第24話: 妹さん、テンション高いっス
「おっはよーございまーすっス!!」
いつものプレハブのドアが開いた瞬間、元気すぎる声が飛び込んできた。
「っ……でかっ!?」
俺とブタオが同時にたじろぐ。
カウンターの向こうには、今日もスマホをいじる受付嬢・ゆき。
その横に立っていたのが、今日の新人探索者だった。
ポニーテールを高く結んだ少女。
ドンキモーテで買ったのかと思われるジャージの上下。
そして、終始満面の笑みを浮かべて、身体を揺らしながら手を振っている。
「姉ちゃんの妹の小春っス!! 今日はよろしくお願いしまっス!!」
「妹のこと、よろしくねー」
ゆきがスマホから顔を上げて、淡々と言った。
「初対面なのにこのテンション……」
「ゆきたそとのギャップが酷いぞ」
ブタオが小声で呟いた。
「今日からこのダンジョンでバッタバッタとモンスターをやっつけるっスよー!」
「っスの密度が高い」
「よろしくな、コハルちゃん」
「ふたりはなんて名前っすかー?」
「あ、俺は佐藤だけどボンって呼んで」
「ブタオっす」
「語尾うつるなや!」
「いや、今のは自然と……」
「じゃ、行ってらー」
ゆきがいつものように棒読みで送り出してくれる。
その隣では、コハルちゃんが「行くっスー!」と勢いよくガッツポーズ。
──こうして、俺たちのゴブリン牧場を守るための最重要任務が、始まった。
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ダンジョンゲートをくぐった瞬間、ひやりと湿った空気が肌にまとわりつく。
「うおっ、なんスかこの空気! じめじめ感、すごいっス!」
コハルが鼻をすんすん鳴らしながら、辺りを見回す。
頭の上で揺れるポニーテールが、いちいち元気そうで眩しい。
「まあ俺も最初は嫌だったけど、今はもう慣れたわ」
「青カビでも生えてそうな空気だよな」
「え、それはやめてほしいっス!」
キャッキャとテンション高く歩くコハルの姿を横目に、俺とブタオは小声で話す。
「……この感じ、マジで牧場バレたらヤバいぞ」
「何があっても、あの大部屋には近づけさせるな」
決意を固めたところで、コハルがクルッと振り返ってきた。
「ところで先輩たちって、どんなスキル持ってるっスか?」
「……いや、俺たちは特に戦闘スキルとかじゃないんだけど」
「せいぜいバットとナイフでなんとかしてるくらいっスね」
「原始的っスね!? 体育会系って感じっス!」
「で、コハルちゃんのスキルは?」
「あ、自分は《念力》っス!」
「念力?」
「はいっス! 手を触れなくても、ちょっとだけモノを動かせるっスよ!」
そう言いながら、コハルは通路脇の小石を指差した。
「──んっス!」
次の瞬間、指先の方向から「ぴょいっ」と人の頭くらい大きい石が浮かび上がり、ひゅいっと目の前まで飛んできた。
「おぉ……」
「マジで動いてる……!」
「すごいっスか!? まだどこまでできるか全然わかってないっス!」
コハルは得意げに胸を張った。
その様子は、まるで飼い主に褒めてもらいたいワンコのようで──正直、ちょっとかわいい。
「……これ、めっちゃ強いんじゃね?」
「俺らが100人いても勝てない気がする」
「へへっ、今日はこのスキルで活躍するっスから、よろしくお願いしまっス!」
「お、おう、よろしく」
笑顔と元気だけで圧倒してくるこの新人に、俺たちはすでに押され気味だった。
ダンジョン内を歩き始めて、そろそろ10分。
「わーっス! 本当にダンジョンって迷路みたいっスね〜! どこまでもジメジメしてるっス!」
コハルは全身を使って楽しそうに歩いている。
テンションだけは全階層突破クラスだ。
「いやぁ、最初のころはマジで地図もなくて困ったよな」
「方向音痴の俺らが道覚えるって、もはや奇跡っスよ」
などと会話をしながら、目の前に通路の分岐が見えてくる。
左に進めば──俺たちの禁断の牧場エリア。
右は──普通にダンジョンの道が続く。
「さて、ここが最初の分岐……っスね?」
コハルがきょろきょろと首を動かして言った。
ブタオが慌てて前に出る。
「お、こっちはダメっスよー!」
「そうそう、この先はなー……その、魔物の繁殖エリアだから、あんまり立ち入らない方がいいっス!」
「繁殖エリアっスか!? うわー! 想像するとちょっと……エグいっスね! じゃ、いくっス!」
「いやいやいや! 危ないから! 今日のところはやめときましょう!」
「んー、そこまで言うならやめとくっス!」
コハルが顔をしかめてピョンと一歩引いた。
(危ねぇ……! 引いてくれた!)
心の中でハイタッチ。想定ルートへの誘導成功である。
「じゃあこっちの通路に行くっスね!」
「うんうん、その先にちょっとした広場があるから、今日はそこで訓練っスね」
「やったー! バトルの予感っスね〜!!」
コハルがスキップ混じりに通路を進んでいくのを見ながら、俺たちはそっと安堵の息を吐いた。
「作戦、第一段階クリア……!」
「マジで良かった……いや、偽装してるから問題ないかもだけど……」
「次は、いかにここだけで満足させるかだな」
「さっさとゴブリン倒して、レベルアップさせて帰ろうぜ」
「了解」
俺たちは目配せをして、次の対応に頭を切り替えた。
広場に入ってすぐ、奥から足音が聞こえてきた。
ギャッギャッ、とけたたましい声とともに、ひときわ小柄なゴブリンが姿を現す。
「来たっスねー! これがゴブリンってやつっスか!」
コハルがぱっと顔を上げ、目を輝かせる。
俺とブタオはさりげなく後方へ下がった。
「よし、コハルちゃん! 君ならいける!」
「がんばえー!」
ゴブリンは目の前の人間──コハルに気づき、ギャッと叫んで突進してくる。
だが、コハルはびくともしない。むしろテンションが上がっていた。
「ふんっス!」
そう叫ぶと、足元にあった石がふわりと浮かび上がる。
人の頭ほどの大きさの石が、宙に舞ったかと思うと、すさまじい勢いでゴブリンの顔面に飛んだ。
──ドゴッ!
鈍い音が響き、ゴブリンの体が宙を舞う。
そのまま壁に激突し、ぐったりと倒れた。
「……え、終わった?」
「いや、はやすぎだろ」
俺とブタオがぽかんとする中、コハルは勢いよく振り返って、ポーズを決める。
「どうっスか!? 念力スキル、いい感じっスよね!?」
「いやいや、いい感じどころじゃないって」
「ていうか威力ヤバくない? 今のノックアウトどころじゃなかったぞ」
ブタオが倒れたゴブリンの様子をうかがいながら言った。
「……やだー、即死じゃないですかー」
「へへっ、これなら何体でもイケるっス!」
嬉しそうに笑うコハル。
この子、かなりやれるかもしれない──というか、俺らより強い。
「先輩たちの出番、次っスよね!?」
「いやいや、今日はコハルちゃんが主役だから」
「そうそう、俺らは見守る係ですので」
とっさに返す俺たちに、コハルは「了解っス!」と元気に笑ってみせた。
「じゃ、次のゴブリン探しに行くっスよ!」
テンション高くスキップ気味に通路を駆けていくコハルを見送りながら、俺はブタオに小声でつぶやく。
「……あの子、将来大物になるな」
「養ってもらいたい」
「あの子と一緒に住めるか?」
「1日でギブアップするわ」
コハルの背中を追いながら、俺たちはただ、静かに歩き出した。
現在のゴブリン牧場の状況(40匹)
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・檻A(ゴブタロウ、メス22匹(赤ちゃん3匹))
・檻B(オス17匹)
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