第21話: ゆきちゃん、ちょっと怪しむ
「ついたぞー、青梅ダンジョン!」
ブタオの軽バンがガタガタと音を立てて、プレハブ前の駐車スペースに滑り込む。
「毎日が給料日ってのは、やっぱ気分いいよな」
「わかる。なんか、生活が安定してきた感じする」
「今メス、十二匹?」
「昨日の出産で二匹増えたから出産したのは十匹だな」
「ってことは……明日は一万円は確定か」
「諭吉さんちーっす!」
「今って一万円札は渋沢栄一って人らしいぞ」
「渋沢って何した人なんだろ」
「知らね」
車を降り、いつものプレハブ──【青梅ダンジョンゲート管理所】へ。
ガラッと扉を開けると、受付嬢のゆきちゃんがいつもの定位置でスマホをいじっていた。
「おはようございます!」
「今日もゴブリンとお友達になってきます!」
「……うるさ」
ちらっとだけ顔を上げたゆきだが、すぐにスマホに戻ってしまった。
最初からそっけない子だったけど、慣れると特に何も感じない。
むしろ、なんかいい。
「行ってらっしゃーい」
ゆきちゃんの見送りを後ろに、俺たちはダンジョンの光の中へと入っていった。
ダンジョンの空気は、いつもどおり湿っていて、少しだけ温い。
この不快感にも、もうすっかり慣れてしまった。
「さて、まずは……殺処分っと」
俺たちは迷うことなく檻Bの前へ。
昨日生まれ、今日成体になったオスゴブリン8匹が、ぎゅうぎゅうに詰まった檻の中でうごめいている。
「行くぞー!」
「はい、一匹目いきまーす」
檻の外からナイフを突き刺し、心臓を一突き。
頭は頭蓋骨があって結構力がいるのよね。
心臓なら肋骨に当たらなければスムーズだ。
「はい、2匹目いきまーす」
「どうぞー!」
──完了。
「次っ!」
テンポよく8体を処理。
もう、完全に作業として成立していた。
「うーん、慣れって怖いね」
「最初あんなにビビってたのにね」
「人間って、怖いね」
処理を終えると、檻を解除し、死体をずらして魔石回収モードへ。
慣れた手つきで心臓を切開し、黒い結晶を取り出す。
「これで、8個」
「今日も確定で8000円……うん、ありがたいねぇ」
袋に詰めてから、俺たちはメインの檻Aへと向かった。
ゴブタロウは今日も元気だった。
檻Aの中では、メスゴブリンたちがややぐったりしているものの、
床には赤ちゃんゴブリンが何匹も転がっている。
「ひぃ、ふぅ、みぃ……じゅういち……じゅうに!?」
「12匹!?」
ブタオの声が、どこか震えていた。
「一日で12匹て……産んだメスって七匹だよな?」
「そのはず……」
「複数匹産まれるのが結構多いんだな」
「さいこうだねぇ」
笑いながら、恒例の物干し竿コンビ大活躍の時間へ。
赤ちゃんゴブリンを順番に移動させて、檻の外へ。
性別確認。
オス、オス、メス!
……オス、メス!、オス……
「やべぇな、この時点で二匹か」
「ここからどうなるか」
……オス、オス、オス……
……オス、オス……
「……メェぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇす!!」
「よよよ!!!」
「最後の一匹もメス!」
「三匹ご新規様でーす!」
いつもこの瞬間が楽しくてしょうがない。
「これで……メス、十五匹だな」
「最低一日保証が一万五千円……月収四十五万……? 一人約二十万弱……!?」
「新卒の給料ですアザース!」
「最近の新卒はインフレで給料上がってまーす!」
「ズルすぎだと滅びろ! でも許す!」
笑いながら、赤ちゃんオス九匹はいつものように新しい小型檻に詰める。
出産したメスたちにはチョコを与え、ゆっくり休んでもらう。
「……にしても、マジで順調だな」
「なあ、ボン。思ったんだけどさ──」
「このままいけば、リスクゼロでレベル上げできるんじゃね?」
ブタオが不意に真顔になる。
「だってさ。このまま行ったら毎日ゴブリン何百匹も産まれることになるじゃん? そいつら殺せば経験値入るなら──」
「うーん、ある程度まではいくんじゃないか?」
「えー、世界最強になれるっしょ」
「流石にゴブリンだからな。深層とかの魔物と比べたら経験値なんてないにも等しいっしょ」
「無理だったかー」
ふたりで、しばらく黙ったあと。
「まぁ別に強くはなりたくないな」
「俺もそうだったわ。わざわざ怪我するリスク負いたくないわ」
そうなのだ。
俺らの目的はお金を稼ぐことであって、強くなることではない。
ダンジョンを攻略している人はすごいと思うが、別世界の話にしか感じない。
このまま誰にもバレず、楽に稼げればそれでいい。
「よし、帰るか」
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「……魔石、8個ね」
「はい!頑張りました!」
「……」
「……」
なぜだろう。
ゆきちゃんが黙っている。
「帰ってくるの早くない?」
まずい
「まだ一時間も経ってないけど」
まずいぞ
「服も綺麗なままだし」
非常にまずいかもしれない
「くんくん。汗臭くもないねぇ」
ちょ、くんかくんかはやめて!
「一階はあんまりゴブリンいないはずなんだけどね」
すません! 今めっちゃ増やしてます!
背中に冷や汗が流れた時、ブタオがアホさ全開で
「あ、なんか五匹くらいまとまってるの見つけました!」
「ふーん、運が良かったねぇ」
それで納得すんのかい!
ゆきは引き出しから五千円札と千円札3枚を取り出した。
ぺたり、とカウンターの上に置かれる。
「「ありがとございまーす!」」
受け取りながら笑顔で頭を下げる俺たち。
何か追加で突っ込まれないようにそそくさと車へ向かう。
「おれナイスアシストだべ?」
「なんか微妙な気もするけど結果良ければなんとやら」
「明日からどうするよ」
「うーん、すぐに帰るのは一旦やめるか」
「そうだな。ゲームでも持ってくか」
「おれ漫画持ってくわ」
二人で暇つぶしに持っていくものを計画して、この日は帰ることにした。
現在のゴブリン牧場の状況(二十五匹)
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・檻A(ゴブタロウ、メス十五匹(赤ちゃん三匹))
・檻B(オス九匹)
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