ゴブリンと遭遇
「アル! 行ったぞ!」
俺はその声に反応し、地面を高速で逃げる兎へと石を投げた!
兎に石は命中し、ガクンと倒れるも逃げようと必死だ。でも、怪我をした状態では走ることができない。
俺は兎へと駆け寄り、苦しめないように短剣で素早くトドメを刺す。
「上手! さすがアル!」
タボの誉め言葉に笑みを返し、死んだ兎を前に両膝をつけて、お経を唱えた。
日本人だったからさ……こういう時、自然と南無阿弥陀仏なんだよね……実家がそうだったから。
「なに? いつもの儀式?」
「タボたちもするだろ? これは俺の神様にしてるんだよ」
タボは、俺よりも少し年上のコボルトで、見た目はミックス犬だ。赤毛でお腹が白い。両手は人の手と変わらないけど、足は犬だ。
兎を狩って、村に帰るとマリーナが畑でジャガイモをとっていた。
「ただいま」
「アル、お帰り。うさぎ?」
「うん」
「今晩、皆で頂きましょう」
「うん、捌いてくるね」
ルシアンという名前から、アルスという名前に変わってから早五年。
長かった……走ったり、跳んだりできるようになるまで、長かった!
コボルトの村は、百人ほどの規模で、俺たち二人だけが人間だけど、皆はそんなこと関係ないとばかりに仲間として扱ってくれる。
寝る時以外は、基本は皆で一緒にいる。
畑仕事も、狩りも、キノコ狩りも、一緒になっておこなうのは、きっとコボルトが犬族だからだろう。だからといえばおかしいが、仲間を想う気持ちが強い。一人が病気になると、皆で面倒をみる。
家族という単位の上に、集団という単位があって、集団の頂点にはエブールがいる。彼はもう四十歳で、人間でいうと八十歳くらいになるという。
タボは三歳で、タボの姉のケイは五歳。そして俺が六歳。
村での暮らしは、刺激が少ない。
日本人だった俺にとって……という意味だ。
インターネット、ない。
ゲームも漫画も何もない……まさか俺は、勉強が楽しく感じることがくるなんてと驚いている。
マリーナに、数学、言語、歴史、魔法を教わっているのだけど、楽しくて仕方ない。
「でも、アルにはもっといい教材があれば……」
彼女はそう言って残念がるけど、マリーナの知識と魔法はすごいと思う。
同時に、これだけの知識、人格者なのだから、もしかして見た目よりも実年齢は上かもしれないと思い、一度、尋ねたことがある。
「マリーナって、何歳なの?」
「二十歳よ」
「……嘘でしょ」
「本当よ。二十歳から歳をとらない呪いをかけられているのよ」
「……」
女性は、いつまでも若くいたいと思うものなのだろう。
- Il était appelé le Grand Mage. -
森で狩りをしていると、遠くでケイが悲鳴をあげた。
「キャウーン! キャン!」
どうした! と慌てて駆けつけると、ゴブリンたちがケイを取り囲んでいる!
こいつら、食おうとしてやがる!
俺は、呪文の詠唱を必要とせず、ゴブリンたちへと雷撃を発動させた。
「ギャ!」
「こいつ! ガキのくせに!」
くらったゴブリンたちが吹っ飛び、後方にいたゴブリンたちが武器を構える。
「ケイ!」
彼女は転がるように走り、俺の後ろに隠れた。
「お前、人間がどうしてここにいる!?」
ゴブリンが話す言語は、ジュアク語という古代で使われていた言語のひとつで、コボルトたちが使う言語と同じなので苦労なく理解できる。
俺は答えず、雄叫びをあげて助けを呼ぶ。
「あおー!」
叫ぶと、あちこちで「あおーお!」「あおーお!」と声があがり、すぐにコボルトたちが駆けつけてきた。
その数は、ゴブリンを圧倒する。
ゴブリンたちが、まずいと感じて逃げ出した。
ケイは、腕を怪我している。
「ケイ、大丈夫?」
「痛い……草むらの匂いを嗅いでいたら、いきなり現れて……棒で殴られた」
「骨……大丈夫かな?」
ケイの腕に触れると、彼女は「きゃん」と言って腕をひっこめる。
村一番の戦士ドルグ――見た目はジャーマンシェパードだ――が、ケイを抱っこして運ぶ。彼女はクークーと泣き、皆が心配した。
長老が、その日の夜に護衛とともに村を出る。
それはゴブリン側が、コボルトが人間をかくまっていると、魔族の母に訴えたことで、魔族の母の側近が、ゴブリン側の長老とエブールと三者で話し合い、対処すると通達してきたらしい。
俺たちは、村から出ないといけないのか……。
俺の不安は、顔に出ていたらしい。
タボとケイの父親バーズが、俺の肩に手をおいた。
「アル、お前たちは家族だ。心配するな」
「絶対に、俺たちはお前とマリーナを裏切ったりしないよ」
バーズの隣で、長老の息子カブールも言ってくれた。
素直に、嬉しかった。




