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二度と酒なんて飲まん! ~そう叫んだダンジョン配信者の元には、今日もアイツらがやって来る~  作者: エクスパーサ小島
エピローグ

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0杯目

 少年は、自分を特別な人間だと思っていた。

 両親は有名なダンジョン探索者。

 小さな頃から充分な英才教育を受け、同年代では敵なし。

 自分こそが次世代の王であり、両親と同じようにダンジョンへ挑み、人類のために貢献するのが当たり前であり、義務だと感じていた。


 きんぎょが家にやってくるまでは。


 きんぎょの強さは、文字通り『格』が違い、少年に芽生えていた幼い自尊心はズタズタに引き裂かれることとなる。

 少年は最初の数ヶ月こそ毎日妹に張り合っていたが、次第にその回数は3日に1回になり、一週間に1回となり、やがて次第に立ち向かうことを諦めていく。

 表面上は仲のいい兄妹であったが、心の距離は離れていく一方であった。


 そんな時である、きんぎょが誘拐されたのは。

 今なら、そんなことは起こり得ない。

 けれど当時のきんぎょは、まだ自分の力をうまく扱えなかった。

 何より、彼女は怯えていたのだ。

 また誰かに迷惑をかけてしまうことを。

 また兄の笑顔を曇らせてしまうことを。

 だから、抵抗できなかった。


 両親は有名なダンジョン探索者で、子供から見ても清廉潔白な善人だったが、全ての人から好かれるなんてことは不可能で、どこかで恨みを買うこともあったのだろう。

 悲しかったが、内心どこかでほっとしている自分もいた。

 それに、そんな事態で幼い子供に出来ることなんてものはなくて。

 だから、両親が警察と相談したり、なんだか良く分からないけど政治家みたいな人とか、戦闘のプロフェッショナルみたいな人たちを呼んでいるあいだは手持ち無沙汰で、なんとなく暇つぶしにきんぎょの部屋に向かい、そこにあったきんぎょの日記を読んでしまう。


 そこに書かれていたのは、彼女がこの家に来てからのものだった。


『じぶんが、どこから来たのかもわからない。不安で、こわかったけど、同い年くらいの男の子が手を引いてくれた。やさしい、なんとかやっていけそうかも』

『あの男の子はどうやら私の兄になるらしい、ずっといっしょにいられるんだ、すごくうれしい』

「……」

 そこに書かれていたのは、少女がこの家に来てからの日々。

 記憶もないままダンジョンの奥底で発見され、自分が何者かもわからないまま生きていくことを余儀なくされ、そんな状況で頼れる人に遭えた喜びの日々。

 それが、ページを捲るごとに、少しずつ変化していく。


『さいきん、兄さんの笑顔が減って来たような気がする……私のせい、なんだろうな』

『ごめんなさい』

『ごめんなさい』

『ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……』

『お願いします、神様』

『もう、わがままを言って困らせたりしません』

『どんないう事でも聞きます、いなくなれと言われたら、いなくなります』

『だから』

『もう一度、兄さんにわらって欲しいです』


 そこで日記は途切れている。

 飛び出した。

 遮二無二に廊下を駆け、両親の制止も聞かずドアをぶち破って、行先も分からないままとにかく駆けだして。


「謝るのは、こっちだ……!」

 叫んだ。

「なにが自尊心だ、なにが王だ、そんなちっぽけなものがきんぎょの笑顔よりも尊いだなんて、そんなことがあるわけがないだろう!」

「悪かったのは、兄だ」

「すまない」

「すまなかった……」

「寂しい想いをさせて、申し訳なかった」

「我がもっと、もっと、もっとがんばってきんぎょに釣り合う男になるから」

「だから、いなくなるだなんて言わないでくれ……! もう一度、笑いかけてくれ……!」


 そうして、少年の願いが天に届いたのか。

 廃棄された工場の中に、捕らえられた彼女を見つけ。


「ハァ……ハァ……ようやく、見つけたぞ」

「に、兄さん⁉ なんでこんな所に! 危ないですから帰ってください!」

「はっはっは! おかしなことを言うものだなぁ妹よ!」

 満面の笑顔を咲かせ。

 強く、強く。

 今度こそ、その手を離さないと決めて。


「我はきんぎょのお兄ちゃんであるからな!」

 決意と共に宣言する。

「我は必ず強くなる」

 幼い自尊心のためではなく。

 王になるためでもなく。

 ただ、目の前の少女を独りにしないために。

「お前を、独りにはさせない!」


 結局その後、少年は誘拐犯にボコボコにされた。

 そして、キレたきんぎょが誘拐犯全員を愉快な形のオブジェに変えてしまい、二人揃ってあらゆる大人から、あらゆる説教を喰らうことになるのだが……それでもふたりは、幸せで。


 その後少年はピンク髪の少女と出会い、紆余曲折を経て再会し。

 師でありながら友である女性と仲を深め。

 二日酔いで吐いたり、男性器をネットの海に公開しながらも、一歩ずつ歩み続け。


 そうして少年はついに、別格配信者の一角を倒し、頂に手を掛ける。


 その少年の我執は、傷つく少女の代わりになってやりたいという願いから生まれたもの。

 誰かの力を写し取り。

 誰かの痛みを、自分のものとして背負い。

 それでも前へ進むための力。


 あらゆる我執顕現の中でも最高の汎用性を持つその能力は、少女たちとの出会いによって、遂に花開く。


 最強の妹を持ち、それでも歩みを止めなかった者。

 別格配信者を倒し、世間にその名を轟かせた者。


 かつて近接最強の女が座っていたその座。

 そこに今、少年の名が刻まれる。


 配信者ランキング、10位。


 その名は。

『星に手を伸ばすもの』キンミヤ。

 これにてこの物語は一旦完結です!

 読んでいただきありがとうございました!

 もし面白いと思ってくださいましたら、

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