第33話: ゴブリンさん、月収100万ですって
ダンジョンの入口ゲートを抜け、俺たちは今日も無言のまま大部屋へと進んでいく。すっかり日課になった作業だが、相変わらず湿っぽくて陰気な通路は好きになれない。
「……あった」
昨日処分したオスたちの魔石が、大部屋の隅にきっちり48個、黒く輝いていた。
「ナイス! じゃ、コハル、いつもどおり──」
「はいっスー!」
コハルが指を鳴らすと、魔石がふわりと宙に浮かび、ビニール袋の中へひとつずつ丁寧に収納されていく。すでに安定の職人技。
「よし、じゃあ次──檻Bだな」
俺たちは魔石入りの袋を手に、例の檻へ向かう。
檻Bには、昨日生まれたオスゴブリンたち──48匹がぎゅうぎゅう詰めにされていた。ぎゃあぎゃあと喚くその様は、もう完全に処分待ち。
「よし、いくっスかー!」
いつものようにコハルが両手を構え──たその時、
「待った!!」
ドン! と地響きのような声とともに、ブタオが片手を前に差し出した。
「お、おう?」
「お前らには黙っていたがな……昨日のレベルアップで、俺の土魔法がLv2になったのだ……!」
「は?」
「刮目せよ! 我が初級土魔法Lv2の力を!!」
得意げに両足を開き、手を前に構えたブタオ。
ふんぬぅぅぅぅぅぅ!!!と全力で気合いを入れると──
ズゴゴゴゴ!!
空中に拳大の土の弾丸がずらりと数十発、列を成して現れた。しかも、すべてが先端鋭く尖っている。威力は見た目以上だ。
「うぉぉぉぉ!?」
「やっば! なんか超強そうっスー!」
……10秒ほど待ったが、ブタオは何もしない。
「……で、これをどうするんだ?」
「うむ、コハルちゃん。これを念力で─飛ばしてくれ!」
「お前が飛ばせないんかい!!!」
即ツッコミ。
空中に出せるようになっただけかい!
いや、すごいけども!
「……俺にはまだここまでのようだ」
「初級の名は伊達じゃないってことか」
それでもコハルは構える。ずらりと並んだ土の弾丸を、念力で一斉に浮かせ──
「そいやっス!!」
バシュンッ!!!
まるでショットガン。鋭い土弾が一斉に檻Bに突き刺さり、悲鳴を上げる間もなく、オスゴブリンたちが吹き飛ぶ。
ズガァァァン!!
地鳴りとともに処分完了。土と血と肉片が壁に張りつき、しばしの静寂。
「……終わった?」
「うん、きれいに片付いたっス」
「ふぅ……つ、疲れた。……やっぱり明日からはコハルちゃん、頼むわ」
「だと思ったっスー!」
ふたりが笑い、俺は苦笑い。
「じゃ、次は……檻Aっスね!」
いつものように意気揚々とコハルが先導し、俺たちは檻Aへと向かった。扉を開けると、ゴブタロウが丸くなってスヤスヤ眠っており、その周囲ではメスたちがせっせと赤ちゃんの世話をしていた。
「よし、出産チェック開始だ」
俺の合図に、コハルが目を輝かせながら檻の上部に手をかざす。
「いっけぇーっス!」
ずらりと宙に浮かぶ、小さな赤ちゃんゴブリンたち。ふわふわと浮かぶその数は……尋常じゃない。
「ちょ、待って待って……これ……」
「めっちゃ多いっスよ!数えるっスー!」
コハルと俺とブタオ、3人で必死に性別と種別を確認していく。
「オス、ゴブリンが33……ハーフが35……え、ホブいるぞ!? 1匹だけど!」
「マジかよ!? えーと、メスは……ゴブリン10、ハーフ9、ホブが1……って、合計……」
「99匹!!?」
コハルが指を突き上げて叫ぶ。
「ハーフだけで44匹……どういうこと!?」
「これ……一気に10万超えたっスよね!? ていうかさ、月の収入が……300万超えたってことじゃないっスか!?」
「月収100万プレイヤー……」
俺が呆然と呟いたそのとき、
「俺が!! 年収1000万超えの男だーーー!!!」
ブタオが両手を突き上げて絶叫する。
「わー! やったっスー! 金持ちっスー!」
3人で小躍りしながら、テンション爆上がりのままぐるぐるとその場で回った。ゴブタロウがちょっとだけ目を開けてこっちを見たが、また眠りに戻った。
「……よし、じゃあ赤ちゃんたちを分けようか」
「了解っス!」
俺たちは赤ちゃんを丁寧に種類と性別ごとに分類し、オスは檻Bへ、メスは檻Aへと分けて収容していく。
──ゴブリン牧場、絶好調。
このままいけば、もしかして来月には……。
「ウチら、ほんとにヤバいとこまで来てないっスか?」
「ヤバい。ヤバいが、これはまだ序章だ」
「うむ。月100万ごときで俺らは止まらんぞ」
「な、なんかカッケェっス!」
コハルちゃん、惚れてくれてもいいんだぜ?
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「ふぅ……今日もよう働いたなぁ」
管理所のカウンターに、俺たちはビニール袋いっぱいの魔石をドサッと置いた。全部で48個。赤く、青く、時に淡く光る魔石たちが、ビニール越しでもしっかり存在感を放っている。
「……」
「……」
「……」
受付嬢・ゆきちゃんは、無言でその魔石たちを見つめていた。
目が細められているわけでもなく、眉が動いているわけでもない。ただただ無表情で、ガン見。
(えっ、なんか……空気ヤバくね?)
(あれっ……? そんな変な量か?)
(え……これ普通の量じゃなかったっスか? いや、昨日よりは増えてるっスけど……!)
俺たち三人は、顔を見合わせ、無言のテレパシーで「おい誰か何とかしろよ!」と押し付け合う。
ゆきちゃんは無言のまま、端末を取り出してパパッと何かを操作し、言った。
「……すごく順調に増えてるね。順調すぎるくらい」
その声はまるで機械のように抑揚がなく、感情の一切を排除したようなテンポだった。
「じゃあ、3分割で振り込んどくね」
そう言うと、またスマホの画面に視線を戻し、指先をスッスと滑らせていく。
「い、いや、あの! コハルさんのスキルがもう、めちゃくちゃ強くてですね! 処理速度とか、その、はい、スキル性能がぶっ壊れてて!」
俺が慌てて弁解を始めると、ゆきちゃんはスマホをいじりながら、「ふーん」とだけ言った。
その一言に、言い訳が喉で詰まる。
(……あれ? これもう、完全に疑われてるやつ……?)
(明日、さらに数増える予定なんだけど……)
(これ、マジでヤバいやつっス……?)
三人の間に、沈黙が落ちた。
──現金だけが、静かに口座に振り込まれていく。
現在のゴブリン牧場の状況(171匹)
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・檻A(ゴブタロウ + メス101匹)
ゴブタロウ
メス65匹
ハーフメス15匹
ホブメス1匹
メス赤ちゃん10匹
ハーフメス赤ちゃん9匹
ホブメス赤ちゃん1匹
・檻B(オス69匹)
オス33匹
ハーフ35匹
ホブ1匹
・処分済み
オス43匹
ハーフ15匹
ホブ1匹
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