魔王の側近
翌朝、エブールが帰ってきた。
そして、その魔族も村へと入る。
邪悪な気をまとう魔族は、獅子の頭部に赤い目が不気味だった。首から下は人間と似ているが二メートル近くの体躯は威圧的で、その尾は蛇という異形だった。そして身体は赤褐色で、禍々しい。
コボルトたちは、片膝をつきその魔族を迎える。
俺もマリーナも、彼らにならって、片膝をついた。
ここは、事を荒立ててはいけないと感じる。
「リーゼキュラ様の代理である。ゼグス・オズ・マズだ。出迎え、ご苦労である」
獅子頭は不気味な声でそう言うと、俺とマリーナを赤い目で捉えた。
「人間くさい……リーゼキュラ様の統べる地に、どうして人間がいるのか? エブール、申してみよ」
「はい……彼女らは人間ではありますが、そちらの女性に過去、我々は助けられたことがあります。その彼女がリーゼキュラ様の保護を求め、この地に参りました。我々は受けた恩を忘れませぬ……そして今では、二人は我々の仲間でございます」
「人間、名は何であるか?」
マリーナが、口を開く。
「マリーナ・アラギウス・ファウス……この子はわが子で、アルス・マリーナ・ファウスです」
「アラギウス・ファウス?」
獅子頭が、その言葉を吐き出すと口端を歪めた。
アラギウスファウス? というのは?
初めて、聞いた。
ゼグスが言う。
「嘘であれば許さぬぞ。そのほうはアラギウス・ファウスの娘か?」
「……正確には、弟子であり、養女でございました」
「なるほど……大魔導士アラギウス・ファウスの娘であるなら、それを証明してみせよ」
ゼグスはそう言うやいなや、予備動作なしで魔法攻撃をおこなう。
マリーナは一瞬で、防御魔法を発動し、獅子頭の炎姫歌華を防いだ……というより、消し去ってみせた。
獅子頭は頷くと、マリーナを見て口を開く。
「防御魔法の中でも最高難易度の次元遮断……この魔法でなければ、防いだとしても衝撃でコボルトたちが怪我をすると読んだのだな?」
「ゼグス様の魔法が強力でしたので、使わざるを得ませんでした」
「あの魔法を、これだけ滑らかに、正確に、素早くおこなう魔導士は、アラギウス・ファウスの養女で間違いないであろう。わかった。彼の身内であれば歓迎する……ミューレゲイトに貸しを作れると、主もお考えになるだろう」
ゼグスはエブールに言い、彼の一礼を眺めながら続ける。
「ゴブリンどもが、そなたらの縄張りを犯していた……結果、そなたらの子が襲われ、怪我をした……それを助けたのが、人間であった……とても信じることなどできぬと思うておったが、今、その訴えが事実であったと認めよう。エブール、私の非礼を許してほしい」
「とんでもございません。無理からぬことでございます」
「改めて、ゴブリンどもには、そなたらの縄張りを犯すなと申し伝える。これを破ったならば、ゼグスが自ら、ゴブリンどもを罰すると約束する。人間の子よ」
ゼグスに声をかけられ、俺は魔族を見た。
マリーナが、小声で言う。
「目を見ては失礼、その下、首」
俺は視線を、魔族の胸あたりに定めた。
ゼグスが、笑う。
魔族でも、笑うらしい……。
「よい、無礼は子の特権で、それは人も我らと違いはないだろう。アルスとやら、よく仲間を守ったな? 人も、我らも、その価値観は等しいであろう。主に代わり、感謝する」
「……とんでもございません。当然のことをしただけです」
答えると、ゼグスは頷きエブールへと視線を転じた。
「では、これで。魔族の母の加護をそなたらに」
「ありたがき、幸せ」
ゼグスが去る。
……不気味だし、邪悪な気だけど、信義というものがあると感じた。
……耳が痛い人間、いっぱいいるだろうな。




