第16話: ゴブリンさん、魔石の時間ですよ
翌日
朝の空気はまだひんやりしているのに、俺の背中はすでにじっとり汗ばんでいた。
「今日は収穫だな」
助手席でぼんやりつぶやくと、ハンドルを握るブタオがにやにやと笑う。
「なあボン、俺たち今さ、育成、出産、そして──屠殺って感じじゃね?」
「家畜農家の気持ちを今味わってる」
軽口を叩きながら、俺たちは【青梅ダンジョンゲート管理所】に到着した。
プレハブ感満載の建物に入ると、例の受付嬢が今日もスマホをいじりながら座っていた。
「おはようございまーす」
一応、挨拶はする。無視されるかと思いきや、今日は珍しく顔を上げた。
「君たちってもうちょっと魔石持って帰れないの?」
「最大限努力してます」
「ふーん」
「別にノルマとかってないですよね?」
「ないけど」
「が、頑張ります……」
「死なないでねー」
スマホをいじりながらの塩対応は相変わらずだが、なんだか距離が縮んだ気がする。
書類にサインをし、ゲートをくぐる。
「よし、今日も始めるぞ」
薄暗い道をいつも通りに進んでいく。
ダンジョンの大部屋に足を踏み入れた瞬間、俺たちは思わず立ち止まった。
「これはあれだな」
「うむあれだな」
「産まれちゃってますわ」
「ものすごく泣いてますね」
大部屋に入ると赤ちゃんゴブリンの泣き声が大合唱をしていた。
うるさいが、これが俺らのお金に変わると思うと可愛く聞こえてくる。
全部のメスとオスを一匹入れている檻──めんどくせぇ、檻Aと呼ぼう。
檻Aには小さな影がいくつも転がっていた。
「ひーふーみー……」
数えてみると6匹いた。
あれ、めっちゃいるんですけど?
「メスゴブリン4匹なのに6匹とか優秀だな」
「誰か三つ子を産んだな」
「全員が三つ子を産んだら12匹か」
「もうそれだけで生きていけるな」
「よし、回収しようぜ」
赤ちゃんゴブリンが檻の中央よりにいるのでバットは届きそうにない。
だが、我々にはこれがある。
物干し竿ー!(どこかの不思議道具かのように)
今日ここに来る途中でホームセンターで買ってきた。
2.5mはあるから腕を伸ばせば檻の端から端まで届く長さだ。
赤ちゃんゴブリンを物干し竿で一匹ずつ檻の端まで移動させる。
ただ物干し竿一本だと赤ちゃんゴブリンを移動させるのが難しい。
明日もう一本買おう……
なんとか6匹を檻の端まで移動させる。
「ブタオ。頼む。」
「おけ」
ブタオが手を構える。
──ズズッ。
おお、昨日よりもちょいスムーズじゃないか?
こいつも成長してるのか。
檻の下の部分が地面に消える。
俺たちはそそくさと赤ちゃんゴブリンを回収し、檻を元に戻す。
「性別チェック!」
パカッ! ぶらん!
パカッ! ぶらん!
パカッ! ぶらん!
パカッ!
パカッ! ぶらん!
パカッ!
「なんてことだ」
「今日は赤飯だな」
「メスが二匹もいやがる」
「メスが増えるってだけで、テンション上がるな」
「わかる。未来の資産って感じするもん。」
メス赤ちゃんは檻Aに戻しておく。
明日にはまた赤ちゃんを産んでくれる母体となるのだ。
今度はオス赤ちゃんを地面におき、入れるための檻をブタオに作ってもらう。
これを檻Bと呼ぼう。
「よし、今度は母体の確認!」
──妊娠中(進行率:5%)
──妊娠中(進行率:5%)
──妊娠中(進行率:5%)
──妊娠中(進行率:5%)
メスゴブリンは全員妊娠済みだ。
オスゴブリン、ナイス。
こいつにもそろそろ名前をつけてやるか。
シンプルな名前がいいな。
シュバルツ。
いや、かっこよすぎて呼びたくない。
種馬。
間違ってないけど呼びづらい。
めんどくさいな、もういいやゴブタロウで。
ブタオに確認したらなんでもいいとのことだった。
ゴブタロウ、これからもよろしくな。
「さて、ここからがメインディッシュだ」
最後の檻の前に立つと、そこには昨日の赤ちゃんオスたちが、立派な成体になってゴロゴロと寝転がっていた。
「……でけぇな」
「一晩でコレだもんな。やっぱ、飼育スキルってやべぇよ」
オスゴブリンたちは特に暴れることもなく、のびのびと檻の中で過ごしている。
まるでここが快適なシェルターとでも言わんばかりだ。
「で、どうやって殺すよ?」
ブタオが真顔で言った。
「いや、まあ……チョコでおびき寄せて、バットでドーンとか?」
「やってみっか」
──実験①:チョコ誘導バット方式
檻の手前にチロルチョコを1個置いてみると、1匹がのそのそと近づいてきた。
「……よし、今だッ!」
バットを振り下ろす俺──しかし、
「ギャッ!」
「うわっ、手に当たった!」
当たったのは指先だけ。オスゴブリンは一瞬痛がったあと、ものすごく警戒した目でこちらを睨んだ。
「……ダメだ。こっから寄ってこねぇな、もう」
「完全に不審者扱いされてる……」
以降、どれだけチョコを置いてもオスたちは距離を取るようになってしまった。
──実験②:土魔法・サンドニードル
「よし、次は俺の出番だ!」
ブタオが意気込み、手のひらを地面にかざす。
「サンドニードル!!」
「おお! 新技!」
──ズズ……モコ……
地面から、ゆるやかに、ものすごくゆるやかに尖った土柱が伸びていく。
「おせぇ!!」
ゴブリンは余裕で歩いて逃げた。
「使えねぇ……!」
「いや、イメージは完璧だったんだけどなぁ……」
「イメージじゃねぇ、スピードだ!」
「やべえな、どうすっかな」
「土魔法で檻を小さくするとか?」
「んー、やってみるか」
ブタオがうんうん唸りながら、檻のサイズを魔法で徐々に縮めていく。
結構ゆっくりである。
30分くらいかかりそうだぞ。
ゴブリンが身動きできなくなったところを狙って、俺がナイフで──
「いただきまーす!」
1体ずつ頭にナイフをブッ刺して処理していった。
「……はぁぁぁ……疲れた……」
ブタオは汗だくで地面にへたり込む。
魔法で檻を小さくするのは結構負担があるっぽい。
「これ……毎日やれそう?」
「無理。しんどい。コーラ飲みたい。」
「別の処理法、探さなきゃな……」
檻を消してもらい、俺は一匹ずつ心臓から魔石を回収した。
30分くらい休んでブタオの体力が回復したので、ダンジョンを出ることにする。
【青梅ダンジョンゲート管理所】に戻ると、例の受付嬢がいつものようにスマホを見ながらカウンターにいた。
俺はカバンの中から、魔石を取り出す。
カウンターに四個並べてみせると、受付嬢の指がぴたりと止まった。
「……あれ?」
目線がスマホから、こちらの手元にゆっくりと移る。
「今日は、ちゃんと成果あったんだ?」
「ええ、まぁ……多少、命削りましたんで」
とりあえず嘘ついとこ。
「ふーん……」
一拍の沈黙。
それから、受付嬢は──
「……やればできるじゃん」
ほんの少し、口角を上げて言った。
それだけ。
でもそれだけなのに、ブタオはなぜか小声でガッツポーズしていた。
「……リアルデレご馳走様です」
受付嬢はもうスマホに戻っていた。
机の上に置かれたのは四枚の千円札。
これがゴブリンの養殖で稼いだ初めてのお金か。
ブタオと割って一人二千円。
ダンジョンにいた時間は短いので時給にすると千円くらいか。
ダンジョンに潜り始めてから数日で普通にバイトするくらいは稼げるようになった。
メスが二匹増えたから明日は一人三千円。
ニヤニヤが止まりませんなぁ。
現在のゴブリン牧場の状況(十一匹)
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・檻A(ゴブタロウ、メス六匹(赤ちゃん二匹))
・檻B(オス四匹)
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