第22話: ゴブタロウ、ちょっと成長
「おっはよーございまーす!」
プレハブの扉を開けた瞬間、ブタオの元気な声が室内に響く。
受付カウンターでは、いつものようにゆきがスマホをいじっていた。
顔は上げないが、聞こえてはいるらしい。
「おはよー」
「今日もゴブリン退治、行ってきまーす」
「はいはい、がんばって」
軽く返してくれるあたり、機嫌はそこそこ良さそうだ。
というか、もしかしてちょっと優しくなってないか?
ブタオが嬉しそうに言う。
「よーし、今日もゆきちゃんのために稼いできますか!」
「あんたらが頑張っても私の給料は変わらないけどね」
スマホを見ながらだが、顔がゆるんだ気がした。
「じゃ、行ってきまーす」
「死なないでねー」
その言葉を背中に受けながら、ダンジョンのゲートをくぐる。
ダンジョンの空気はいつも通り、じっとりと肌にまとわりついていた。
薄暗い通路を15分ほど歩き、俺たちは今日も大部屋──俺たちのゴブリン牧場にたどり着く。
まずは朝イチ恒例、処分作業から。
「よし、檻Bのチェックいくぞ」
「今日はオスが九匹……なかなか多いねぇ」
昨日まで赤ちゃんだった連中が、今はギュウギュウの小型檻の中で成体としてうごめいていた。
これを処理して、魔石を九個。今日の売上、ひとり四千五百円。
「じゃ、いきまーす」
俺はいつものようにナイフを構え、順に心臓を狙って突き刺す。
処分も魔石回収も、もう手慣れたものだ。
ブタオが汗をぬぐいながら言った。
「……いやぁ、ナイフでいけるこのサイズ感、ほんと正解だなぁ」
「武器屋で買った槍、出番がなくて悲しんでます」
「ぶっちゃけ、もう飾りでいいわ」
二人で笑いながら処理を終えると、魔石を袋に詰めていく。
「よし、九個ゲット。九千円なり」
「ちょっとした日雇いバイトより効率いいな」
「時給五千円近いな」
ほんとに改めて思う。
この牧場、チート級の稼ぎ方だ。
毎日収入が上がるってエグすぎるぞ。
処分を終え、俺たちはメインの檻──檻Aへと足を運ぶ。
「さーて、出産チェックいきましょうかね」
中を覗き込んだ俺は、ふと、違和感に気づいた。
「……おい、ブタオ。ゴブタロウなんだけど……」
「え? ──あ、あれ、ゴブタロウ?」
一番奥、メスゴブリンたちの間に立っていたオス。
そう、俺たちの種馬こと“ゴブタロウ”が──なんか、ちょっとだけ、デカくなってた。
「え……? 気のせいじゃね?」
「いやいやいや、絶対前より肩幅広がってるって」
「あいつ……成長してやがる……!」
「ていうか、顔つきもなんか……どことなく貫禄あるような」
「ひと回りくらいは絶対に大きくなってるぞ」
もしかしたら、レベルアップしてるのかもしれない。
飼育スキルの影響か、それとも自然な成長か。
だが、ひとつだけはっきりしていた。
──ゴブタロウ、ちょっと強そうになってる。
「これが飼育スキルの影響か?」
「檻を壊して脱走とかありえんのかな」
「怖いから、檻の強度強くしとくか」
「了解」
ブタオが土魔法で檻の強度を強くしてくれる。
見た目がなんも変わってないので、俺からは何が変わったのかわからないが。
少しだけビビりながら、俺たちは出産チェックへ移る。
檻Aの中では、昨日妊娠していたメスゴブリンたちが、ややぐったりした様子で休んでいる。
その足元には、小さな体がぽつぽつと転がっていた。
「ひい、ふう、みい……よくわからん」
「数えるのが面倒になってきたな」
ブタオと一緒に、毎度おなじみの物干し竿セットで赤ちゃんゴブリンたちを移動させていく。
檻を一部消し、サクッと赤ちゃんゴブリンを回収する。
「それじゃあ確認してくぞー」
1匹目──オス
2匹目──オス
3匹目──オス
4匹目──オス
5匹目──オス
6匹目──オス
7匹目──オス
8匹目──オス
9匹目──オス
10匹目──オス
11匹目──オス
「……お、おい、やばいって、今日……」
「まさかの全滅か……?」
12匹目──
「……メス!」
「うおおおおおおおお!」
13匹目──
「メスううううううう!」
「生還者二名!」
14匹目──
「元気な女の子ですよ!」
「生還者三名に増えました!」
15匹目──
「あわびでございます!」
「ギネス新記録ですね!」
メス四匹。
昨日に引き続き、順調に増えている。
これでメスの数が十九匹になった。
メスがこれ以上増えなくても、月の売り上げは五十万を超えるだろう。
おいしすぎる!
赤ちゃんオス十二匹は、昨日と同じく長細い土檻に並べて収容する。
いつもならここですぐ帰るのだが、ゆきちゃんに何か疑われそうなので時間を潰す。
「ブタオ、土魔法で椅子作ってくれ」
「お、いいな。リクライニングできるの作ってやるよ」
ブタオが作った椅子に座ってみるが、固い。
明日クッションでも持ってこよ。
2時間ほど時間を潰したところで管理所に戻る。
「ただいま戻りましたー」
「魔石は?」
「今日は九個です!」
「ふーん、順調だね。レベルはもう上がったの?」
「今は二人とも2っすね」
「なら大丈夫かな」
「?」
なんだろうか。
というかゆきちゃんとここまで会話したの初めてな気がする。
ゆきちゃんが千円札を9枚、取り出しながら話した。
「私の知り合いに新人が一人いるんだけどさ、面倒見てよ」
これはよろしくない流れだ。
俺らの牧場は見られるわけにはいかないぞ。
「面倒とは?」
「レベル2になるまででいいから一緒に行動してあげて」
「僕らも新人なんですけど」
「まあ一階を回るくらいなら問題ないでしょ」
「それよりなんで僕らなんです? もっと他に適任者がいると思うんですけど」
「このダンジョンに来るのなんてあんたらだけだよ。他に知り合いもいないし」
「うーん、でもなぁ」
ここは遠慮させていただこう。
そう思って断ろうと口を開きかけた時。
「お願い」
「「喜んで!!」」
なんてことだ!
二人して自然と言葉出ているではないか!
いつもスマホ見ながら気だるそうにしているゆきちゃんが、手を合わせて頭を傾けてあざといポーズをするとこんなに破壊力があるとは。
ギャップってやばい。
「じゃ、2日後なんてよろしくー」
「あ、はい」
秒でいつも通りのゆきちゃんに戻ってしまった。
騙された感が半端ない
え、ゴブリン牧場どうしよ?
現在のゴブリン牧場の状況(三十一匹)
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・檻A(ゴブタロウ、メス十九匹(赤ちゃん四匹))
・檻B(オス十一匹)
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