第17話: ゴブリンさんを処分するための武器を調達するぞ
ブタオから到着の連絡を受け、俺は住んでいるボロアパートを出た。
(……早く、ここからも引っ越したい)
壁は薄い、風呂はカビ臭い、上の階の住人は毎晩なぜか足踏みダンス。
そして──
「うっ、まただ……」
横の部屋から、例のカップルの“夜の営み”が、まだ朝だというのに聞こえてきた。
最初の頃は多少テンションが上がったが、週3ペースで聞いてると、もう完全に騒音。
むしろ、うるさすぎてゴブリンにしか思えない。
「……違うアパートに引っ越したい。築古の木造アパートはダメだ。」
そんなことを呟きながら外に出ると、いつものようにブタオの車が待っていた。
助手席に乗り込むと、彼はサングラスをかけながら陽気に言った。
「ボン、今日はちょっと寄り道しようぜ」
「お前から珍しいな。どこ行くんだ?」
「いや、土魔法で檻を小さくするのはしんどいから何かしらゴブリンを殺せるものを探したくてな。」
「──あ、ああ!」
昨日の重労働は確かに継続性に欠ける。
もっとスマートに、距離をとって、安全に処分できる手段が必要だった。
「よし、《武装堂》行こう」
「了解〜」
ブタオが車を駅前の商業ビルへと滑らせる。
目当ての店は、探索者の間で有名な老舗武器屋──【戦闘用品店《武装堂》】。
ガラス越しに見える店内は、まさに“現代ダンジョン業界”そのものだった。
魔物の素材から作られた剣、槍、ナイフ、盾。
中にはスライムを封入したムチや、ゴーレムの拳を模したガントレットまで並んでいる。
この世界では、魔力を含んだ素材で作られた“専用武器”でなければ、魔物にダメージを与えるのが難しい。
つまり、普通の包丁や鉄パイプでは太刀打ちできないのだ。
だから俺たちが使ってる金属バットやナイフも、すべて《武装堂》で購入したものだった。
ここで売られてる武器は、スキル《鍛治》を持った職人たちが手作業で魔力加工しており、品質も折り紙付き。
「うわぁ……テンション上がるな、ここ」
ブタオは店に入るなり、目をキラキラさせて武器たちを眺めていた。
「ガチの戦士になった気分だな……俺は魔法しか使えないけど」
「お前、昨日スカったじゃん」
「それを言うな!」
冗談を飛ばしながら、俺たちは処分に使えそうな“長物”を探しにかかる。
「うおっ、見ろよボン! サラマンダーの刀!」
ガラスケースの中に、真紅の刀が展示されていた。
刀身が赤黒く光り、炎のような文様が彫り込まれている。いかにも強そうだ。
パネルにはこう書かれていた。
【火属性付与/火傷効果/希少種ドロップ】
【価格:2,000,000円】
「に、にひゃくまん……」
「桁、バグってんのか……?」
俺たちは同時に1歩後ずさった。
「いや、冷静になれ。あの刀じゃ檻の奥届かねぇだろ。バットと変わらん長さだ」
「たしかに……見た目は100点だけどな……」
その後も何本か見て回ったが、どうしても短い。
やはり“突ける”長さが必要だった。
「おっ、あれは……!」
ブタオが指差したのは、壁にかけられた一本の槍。
銀のように輝く槍身に、黒い紋様が走っている。
【ミノタウロスの角槍(強化済)】
【価格:500,000円】
「ご、ごじゅうまん……」
「かっけぇけど……マジで手が出ねぇな……」
そのとき、奥から店員の男性が近づいてきた。
無精ひげの熟練風の男だ。
「何かお探しでしょうか?」
「長物の武器を探してるんですけど」
「お探しの条件、もう少し詳しく伺っても?」
「……あの、基本はゴブリンを相手にしています。近距離は怖いので長い武器だといいなと」
檻の中のゴブリンを殺すためとは口が裂けても言えない。
特に法律で何か決まっているわけではないが、魔物を量産しているなんてよくないことなのはわかる。
「予算は」
俺は少し恥ずかしそうに指を一本立てた。
「……1万、くらいで」
店員は一瞬、絶妙な苦笑を浮かべた。
「なるほど……それでしたら、こちらはいかがでしょう」
彼が棚の奥から取り出してきたのは、見た目がゴツゴツした骨の槍だった。
「ホブゴブリンの大腿骨をベースにした槍で、加工は最低限ですが、突き専用としてはなかなか評判です。初心者の方にも人気ですよ」
「……俺ら、武器までゴブリン尽くしかよ」
「……でも、目的は殺せればいいんだもんな」
スペックを確認すると、長さも十分、重さも軽め、そして何より“予算内”。
「これでいいか。どうせ回収すれば魔石でチャラにできるしな」
「よっしゃ、買っちまおうぜ!」
俺は財布を取り出し、ふとブタオに向き直る。
「……割り勘でいくぞ」
「500円しかない」
「は?」
「昨日、地方競馬場行って全部負けた……」
「なんでそんなもん行ってんだよ!」
「いや、パドック完璧だったんだって!」
「黙れ、ギャンブル中毒が……!」
俺はなけなしの1万円札をそっとレジに差し出した。
「ご購入ありがとうございます。またのご来店を」
新たな武器──“処分槍”を手に、俺たちは静かに《武装堂》をあとにした。
「よし……これで今日の殺処分は、もっと楽になる……はず」
と、自分に言い聞かせながら。




