第32話: ゴブリンさん、さらに大きい赤ちゃんですよ!
「おっはよーございまーすっス!」
コハルの快活な声が、朝のダンジョン管理所に響き渡る。
プレハブのドアを開けると、ゆきがいつものようにスマホをいじりながら片手を上げた。
「おはよー。……今日も元気だね」
「もちろんっス! 今日もバッチリ働くっスよー!」
俺とブタオも軽く会釈をして「行ってきまーす」と言い残し、ダンジョンへと向かった。
──
ダンジョンゲートをくぐり、湿った空気に包まれる。
いつもの通路を抜け、大部屋へと向かうと──昨日、処分したゴブリンの死体を積んでいたあの隅に立つ。
「おっ、あるある」
ブタオが声を上げる。
地面には、昨日までゴブリンだった存在の残滓──黒く輝く魔石が、ずらりと並んでいた。
数えると、ちょうど42個。
「おおお……! これは気持ちいいやつっス!」
コハルが両手を広げて、にっこりと笑う。
「じゃあ、回収お願いね」
「任せるっス!」
コハルが構えた指先から、ふわっと空気が揺れる。
魔石がゆるやかに浮き上がり、まるで列車のようにビニール袋へと吸い込まれていく。
「ぽいっ、ぽいっ、ぽいっス〜……はい、回収完了っス!」
器用に念力で42個をすべて袋に収めたコハルが、満足そうに腰に手を当てる。
「……ところでさ」
俺がふと思いついて呟いた。
「ハーフの魔石って、いくらなんだろうな?」
「うーん、普通のゴブリンが1000円っスからね。ハーフなら……同じくらいっスかね?」
「ホブの半分として1500円くらいだったら嬉しいんだけどな」
「でもまあ、42個あれば1000円でも一人14000円は確定だぞ」
「よっしゃ! もうやる気しかないっスー!!」
気合いを入れ直した俺たちは、魔石の袋を手に、大部屋の奥──今日もぎっしり詰まっているであろう檻Bへと向かっていった。
檻Bに着くと、そこにはぎゅうぎゅうに詰まったオスゴブリンたちが、相変わらず喧しくうごめいていた。
「今日は……48匹っスね」
コハルが肩を回しながら数を確認する。
「じゃ、殺処分お願いします」
俺がビニール袋を置いてから合図を出すと、コハルが両手を掲げる。
「よっしゃ、まとめて行くっスよー!」
ビュン、と空気が唸った瞬間、オスゴブリンたちが一斉に宙に浮かび──
「発射っスー!」
──ドゴォォォォン!
バゴォン、グシャア、ズザァッ!
壁に激突し、音を立てて崩れ落ちていくオスゴブリンたち。
見事に大部屋の隅に重なるように落ちていくその様子は、もはや処分芸の域だった。
「お見事……!」
「ありがとっスー!」
その瞬間、頭の中にビリリとした感覚が走る。
「……あっ、レベル上がった」
「俺も」
「自分もっス!」
3人同時にレベル4に到達したのだった。
「うおおっ! なんか体が軽いぞ!?」
突然、ブタオが勢いよく地面を蹴って──
「見よ! 我が奥義!!」
ズババババッ!!
デブにしてはものすごいスピードで、反復横跳びを決めるブタオ。
「ちょ、おまっ……動き早っ!?」
「うおおお、これが動けるデブっスか!!」
俺とコハルが目を丸くして見つめる中、ブタオは満面の笑みで動き回る。無駄に躍動していた。
うん、すごくどうでもいい。
「さて、次は檻Aだな……」
浮かれすぎるブタオを連れて、俺たちはメスの檻Aへ向かう。
ゴブタロウは今日もどっしりとした体で、檻の奥で昼寝中だった。
「じゃ、いつも通りいくっスねー!」
コハルが開口部に手をかざすと、赤ちゃんゴブリンたちがふわりと浮かび上がる。
「わぁー……今日は多いな……」
空中にずらりと浮かんだ赤ちゃんの数、全部で74匹。
「じゃ、性別チェック行きまーすっス!」
くるりと指を回すと、赤ちゃんたちが整列して、股間をこちらに向けてくる。
「オス、オス、オス、……メス、メス、でかっ!」
「あ、これもデカい」
次々と確認していくうちに、コハルの表情が変わっていく。
「オス59匹、メス15匹──で、そのうちオスで16匹、メスで8匹が、ちょっと大きめっスね」
「ハーフさんのご入場でーす!」
「でも、さらにその中に、ひときわデカいやつが1匹ずつ、オスとメスにいるっス!」
「これ……ホブじゃね?」
「マジでか」
浮かんだ2体は、他のハーフよりも明らかに一回り大きい。
「これはもう、確定でいい気がするな……」
「ホブゴブリン、こいつだけで3000円……じゅるり」
「じゃ、とりあえず振り分けるか」
「オスは檻Bへ、メスは檻Aに戻すっス!」
コハルが丁寧に浮かんだ赤ちゃんたちを仕分けていく。
ホブと思われる個体も、他と同様に慎重に檻へ移されていく。
すべての作業を終えた俺たちは、魔石がパンパンに詰まったビニール袋を手に、ダンジョンをあとにした。
「今日も……いや、全然働いてる気がしないわ」
「1日1時間の簡単なお仕事です」
「これが勝ち組ってやつっスね!」
管理所のプレハブへ戻ると、いつものようにカウンター越しでスマホをいじっているゆきが、ちらりと俺たちを見る。
「おかえりー。今日も稼いだ?」
「任せてください。今日は42個!」
ビニール袋をドンとカウンターに置くと、ゆきがスマホを置き、ゆっくりと立ち上がる。
「ふむ……」
手際よく中の魔石を一つひとつ確認しながら、数を数えていく。
「……40、41、42。たしかにあるね」
ここまではいつも通り──だったのだが。
「……あら?」
ゆきの手がふと止まり、眉をひそめた。
「これ、ちょっと品質がいいやつが混ざってるわ」
そう言って、2つの魔石を他と並べて比べて見せてくる。
確かに、わずかに大きくて、光り方が微妙に違う。
色も少しだけ深い黒というか、艶が強い感じだ。
「この2個、普通のゴブリンじゃないわね。ホブよりは下だけど……その間くらいかな」
「ま、まじっスか……?」
コハルがわざとらしく反応する。
「……で? これ、どこで拾ったの?」
ゆきの問いに、俺とブタオが思わず目を合わせた。
隠すか、言うか──一瞬悩んだ末に、ブタオが先に口を開いた。
「に、2階です! ちょっと大きめのがいて……たぶん、そいつのかと!」
コハルも慌てて頷く。
「そ、そうっス! なんかちょっとデカいやつだったっス!」
ゆきはしばらく俺たちをじーっと見つめた後、ふっと肩をすくめた。
「……ふーん。まあ、気をつけなよ。質がいいってことは、それだけ強いってことだからさ」
「は、はいっス!」
コハルがピシッと姿勢を正す。なぜか俺たちもつられて姿勢が正された。
「この品質だと、1個2000円かな。他は1000円として──」
ゆきが電卓を叩いく。
「合計、44000円ね」
「よっしゃーー!!」
俺たち3人がガッツポーズ。
ハーフさん、ごちです!
「3人で割って……14000円ずつ。で、残りの2000円は……」
「じゃんけんっスね!」
ジャンケンは俺だけ負けた。
いつ勝てるんだろう。
ぐすん。
「じゃ、振り込んでおくから」
「あざっスー!」
そうなのだ。
今日から現金で渡すのをやめて振り込みにしてもらう。
銀行アプリで残高を見るのが趣味になっちまうなぁ?
明日もいっちょ稼いだろう!
現在のゴブリン牧場の状況(141匹)
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・檻A
ゴブタロウ
メス58匹
ハーフメス8匹
メス赤ちゃん7匹
ハーフメス赤ちゃん7匹
ホブメス1赤ちゃん匹
・檻B
オス43匹
ハーフ15匹
ホブ1匹
・処分済み
オス44匹
ハーフ4匹
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