第13話: ゴブリンさん、妊娠する
ダンジョンの空気は、さっきまでの緊張が嘘のように静まり返っていた。
俺たちは、大部屋の土檻の前でしゃがみ込み、じっと中を見つめていた。
檻の中。
メスのゴブリンは壁にもたれかかってうずくまり、浅く息をしている。
先ほどよりは少し元気が出てきたように見える。回復はええなおい。
「お疲れさん」
思わず、そう声が漏れた。
別の檻の一角では、さっき生まれた赤ちゃんゴブリンが、ぴくぴくと小さく手足を動かしている。
しわしわで、まだ体もふにゃふにゃだ。
だけど──生きてる。
俺はできるかわからなかったが、スキルを発動できるか試してみた。
-------------------------------
【スキル『飼育』が発動しました】
【対象:ゴブリン♀(新生児)】
【効果:成長促進(成体化まで24時間)】
-------------------------------
「おっふ!?」
「どうした!? キモい声あげて!?」
「スキルで赤ちゃんゴブリンの状態がわかった。」
「それで?」
「24時間後に成体になるそうです」
「……」
「……」
「やばくね?」
「やばいわこれ」
ブタオが、檻の外からそっと覗き込んだ。
「すげぇな。飼育スキル、万能すぎね?」
「いや……逆に怖いわ」
「確かに。……でも、まじでゴブリン牧場だな」
ブタオのその一言に実感が湧いてきた。
「……でさ、ボン」
ブタオが背後からひょっこり顔を出す。
「そろそろさ、あのオスとメス──同じ檻に入れたほうがよくね?」
「効率的にはな」
俺も、ちらりとオスの檻の方を見やる。
檻の中のオスゴブリンは、メスゴブリンを見てちょっと興奮している様子。
性欲モンスターか。
「どうやって同じ檻にするよ?」
「んー、間にある土を崩せばいける気がする」
「お、なら頼むわ」
「まかせろ」
ブタオが腕をぐるぐると回しながら、土の仕切り部分の前に立つ。
「間違って全壊させんなよ?」
「わかってるっつーの!」
初級土魔法──発動。
ぐぅぅぅん……という粘っこい音を立てながら、檻の仕切りがじわじわと沈んでいく。
まるで地下に吸い込まれていくように、境界線が溶けてなくなった。
「完成ッ!」
「さすがです!」
檻はひとつになった。
オスとメスのゴブリンは、ついに同居生活の開始である。
「喧嘩すんなよー」
「……あ」
ブタオが、声を上げた。
オスゴブリンが、メスの方にそろりそろりと近づき──
その表情が、変わった。
目をギラリと光らせ、肩を揺らしてメスに向かう。
そして、少しずつ加速しながら──
「え、ちょ、早ない!?」
「うわ、マジで行くぞあいつ!」
メスゴブリンはまだ弱っているのか、逃げようともしない。
オスは、ぬるっとメスに覆い被さり、ぴったりと体を寄せ、腰布を脱いだ。
「始まってる!!」
俺とブタオは目を見開いた。
「何あれ、腰の動きが早すぎる!?」
「やめてくれ、まだそいつは産んだばかりなんだ!」
「でもちょっとメスも気持ちよさそうな声出してるぞ!?」
「和姦なのでセーフ!」
すでに交尾は始まっていた。
と、思ったらオスがブルリと震えて動きが止まった。
「え、終わった?」
「終わったな」
「早漏だったのかお前」
「……俺はあいつをバカにすることはできん」
「……すまん、実は俺もだ」
オスゴブリンはメスゴブリンの横でゴロリと横になり。
寝息を立て始めた。
なんていいご身分なんだ。種馬生活、いや種馬性活か。
メスの状態が気になり、スキルで確認する。
----------------------------
【対象:ゴブリン♀】
【状態:妊娠中(初期)】
【出産予測:24時間後(促進中)】
----------------------------
「うぉぉえええぇぇ!?」
「なんだ!?」
「……妊娠してる」
「はえぇぇぇぇぇ!!!!」
ブタオが盛大に叫んだ。
「だって、今、さっき……だろ? 今、さっきだろ!?」
「スキルが反応してんだよ。妊娠確認済。出産、24時間後だってさ。」
「ボン様、一生ついていきます。」
「千円が手に入る自動システムがこちらになります」
「メスが2匹だから二千円円だな」
「明日、新しいゴブリンが生まれる。しかも、スキル効果でまた……」
「……次の妊娠も、即?」
「あり得る」
俺とブタオは顔を見合わせ、無言でガッツポーズを交わした。
「育てて、産ませて、また育てる……」
「これが、俺たちのビジネスだ」
「明日会社に辞表出してくるわ」
「それがよかろう」
ブタオは仕事を辞めることを決意した。
正直言うとまだ早い気はしているが、仕事の都合で数日空いたりするのが嫌だったので口にはしない。
今はまだ、一日二千円ぽっちの稼ぎだが数を増やすだけだ。
二人で割れば、一人千円。
つまり、メス一匹につき、俺の取り分は五百円ってわけだ。
──でも、メスが十匹なら五千円。
百匹なら……五万円。
現実味が出てきた。
百匹いれば月の収入は百五十万。
魔石の売却益はすでに税金が引かれているから手取りで百五十万……!!
そうなったら借金三千万もすぐに返済できる。
それに百匹以上いたらどうなる?
俺たちは妄想が止まらなくなって2人してゲヒゲヒ笑っていた。




