第31話: ゴブリンさん、ハーフですって
「おっはよーございまーすっス!!」
プレハブのドアが全力で開き、コハルのテンションも全力だった。
昨日とは打って変わって元気いっぱい。やっぱりこの子はこうでないと。
「おはよー……なんか今日は普通に元気だね」
ゆきがスマホをいじったまま、ちらりと目だけこちらに向けて言う。
コハルはガッツポーズで応える。
「今日は寝たっスからねー! コンディションばっちりっスー!」
俺とブタオも「おはようございまーす」と軽く頭を下げて、いつものようにダンジョンへ向かう。
──湿った空気と薄暗い空間が出迎えるダンジョンの中。
通い慣れた道を進み、大部屋へ向かう。
「昨日のやつ、ちゃんと残ってるかな?」
そう呟きながら、大部屋の隅──昨日、処分したオスゴブリンたちを積み上げていた場所に目を向ける。
「おお……!」
黒く輝く魔石が、ちょうど39個、土の上に散らばっていた。
死体はすっかり消えている。毎度のことながら、ダンジョンの処理能力には感心する。
「39000円ーっス!!」
コハルが満面の笑みで両手を広げる。
「うお、こっちもテンション上がってきたな……」
「回収、任せるっス!」
そう言うと、コハルがぴっと指を鳴らし、魔石を浮かせた。
ふわふわと浮遊するそれらを、一点にまとめていく。
「か〜め〜は〜◯〜……!」
両手を組み、腰を落として構えだすコハル。
ノリノリで溜めポーズを取り始めた。
「……まさか! 来い!」
俺はノリでビニール袋を横に構え、身を低くして臨戦態勢。
「はっ!!」
ドゥン!
まとめられた魔石が音速でビニール袋に飛び込み──
ビリィィィィィ!!
「うわっ!? 破れた!!」
袋が中から破れ、魔石が俺の後方にぶちまかれる。
「…………」
「…………」
俺とコハル、無言で顔を見合わせる。
「お前らさっさと集めろー」
ブタオのツッコミが場の空気を戻す。
「す、すみませんっス……」
コハルが頬を赤らめてぺこりと頭を下げる。
「じゃあ、次は……ゆっくりいくっスね……」
今度は念力でひとつずつ丁寧に浮かせて、別の袋にポト、ポトと魔石を入れていく。
一度くらい……やったっていいじゃない!?
魔石の回収を終えた俺たちは、次の目的地へ向かう。
いつもの──いや、ちょっとした地獄──檻Bからだ。
「さて、今日も元気にいってみようかーっス」
コハルが片手を上げて気合いを入れる。
その視線の先には、ギュウギュウに詰め込まれたオスゴブリンたちがうごめく檻B。
──40匹。
成体化したばかりの連中が、狭い空間の中でぎゃあぎゃあ喚いている。
「じゃ、処分よろしくっスー」
ブタオが檻の土をスッと消す。
すると、すかさずコハルが両手を構えた。
「せーの……ぽいっスー」
ビュン!!
40匹のオスゴブリンが、一気に空中へ持ち上げられ──
そのまま、一直線に大部屋の隅の壁へ。
ドゴォォォン!!!
「はい、終了っス!」
一連の動作が、もはや慣れすぎていて怖い。
「「あざっスー!」」
一瞬で処分は完了。
俺たちはそのまま、隣の檻C──大きい赤ちゃんゴブリンの檻を確認する。
「おー、やっぱ成体になってもでかいぞ!」
檻の中には、明らかに他のオスよりも大きく、だがホブほどではない中途半端なサイズのゴブリンが2匹。
「……これって、ホブか?」
「うーん、なんか微妙っスね?」
「ゴブタロウがホブになるまでの微妙な大きさの時と同じじゃね?」
「じゃあ違うか」
ブタオが腕を組んで唸る。
「間をとって、ハーフって呼ぼうぜ」
「お、それいいっスね」
「ホブ未満、ゴブ以上……ハーフゴブリン。決定」
名前が決まったところで、処分へ。
「じゃあ、コハル先生いつもの」
コハルは片手をひらひらと振って応える。
「おまかせあれっスー」
ズズン!
2匹のハーフも、宙に舞ったかと思えば、壁に激突して静かに沈んだ。
「いいよいいよー! 調子でててるよー!」
「いよ! 日本一!」
そんなおふざけをしながら、次は檻A──メスゴブリンたちの拠点へ向かう。
「おお……成体化してるな、メスのハーフ」
檻の奥、いつものメスたちに混じって、やや体格の大きい個体が2匹、こちらをじっと見ている。
「こっちはちゃんと女の子だし、かわいく見えるっスね〜」
「いや、ブスにしか見えません」
「目をつぶってもヤれません」
俺らのツッコミを無視して、コハルは柵越しに手を振っていた。
「……ハーフとホブから生まれてくるゴブリンって、どっちになるっスかね?」
ふと、コハルがまじめな顔をして訊いてきた。
「基本はハーフで、低確率でホブじゃね?」
「ホブとホブなら?」
「そりゃホブだろ」
3人、黙りこくる。
「ゴブタロウがんばれぇぇぇ!!」
「ハーフを作るんだぁぁぁ!!」
「ホブとホブでホブ産んでぇぇぇぇぇ!!」
なぜか団結した俺たちは、檻の奥で寝そべっていたゴブタロウに向けて両手を突き上げた。
3000円の魔石製造機を作るのだゴブタロウよ!
ゴブタロウは……ぶぅっと屁をこいて、寝返りを打った。
「おーい……聞いてるかぁぁぁぁぁ!!」
大部屋には、今日も平和なエールが響いていた。
「さて、じゃあ今日もいくっスよー!」
コハルが両手を広げると、檻Aの上部に開けた開口部から、ふわりと赤ちゃんゴブリンたちが浮かび上がる。数は多い。いつにも増してピィピィとうるさい。
「わー……これは多いな」
「数、えぐくないっスか……?」
浮かび上がった赤ちゃんゴブリンたちは、くるくると空中で回転しながら、ゆっくりと整列していく。いつもの空中整列モードだ。
「じゃ、性別チェック入りまーすっス!」
コハルが指をくるりと回すと、赤ちゃんたちの股間がひとりでに前を向く。念力スキル、もはや完璧な精度である。
「オス、オス、オス……っと。お、これはちょっとデカいっスね……オス! オス! ……メス! メス! おっきいメス!」
浮かんだ赤ちゃんたちを次々にチェックしていくコハルの声が、段々とテンションを上げていく。
最終的な結果──
「オス48匹、メス12匹っス! で、オスのうち4匹、メスのうち6匹が……ハーフっぽいっス!」
コハルが目を輝かせながら、指差す。
「ちょっと……メスのハーフ、多くない?」
「ゴブタロウ……やるな……」
「お前、天才か……」
3人で黙ってゴブタロウに拍手を送る。
彼はというと、ぐぅぐぅいびきをかいている。たぶん何も考えてない。
いや、エロいことしか考えていない。
「さて、どう振り分けるっスか?」
「オスのハーフも処分対象だし、普通に檻Bでいいな」
「そだな。メスは、檻Aに戻して増やしていこう」
コハルが念力でふわっとメス12匹を持ち上げ、そっと檻Aの中へ戻していく。
続いて、オス48匹も順番に檻Bへ──ギュウギュウだが、詰め込みは完了した。
「……これ、手作業だったら地獄だな」
「いやほんと、コハルがいてくれて助かってるわ」
「へへっ、もっと褒めていいっスよ!」
ニッコニコのコハルが、得意げにピースサインを決めていた。
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すべての作業を終え、俺たちは魔石入りのビニール袋を提げて管理所へと戻った。
「たっだいまっスー!」
「おかえりー」
ゆきがスマホから目を離さずに答える。
慣れすぎていて、逆に安心する。
「今日の魔石は……39個です」
「えっ、そんなに?」
カウンター越しにゆきが目を丸くした。
「……なんか危ないことしてる?」
「いやいや、正攻法ですって!」
「むしろ超地道な作業っス!」
そう言いながら、ビニール袋を差し出すと、ゆきは中身をチェックし、お金をカウンターに並べていく。
「39個ね、じゃあ39000円。そろそろあんたら振込にしない?」
「あ、振込ってできるんですね」
「当たり前でしょ。何百万も現金なんか置いてらんないよ」
「そりゃそうか。明日銀行の番号教えます」
「よろしくー」
俺とゆきちゃんのやりとりを横目にブタオとコハルはテンションが上がっていた。
「3人で割って……1人13000円!」
「うおおお、今日も大勝利っスー!」
ゆきが無言でサムズアップしてくる。
あれはたぶん、最大級の褒め言葉だ。
「よーし、明日もよろしくっスー!」
「おう、頼むぞ!」
「こちとら養われてんだからな!」
──そして、俺たちは今日も、それぞれの帰路についた。
明日もまた、ゴブリン牧場は絶好調。
現在のゴブリン牧場の状況(110匹)
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・檻A(ゴブタロウ、メス52匹、ハーフメス2匹、メス赤ちゃん6匹、ハーフメス赤ちゃん6匹
・檻B(オス44匹、ハーフ4匹)
・処分済み(オス40匹、ハーフ2匹)
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