第36話: ゴブリンさん、野良ゴブリンと戦う
5匹のオスゴブリンを目の前に並ばせ、俺は腕を組みながら仁王立ちになった。
「よし……じゃあ、まずはお前らに言うことがある」
ブタオとコハルの視線が集まる中、俺は一歩前に出て、ゴブリンたちに向かって高らかに叫んだ。
「お前らー! やる気はあるかーっ!!」
「「ぎゃぎゃーっ!!」」
全員、気合十分の様子で跳ね上がり、拳を振り上げて叫び返してくる。
「よろしい!」
俺は指をビシッと天に向けて突き出し、続けた。
「お前らにやってほしいことは、たったひとつだけだ!」
そして拳を振り下ろす。
「野良のゴブリンを殺せ! 以上だ!!」
「「ぎゃぎゃぎゃー!!」」
雄叫びのような返事が返ってきて、思わず気圧されそうになる。
「そして──」
俺は5匹の中で一番小柄な個体を指差した。ひょろひょろで、目だけはやたらとキョロキョロしているチビゴブリンだ。
「お前!」
「ぎゃっ!?」
ビクリと肩を震わせたゴブリンが前に出る。
「お前には別の任務を与える!」
俺は用意しておいたビニール袋を1枚、ヒラヒラと掲げると、それを手渡した。
「これに魔石を回収してこい! お前は戦わなくてよろしい! 死なずに戻ってこい!」
「ぎゃ、ぎゃー!」
なんかめっちゃやる気出してる。えらいぞチビ。
「よーし! じゃあ全員──!」
腕を振り下ろしながら、声を張り上げる。
「行ってこーーーーい!!!」
「「ぎゃぎゃぎゃー!!」」
元気よくダンジョンの奥へ駆け出していくゴブリンたち。
……どうなるかは、神のみぞ知る。
「……行ったな」
5匹のオスゴブリンが勢いよくダンジョンの奥へ駆けていった後、俺たち三人もこっそりその後を追うことにした。
「いやー、まさかゴブリンに探索させる日が来るとは……」
「どこまでいくんスかねぇ」
「チビ、袋ちゃんと持ってるか?」
道中で何度かゴブリンたちが曲がるたび、ビニール袋を抱えた小柄なゴブリンが遅れ気味に必死でついていく姿に、少しだけほっこりした。
それからおよそ15分ほど。ダンジョンの中でも少し奥まった、岩陰の続くエリアにさしかかったときだった。
「いた……!」
ブタオが小声で指差した先に、1匹の野良ゴブリンがいた。背は低いが、手には骨のような棒を握っていて、目つきも鋭い。
「……なんか、こっち見てね?」
次の瞬間、野良ゴブリンが牙を剥いて唸り声をあげた。
「ギギィィィ……!!」
威嚇してる。──俺たちじゃない、5匹のオスゴブリンたちに向かって。
「お、戦闘態勢っスよ!」
5匹のうち、ビニール袋係のチビゴブリンだけは後方に下がり、他の4匹が一斉に腰を落として構えた。
「おぉ……やる気満々だな」
そして次の瞬間──
「ぎゃぁああ!!」
「ぎぎっ!」
「ぎゃっ!」
「ぎぃいいい!」
野良ゴブリンが突っ込んできた。
それを4匹が迎え撃つ。ひとりがタックルし、もうひとりが背中に乗っかり、残り2匹がガンガン殴る。
「……えげつねぇ」
「完全に袋叩きっスね」
「野良ゴブリン、完全に負けムードだな……」
ドゴッ、バキッ、メリッ。
──とどめに、1匹のオスゴブリンが飛び蹴りをかましたところで、野良の動きがピタリと止まり、ドサリと倒れ込んだ。
「……終わったか」
「戦えるってことは、十分証明されたっスね!」
「チビのやつ、ほら、魔石拾いにいってる……」
戦わずに隅っこで震えていたチビゴブリンが、恐る恐る死体に近づき、鋭い爪で胸をかき裂こうとするもなかなかうまくいかず、何度も引っかいてようやく心臓をえぐり出し、ようやくの思いで魔石を袋に落とし込んだ。
……完璧だ。思ったより、ずっと順調すぎるくらいに。
というかナイフくらいは持たせておくべきだったか。
ゴブリンたちが探索を再開する。
「おっ、またいたぞ……」
通路の先、わずかに開けたスペースに、野良のゴブリンが三匹、こちらに背を向けて座り込み、意味もなくガチャガチャと石をいじりながら騒いでいた。
それを見つけたうちの派遣ゴブリン部隊、4匹が牙を剥いたように突進していった。
「いけー!いったれー!」
俺たちは後方から声援を送るしかできない。
だが、戦闘は想像以上に泥臭かった。
「ぎゃぁっ!」
「ぎぃぃーっ!!」
味方のゴブリンが1匹、野良の1匹と取っ組み合いになった拍子、喉元をかじられ、そのまま地面に転がる。
「うわ、やられた……!」
その瞬間、残りの味方3匹が一斉に襲いかかる。敵のゴブリンたちは逃げる様子もなく応戦し、3対3の混戦が始まった。
殴り、かじり、頭突き、土をかけ、踏みつける。
戦闘というよりは喧嘩に近い。泥と血と体液が混ざり合い、グチャグチャの地獄絵図と化す。
「……これ、見てるだけで疲れるな」
やがて、味方が優勢に転じ、敵のゴブリン3匹は順に息絶えた。
「勝った……けど、1匹やられたな」
静かに歩み寄ったのは、例のチビゴブリン。
死体の間をちょこまかと動き回り、さっそく魔石の回収を始める。
まずは敵の死体──鋭い爪で胸元を裂き、心臓を探すようにガリガリと何度も削る。
なかなか出てこないのか、小さな手でグリグリと押し込むようにして、ようやく魔石を取り出すと、ふぅ、とため息をついたような仕草でそれを袋に収める。
そして、次に向かったのは味方の死体。
「……え、そっちも?」
チビゴブリンは迷いなく、仲間の胸元も裂き、同じように魔石を回収する。
その手に一切の迷いはない。あるのは、ただ効率のみ。
「おー……容赦ないねぇ……」
ブタオがぽつりと漏らす。俺も、正直ちょっと引いた。
いや、引いたら申し訳ないな。
グッドジョブ。
だが、仕事はまだ終わらない。
その後も野良ゴブリンとの遭遇は2回ほど続き、派遣部隊はすでに傷だらけになりながらも、なんとか生き残り、勝利を重ねた。
「もうボロッボロじゃねぇか……」
「これだけで映画化できるぜ……」
「感動したっス……」
「おーい、お前ら、帰るぞー!」
手をひらひら振ると、ボロボロになったゴブリンたちは「ぎゃっ」と返事をして集まってきた。
袋係のチビは、魔石の入ったビニール袋を大事そうに抱えている。
大部屋に戻って袋を開けると、中には魔石が7個。
「6匹分だな。1個は味方のやつか」
「野良ゴブリンを倒して、魔石を回収。死んだ味方の分もちゃんと回収と」
「これ、めっちゃ稼げるっスね……!」
これはやばいな。
革命が起きてしまった。
残った4匹の戦闘ゴブリンたちを新しい簡易檻に入れて保管する。
ボロボロで明日も同じパフォーマンスで戦えるとは思えないが、処分はしないでおいてやるぜ。
う、前の職場のことを思い出す……
でもゴブリンだからまぁいっか
「じゃ、出産チェックいこうか」
俺たちは檻Aの赤ちゃんを順番に浮かせ、性別をチェックする。
──結果。
・オス:70匹
・ハーフオス:69匹
・ホブオス:6匹
・メス:17匹
・ハーフメス:18匹
・ホブメス:5匹
「……合計185匹っス」
「エグいな」
「いや、今日から牧場じゃなくて工場名乗るべきかもしれねぇな」
数の暴力がすごすぎて、逆に笑えてくる。
「明日はこのオスども全員で探索させるか」
「分隊組ませて、あちこちに送り出すっスね!」
「このダンジョンからゴブリンいなくなるんじゃねぇか?」
そんな会話をしつつ、オスの赤ちゃんを入れる檻Bを広めに作ってあげる。
もうギュウギュウにする必要はない。
英気を養ってくれたまえ。
そのまま作業を終えて管理所へ戻ると、ゆきちゃんがにこやかに出迎えてくれた。
「おかえりー。今日の成果は?」
「魔石72個です!」
ゆきが魔石の品質をチェックする。
「はいはーい、109000円でーす」
「おおぉぉぉ……!」
「1人35,000円超え!」
「10%もらうからねー」
「そうでした……」
まぁゆきちゃんへの上納金を考えても、ここから稼ぎまくるからいいか。
明日はいくら稼げるだろうか。
おら、ワクワクで寝られねぇぞ!
現在のゴブリン牧場の状況(319匹)
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・檻A(ゴブタロウ + メス173匹)
ゴブタロウ
メス89匹
ハーフメス40匹
ホブメス4匹
メス赤ちゃん17匹
ハーフメス赤ちゃん18匹
ホブメス赤ちゃん5匹
・檻B(145匹)
オス70匹
ハーフオス69匹
ホブオス6匹
・処分済み
オス57匹
ハーフ60匹
ホブ2匹
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