04才能
「そういえば、町にいったら小さな療養所ができていたわ」
「りょうようじょ?」
「えぇ。傷ついた人たちを治すための場所よ」
「そんな場所があるんだ」
「すでにミアちゃんはヒールができるみたいだし、覗きにいってみる? ミアちゃんの力が必要になるかもしれないわ」
「……」
そんな話を聞いてミアの脳内には傷ついた仲間たちの姿が浮かんだ。
もっと早く仲間たちのことに気づいていれば、もっと早くヒールの魔法を使えていたなら治せた傷があったかもしれない。
もし自分になにかできたのならば救える命があったかもしれない。
「うん、行ってみたい」
「じゃぁあとで訪ねてみましょう。きっとミアちゃんの力が必要になるはずだわ」
アリカが町でみた景色--それは小さな療養所にならぶ人々や獣人たちの姿であった。
どのようにして怪我をおったのかまでは知りえなかったがおそらくは大規模な戦闘があったのは間違いない。
そして小さな療養所を設けなければいけないくらい治癒する施設がひっ迫しているということ。
白衣をまとった女性や少女たちが走り回って看病にあたっていた姿をアリカは目にしていた。
「それにしてもあんなに怪我人がいるなんて。ミアちゃんの故郷にも何かあったみたいだし、この世界はどうなっているのかしら?」
「アリカ先生も知らないの?」
「私もまだこっちにきてそんなに経っていないって言ったでしょう? どの世界も争いばかりね」
◇
ミアたちがいる森から町までは馬車による移動が必須だった。
ミアたちは町の様子を伺おうと森を出ると通りがかった荷馬車に乗っていた。
「カルバンさん乗せてくれてありがとう。助かるわ」
荷台に乗ったアリカが話しかけたのは手綱を引く褐色肌の男性だった。編み込まれた髪に指輪をじゃらじゃらとつけた男性はカルバンという森の近くで農園を開く男である。
「かまわないさ。俺も町に野菜を届けにいくところだったから。にしてもいつの間にママになったんだ?」
カルバンは荷台で寝転ぶミアに視線を向ける。
「あら、私ママに見える?」
「こんな若いママがいたら最高だな」
「ふふ。ねぇカルバンさん、町に診療所ができていたのを見たんだけど、この辺りは争いが多いの?」
「ここ一、二年は争いが多いな。なんでも大規模な召喚魔法を使って異次元の魔人たちが侵略してきたんだとさ。まったくやっかいな話だ」
「誰がそんな存在を呼び出したのかしら?」
「さぁねぇ、そこまでは俺の耳に入ってないな。お嬢も気を付けるんだぞ、最近は上流にある獣人たちの村も襲われたそうだ。温厚な獣人たちだったのに……ひでぇ話だ」
「本当ね」
「そちらのお嬢さんも……えーと」
「ミアよ」
「ミアお嬢ちゃんも村からの生き残りかい?」
「えぇ、小舟に乗って下流まで流されていたの」
「それでお嬢と出会って匿っているわけだ。なるほどな、もし俺に力になれることがあったら言ってくれ。なんでも力になるぜ」
「ふふ、頼もしいわね」
「俺ぁ、愛と正義のヒーローだからな」
◇
「ミアちゃんついたよ」
すっかり荷台で眠りこけていたミアがアリカに起こされる。
「ねちゃってた」
昼過ぎには家を出たのに今目の前に広がる空には夕日のオレンジと夜の闇が混ざり合っている。
カルバンに別れを告げ二人は療養所を目指した。
付近にはアリカが見たときよりも人だかりは減っていたが、それでもいまだ治療を待つ人や獣人たちが周囲に集まっていた。
治療をまつ列を避けアリカに手を引かれたミアが受付へと顔を出す。
「あの……」
「順番に案内しますので列でお待ちください! 横入りはだめですよ」
相当疲労が溜まっているのか突き返すような言い方をする白衣の魔導士。
「あの治してほしいんじゃなくて、私にお手伝いできることはありますか? ヒールの魔法できます」
「あら、ボランティア希望なの? やだごめんね、すごく助かるわ! ちょっと待ってね」
魔導士は一旦療養所の奥に消えたかと思うと今度は笑顔で小走りに戻ってきた。
「あなたヒールはどれくらいできるの?」
「割れた瓶を治したり、小鳥の折れた羽を治せました」
「じゃぁ初級治癒魔法ね。いいわ、そしたらこっちにきて」
魔導士に連れられ療養所へと入っていくミアとアリカ。
療養所には所狭しと座席だけでなく床に座り込んで治療をまつ負傷者が多数見られた。
種族も様々に人間や獣人の戦士、エルフの魔導士が傷あとを気にしながら自分の順番を待っている。
ミアが連れられたのは療養所内にある待機所だ。
負傷者たちは腕に白いバンドを巻くと床に座ったり寝転んだりしている。
「白いバンドをつけた人たちは比較的軽い傷だから、それくらいならあなたにも治せるかしら?」
「はい、やってみます」
「あなたお名前は?」
「ミアです」
「じゃぁミアさん、これをかぶって」
魔導士は白いハットを取り出すとMiaと筆で書いてミアに被せた。
「治癒魔導士のハットよ。なにかわからないことがあったら私でも近くの魔導士にでも聞いて」
「わかりました!」
フンス!と荒い鼻息を鳴らしさっそくミアは治療へと取り掛かる。
先ず目を付けたのは近くにいた豚の獣人である。
「どこが痛いですか?」
「あぁ、ずいぶんと可愛らしい魔導士さんだね。魔物に噛まれちまって……」
腕まくりをすると前腕部分に歯形が残ると血がにじんでいる。
「今治しますからね。ヒール」
両掌に緑色のオーラを溢れさせ歯形に翳す。一瞬豚の獣人は痛みに顔をしかめるがやがてその表情は穏やかなものへと変化していく。
翳していた手のひらを離す。歯形こそ残ってはいるが出血は止まり、傷跡らしいものは残ってはいない。
「おぉ、傷が治った。ありがとうお嬢ちゃん、お嬢ちゃんは素晴らしい治癒魔導士だ」
なんて褒められればミアも素直に顔をほころばせた。
「また怪我したら私が治してあげます!」
「はは、こりゃ頼もしいな。お嬢ちゃんお名前は?」
「ミアです!」
「私はブルー。また怪我したらミアさんに頼むよ」
そんなやりとりを見ていた周囲からミアに向かって声がかかった。
「おぅい、終わったならこっちも頼む。もう何時間も待ってんだ」
「今行くます!」
待機所内をあちらこちらへと駆け回るミア。
そんなミアの姿をアリカは端っこで見守るように見つめていた。
見てみればミアのように駆け回る魔導士たちは他にも二人ほどいたが、三人で駆け回っても怪我人は次から次へと待機所へとやってくる。
おまけにその駆け回っていたうちの一人がほかの魔導士に声をかけられると慌てたようにして待機所を出て行った。
治癒魔導士二人だけで待機所を駆け回る。
「お嬢ちゃんこっちも頼む」
「今いくます!」
「お嬢ちゃん歯がいてぇんだよぉ」
「今やりもす!」
「羊ちゃん、頭が」
「ミアちゃん、こっちも」
「魔導士さんこっちも急いでくれぇ」
「順番にやったげるから待ってて!」
数時間駆け回りながら治療を続け、ひと段落ついたのはもう夜も遅くなってからだ。
帰れるものは帰したが、引き続き治療が必要な負傷者たちはその場に残っている。ベッドの数は足りるはずもなく床に寝ているものもいる。
「や、やっと終わったー」
体力も魔力も限界ギリギリまで消耗したミアがアリカの体へと倒れこむ。
小さな体を抱きしめながら背中をさするアリカ。
「よしよし、はじめてなのにいっぱい頑張ったね。ミアちゃんのおかげでたくさんの人が傷を治せたでしょう」
「ミアも役にたったかな」
「もちろん」
やっと終わったかと思っていたところに一人の少女が待機所へと姿を見せた。
長い銀髪に赤い瞳をした少女が肩を抑えながら入ってくるときょろきょろと当たりを見回している。
まだ負傷者がいたのかとミアが立ち上がる。
「お怪我ですか?」
「えぇ、そうよ。魔導士さんを呼んでちょうだい」
「ミアも魔導士です!」
「ぷっ、あなたが魔導士? あなたみたいなちんちくりんのチビっこが?」
ミアを小ばかにして笑う銀髪の少女。そんな彼女の態度にミアはむっとするが、被っていた白いハットを脱ぐと少女に見せつけた。
「ほら見て。治癒魔導士の帽子よ。ミアって書いてあるでしょ」
「本当に? 信じられないわ、あなたどんな治癒魔法が使えるの?」
「ヒール」
「ほかは?」
「使えない……ほかにもあるの?」
「あったりまえでしょ! ヒールしかできないのに治癒魔導士なんて名乗っているの? あなたどちらの学校を出た魔導士なの? 階級は? 職歴は? 魔導士として働いている期間は!?」
矢継ぎ早に出てくる質問にミアは頭がこんがらがって答えを出せない。
見かねたアリカが傍に腰を下ろすと、銀髪の少女に向かって口を開いた。
「はじめまして、私はアリカ。あなたのお名前を聞いてもいい?」
「シアンよ。高等魔導士のシアンよ」
「まぁ高等魔導士なんて凄いわね。さぞお勉強や実践に励んだのでしょうね」
「当然よ! 私、お父様がギルドマスターをしていますの。そこで実践を積みながら学んでまいりましたのよ!」
「ふふ、ギルドマスターなんてご立派で優秀なお父様なのね」
「えぇ、そうよ! お父様は私の誇りですわ!」
「じゃぁ、今日もギルドでのお仕事だったの?」
「えぇそうよ。ギルドのお仕事でヤトの討伐に行ってましたの。なかなかの強敵でさすがの私も怪我を負ってしまいましたの」
「それはたいへんね。討伐なんて大人だって苦労するのに、あなたみたいな少女が討伐に参加できるなんてすばらしいわ」
「そうなんですの! でも、私たちは負けませんでしたわ! これは名誉の負傷よ!」
そういってシアンは服をめくりあげた。
ぷにぷにのお腹の横には何かが刺さったかのような小さな傷口ができている。
「傷跡は戦場をかけぬけた名誉の勲章でもありますものね。ねぇ、シアンよかったらその傷をミアに治させてもらえないかしら?」
「本当にこんなちんちくりんが魔導士ですの?」
「えぇ、ここにはボランティアとして参加しているけれど、すでに何人もの人たちを治しているの」
「あなたがそこまでおっしゃるなら、いいですわ、そこのちんちくりん、私の傷を治してちょうだい」
げんなりした顔をしつつ、ミアがわき腹に手を翳す。
傷跡はすぐにでも修復しヒールのあとには今までと変わらぬ白い柔肌がそこにあった。
「ふぅん、ちゃんと治療できるのね」
「できもす!」
「あなたミアっていうのね。私はシアン。あなたが立派な治癒魔導士になったらうちのギルドで雇ってあげてもいいわよ」
「えぇ、やだ」
「なっ!」
「私はアリカ先生と一緒にいなきゃだから。ごめんね」
「べ、別にいますぐこいなんて言ってないわ! あなたが治癒魔導士になって食い扶持に困ったら雇ってあげてもいいと言っているだけよ!」
「やぁだぁ」
「失礼な子ね! あなた歳いくつよ!」
「わかんなぁい」
「自分の歳もわからないなんて! やっぱりあなたなんて雇わないわ!」
「雇ってなんて言ってなーい」
「ああいえばこういうんだから! なんなのこの治療所は!」
せっかく治してもらったがシアンは眉を吊り上げ喧嘩別れするように治療所をあとにした。
「私あの子きらーい!」
「ふふ、ミアちゃんは誰とでも仲良くなれるのね」
「仲良くないよ。ああいうぶりっこで偉そうな子きらい」
「あらあら、とても仲良く見えたわよ」
「仲良くなってないしー。はぁーもう疲れた、体力も魔力もすっからかん。パイたべたいー」
「ふふ、じゃぁ私たちもそろそろお暇しましょうか。帰ったらすぐパイを作るわ」
「わぁい」




