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05ちゆまどうし

 翌日も朝食を終えるとミアはすぐにでも治療所へと行きたいとアリカにせがんだ。

昨日のことがよほど嬉しかったのか、今のミアはやる気に満ち溢れている。

また町へ向かう道中、カルバンの荷馬車に出会うと昨日と同じように荷馬車に揺られて町を目指していた。

手綱の引くカルバンの隣にこしかけたミアは大きな紙袋から果実を取り出すと口に運びながらカルバンに声をかけた。

「カルさんも食べる?」

「いやぁ、いらねぇ。お嬢の果樹園の果実はそりゃとびっきり上手いが、俺の農場でとれたとびっきり上手い野菜をたらふく食ってきたからな」

「いっぱい食べたの? カルさん痩せてるじゃない」

「野菜ばっか食ってるからな」

「私果実ばっかり食べてるのにおなかぷにぷに」

「そりゃ、羊の獣人だからな腸が長い分お腹もぷにぷにになるんだ」

「そうなの?」

「ルーツは羊だからな」

「カルさん物知り」

「おぉ、大賢者様と呼んでくれ」



 療養所を訪れるとそこには昨日あったシアンが再び治療に訪れていた。

昨日は刺されたような傷だったが今日の傷はどうやらわけが違うようだ。

いたるところに擦り傷があるし顔には痣がいくつもできている。

「シアちゃんまた怪我してる」

「いいからさっさと治しなさいよ」

唇をとがらせながらもシアンの傷をヒールで治し始めるミア。

顔にできた傷や手足の擦り傷はすぐにでも治るとシアンは回復した腕を見てため息をついた。

「ちゃんと回復した」

「えっへん」

「あなたいつもここで治療しているの?」

「昨日からここでボランティアしてるの」

「へぇ、治癒魔導士の家系なの?」

「わかんない」

「わかんないってご両親は何をしてる人なの?」

「……わかんない」

「わかんないって、ご両親のことわからないなんてないでしょう」

「わかんないの。私記憶ないの」

「はぁ?」

「気づいたらアリカ先生に拾われてたの。それまでの記憶何も覚えてないの」

「そんなことあるの? 何も覚えてないの?」

「何も覚えてないって言ってるでしょ! しつこいなぁ」


 プイとそっぽを向くとミアは駆け足でほかの負傷者のもとへと急いだ。

数は減っているがそれでもまだ負傷者は表に列をつくる程度にはいる。


 治療が終わってもシアンはその場から動かずにいた。

ただぼんやりと駆け回るミアを見つめ、ため息をつくシアン。

「シアンちゃん」

「?」

 声をかけたのはアリカである。

「ふふ、お暇かしら? 私もすることがなくて、少し外に出ない?」

「うん、いいですわよ」


 療養所からさほど離れていないカフェに移動すると、テラス席に二人は腰を下ろした。

町には次第に行き交う人が増え歩道まで出た八百屋や魚屋が行き交う人々の関心を引こうと声をはりあげている。

「にぎやかな町ね。あまり来たことがなかったけど、いい町じゃない」

「アリカさんはここの人でないの?」

「えぇ。少し前に引っ越してきたの」

「そうでしたの」

 ウェイターがメニューを持ってくると書かれた内容を見つめる二人。

コーヒーや紅茶を中心にケーキやドーナツといったスイーツ、サンドイッチなどの軽食も書かれている。

「とりあえずコーヒーにしようかしら。シアンちゃんは?」

言われてシアンはアリカに背中を見せるとポケットから取り出したお財布の中身を確認した。

入っているのは小さな飴玉が少しと硬貨が二枚だけ。とてもなにかを頼める所持金ではなかった。

「えっと……私お水だけでいい……」

「ふふ、好きなものを頼んでいいのよ」

「お金……もってませんの……」

「あら、お金を出そうと思っていたの? 大人と一緒にいるのにそんな風に思うなんてとても偉いわ。ちゃんと自分のことを自分でしようとしているのね。とてもいいことだけれど、今日は私の顔を立ててもらってもいい?」

「……いいの」

「もちろんよ、子供にお金を出してもらう大人なんて情けないでしょう? だから、ね?」

「し、仕方ありませんわね! 今日はアリカさんのお顔を立てますわ!」


 ウェイターが戻るとアリカがコーヒーとお茶請けを、シアンは頼めるだけの大きなサイズの紅茶とケーキやドーナツをありったけ頼んだ。

 アリカの視線がシアンの足先から頭のてっぺんまでをなぞった。

もうずいぶんと同じ靴を履いているのだろう、ソールがすり減って今にも穴が開きそうな靴。

服装は上品そうなフリルのついたワンピースであるが、こちらも毎日のように着ているのだろうシミやほつれが随分と目立つ。

そして何よりもその体の細さである。ワンピースに隠れているが子供らしからぬふっくらとした贅肉が見当たらない。

恐らくはーーここ数日はまともな食事をしていないであろうことがアリカには察せられた。

「シアンちゃん、今日の傷はどうしたの?」

「……と、討伐に出てついた傷ですわ! 昨晩ヤトの緊急討伐が出て……」

 早口にいうシアン。しかし、あの傷は討伐に出てついた傷ではない。

顔にできた痣は恐らく殴られたものだろう、手足の擦り傷は取っ組み合いの喧嘩でもして転ばされたときにできたものだとアリカは考えていた。

「シアンちゃん」

「な、なんですの」

「ミアちゃんはきっとあなたのいいお友達になれると思うの。これからもミアちゃんをよろしくね」

「……え、えぇ、いいですわよ」


 運ばれてきたケーキをシアンはがっついて食べた。

よほど腹が減っていたのだろうか無理やり胃につめこむように食べると紅茶で一気に流し込む。

続いて運ばれてきたドーナツも手づかみでさっさと食べると、同じように紅茶で流し込んでいる。


「おい、見ろよ」

通りがかったいかにも悪ガキそうな少年の集団の一人がシアンたちを見て声をかけた。

「没落貴族がカフェでお茶なんかしてるぜ」

「知り合い?」

 とアリカ。

「あ、あんな輩知りませんわ」

「おめーの父ちゃんはもう帰ってきたのかよ?」

「そのうち帰ってきますわよ!」

「もうとっくに死んでるに決まってらぁ!」

「戻ってきますわよ!」

 立ち上がるシアン、少年もからかいながらこぶしを握ると足でステップを踏み始める。

「お、またやるか? またボコボコにしてピーピー泣かせてやるぜ! 没落貴族がかかってこいよ!」

「お父様は死んでなんかいない!」

 飛びかかろうとするシアンをアリカの手が止めた。

「シアンちゃん、喧嘩はだめよ」

「お父様を侮辱するのは赦しませんわ!」

「ほらほら、かかってこいよクソガキ!」

「もうっ、仕方ないわね。オンリーマイタイム」

 少年たちの集団の姿が消える。

「えっ」

「シアンちゃん座って」

「何をしたの?」

「悪い子たちはおうちに帰ってもらったわ。ねぇ、シアンちゃん」

「……なんですの」

「私、実は森で果樹園をしているの。私一人で人手が足りていないの。もしよかったらシアンちゃんに手伝ってもらえないかしら?」

「わ、私には討伐の依頼が……」

「ちゃんと賃金も払うし売れない果実は持って帰ってもらってもいいわ」

「……」

「ちょっと遠いけれどシアンちゃんに手伝ってもらえたらとても助かるわ」

「ちょっとだけなら……で、でも私お父様が帰ってくるのを待たなければいけませんし、ギルドの依頼だってありますの! でも……そんなにおっしゃってくださるのなら……手伝っても、いいですわよ」

「ふふ、なら決定ね。嬉しいわシアンちゃんが手伝ってくれて。じゃぁ、さっそく今日からお願いしようかしら」

「今日から!? いくらなんでも話が早くありませんこと?」

「ふふ、善は急げよ」



 昼過ぎにはカルバンの荷馬車に乗り、三人は森へと向かっていた。

「ねぇー」

 荷馬車で寝転ぶミアがだるそうに口を開く。空から視線をずらせば、荷台の隅っこにちょこんと座るシアンの姿がある。

「なんで、シアちゃんがいるの?」

「私はアリカさんに頼まれただけですの」

「アリカ先生ー、なんでこんなちんちくりん乗せたの?」

「ふふ、シアンちゃんに果樹園を手伝ってもらおうと思って」

「ミアがいれば十分なの。こんなちんちくりんいらないの」

「ちんちくりん、ちんちくりんって何よ! あなたこそちんちくりんじゃない!」

「ちんちくりんって言ったほうがちんちくりんなんですぅ。もう怪我しても治してあげないからね」

「何よちんちくりんちんちくりんって! あなたのほうこそ」

「はは、果樹園が愉快になりそうだな」

 手綱を握っていたカルバンが隣に腰掛けるアリカに声をかけた。

「ふふ、素敵じゃない? こうやって元気な声が溢れるのは」

「あぁ、間違いねぇ。そうだ、夜にでも野菜を届けにいくよ。一人だった食事が三人ぶんになるんだ、俺にも少しだけ援助させてくれ」

「あら、そしたら四人分野菜を届けてくれない?」

「四人分?」

「カルバンさんのぶんもよ。今日はたくさんお料理しなきゃ」

「そりゃ、ありがてぇパーティーはいつだって大歓迎だ」

 後ろから聞こえるちびっこたちの声。

空は青く澄んでいて、やわらかな風が四人を撫でた。


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