」
ブタオが檻Bの土魔法を解除する。
扉の向こうにいたオスゴブリンたちが、一斉にこちらを見た。
「ここに並べー!」
「「ぎゃぎゃぎゃ!」」
俺が声を張ると、ゴブリンたちはわらわらと動き出す。だが、最初から整然としているわけではない。
「おい、そこっ! 横入りすんな!」
「順番だ、順番!」
あちこちでちょっとした押し合いへし合いが起こる。
特にデカいホブ種が前に出ようとして、通常種を蹴散らす形になると、一部のゴブリンたちが抗議のように「ぎゃー!ぎゃっ!」と吠えだした。
「はいはい! ケンカしないの!」
「整列整列ーっス!」
ブタオとコハルが間に入り、怒るゴブリンの間に壁を作るようにして調整していく。コハルは念力で1匹浮かせて無理やり列に戻すと、そのまま軽く地面に落とした。
「ギャ……」
文句を言おうとしたゴブリンだったが、睨まれるとすぐに黙った。どうやらコハルのほうが怖いらしい。
なんだかんだで数分後──
通常種70匹、ハーフ69匹、ホブ6匹、昨日の戦闘帰りの4匹。総勢149匹が、10列に分かれて並び終えた。
どの列もぴしっと揃っていて、指先ひとつ動かさず、真っすぐにこちらを見ている。
列の前の方では、昨日の遠征で生き残ったチビゴブリンが、まだちょっと緊張気味にきょろきょろしていた。
「うわ、並ぶと壮観だな……」
「軍隊っスね、これ……」
あまりの迫力に、俺たちも思わず笑ってしまう。
「よし──お前らぁ!」
俺は前に出て、両手を広げて叫んだ。
「やる気はあるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「「ぎゃぎゃぎゃーっ!!!」」
149匹のゴブリンたちが、一斉に拳を突き上げて吠える。
どこかで聞いたことのあるアニメの号令シーンみたいな勢いだ。
「オッケー! じゃあ……ブタオ、頼む。ナイフを、土魔法で10本くらい!」
「え? なんで?」
「魔石の回収係に持たせるんだよ」
「あーなるほど。任せろ」
ブタオはそう言いながらも、さっと両手を前に突き出すと、足元の土からシュルシュルとナイフが形成されていく。
鋭く細く、簡素な造りだが、十分に刺さりそうな仕上がり。
「はいよ、できたー」
「サンキュー!」
俺はそのナイフを手に取ると、昨日の遠征で働いたチビゴブリンと、通常種のうち素早そうな個体数匹を選んで配布した。
「お前らは魔石回収係だ。このビニール袋も持ってけ!」
チビがビニール袋を大事そうに抱えた。うん、こいつは信頼できる。
「で──他のお前らぁ!!」
俺はぐるりと視線を巡らせ、大声で叫んだ。
「野良のゴブリンを殺せぇぇぇ!!!」
「「ぎゃぎゃぎゃーっ!!!」」
「いけるところまで行ってこーい!! 階層もどんどん進めていけー!!」
「「ぎゃぎゃぎゃーっ!!!」」
「あと、もし武器とか持ってる敵がいたら、それも持ち帰ってこーい!」
「「ぎゃぎゃぎゃーっ!!!」」
「魔石回収係は戦うなー! 敵でも味方でも、死体から魔石を回収しろー! 絶対に生きて帰ってこーい!」
「「ぎゃ!? ぎゃぎゃーっ!!!」」
命令を一気にまくし立てると、ゴブリンたちがざわめき始める。みんな、やる気満々だ。
「じゃ、編成だ。15匹ずつで10チーム。1チームに必ず回収係を1匹混ぜろ!」
ブタオとコハルが手際よくチームを分け、列を整えていく。
149匹のゴブリンが、整然と10列に並ぶその光景は──まるで戦争前の出陣式だった。
「いってこーーい!!!」
「「ぎゃぎゃぎゃーーーー!!!」」
怒涛の勢いで、ゴブリンたちがダンジョンの奥へと駆け出していく。土煙を巻き上げながら、彼らは己の任務を果たすべく、薄暗い通路の中へと消えていった。
指示を叫ぶたび、返ってくるのは咆哮のような返答だった。
──なんだろうな。これ、テンション上がる。
「……ふぅ」
肩を落とした俺に、ブタオが声をかける。
「どうする? 俺らは」
「とりあえず、出産チェックでもするか」
大部屋の隅に設置してある檻Aの中にはメスゴブリンたちがわらわらと身を寄せ合っていた。
「コハル、頼む」
「おっけーっス!」
コハルが手を前に出すと、空気がふるえるようにして、赤ちゃんが1匹ずつふわっと浮き上がる。
順にくるくる回しながら、性別を確認していく。
1匹、2匹、3匹……。
俺とブタオは、浮かんだ赤ちゃんゴブリンの性別を手早く確認して、手元のメモに記録していく。
「オス:72匹……」
「ハーフオス:78匹……」
「ホブオス:8匹……」
「メス:15匹」
「ハーフメス:25匹」
「ホブメス:7匹」
「合計、205匹か……」
「……多いな」
「相変わらずオス率高いっスね」
浮かせたままの赤ちゃんゴブリンたちを、コハルがそれぞれ檻に分けていく。
赤ちゃんたちはそれぞれふわふわと移動しながら、対応する檻に収まっていく。
「……さて」
すべての作業が終わると、俺たちはなんとも言えない気分で、檻の前に並んで座り込んだ。
「ヒマだな……」
「マジでやることねぇっスね」
「探索部隊、今ごろどうしてるかな……」
ダンジョンの奥へと走っていった149匹のオスゴブリンたちは、まだ帰ってこない。
「いつ頃戻ってくるだろ」
「なんか緊張するっスね」
俺たちはしばらく沈黙したまま、ボンヤリと時間を過ごしていたが──
「……よし、いったん戻るか」
「管理所っスね」
「ゆきちゃん、何か言うかな……」
俺たちは立ち上がり、荷物をまとめてダンジョンから引き返した。
現在のゴブリン牧場の状況(380匹)
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・檻A(ゴブタロウ + メス222匹)
ゴブタロウ
メス106匹
ハーフメス58匹
ホブメス9匹
メス赤ちゃん15匹
ハーフメス赤ちゃん25匹
ホブメス赤ちゃん7匹
・檻B(158匹)
オス72匹
ハーフオス78匹
ホブオス8匹
・処分済み
0匹
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