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転生皇子の魔導録 ー未発見の魔導書を求めてー  作者: ビーグル犬のぽん太
第一章 アルスという名になって
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魔族の母

 ゴブリンたちが、コボルトの縄張りを犯していた一件は、ゼグスの裁定で終わった……とはならなかった。

 あの事件から、一か月が経つくらい。

 なんとゴブリンたちは、あれからもちょくちょくとコボルトたち側へとやって来ては、勝手に狩りをしたり、キノコを採ったり、樹木を伐採したり……でもそれを、ゴブリンたちの仕業だと訴えても、彼らは「俺たちはしていない。いいがかりはよせ」と言うばかりだ。

 ここは、ゼグスに訴え出ようと村長と戦士たちが相談している今日、俺とタボは川遊びをしていた。ケイの怪我は大事なく、もう治ったとばかりに花摘みに行ったそうだ。

 大人たちと子供たちで、集団行動が徹底されている。

 俺のほうも、川で遊ぶ子供たちの周囲で、大人たちが釣りをしていた。

 春から夏へと、季節は移ろうかという頃。

 鮮やかな草花が生み出す光景は、現代社会ではお金を払わないと眺められないだろうと思う。

 それにしても……この世界はどういう世界だ?

 生態系は、地球に近い。

 食事……地球とほぼ一緒。

 太陽、月、同じ。

 パラレルワールド? 

 魔族とか、魔法とか、地球とは決定的に違うところはあるものの、こんなに環境が似ているなんて、とんでもない低確率ではなかろうか。

 ん?

 大人たちが、釣り竿を急いで地面に置いた。

 なんだろうと思うと、草花の上を優雅に歩く少女がいる。

 白い肌、銀色の髪……赤い目が、こちらを見た。

 白子症かと疑うほどの彼女は、対照的な黒い衣服に身を包み、背の羽根を広げる。

 蝶のようだと、思った。

 大人たちの一人が、小声で俺に言う。

「アル、膝をついて……魔族の母リリス様……魔王リーゼキュラ様だ」

 リリス?

 ……彼女が、魔族の母と言われるほどの?

 魔王……リーゼキュラ。

 マリーナから、聞いた。

 世界に存在する四大魔王の一人で、魔族の中でもその格は最も高い。

 邪悪な姿を想像していたけど、恐ろしく美しい……いや、あの美しさが、恐ろしいんだと思えた。

 彼女は優雅に、地面を滑るかのように移動すると、コボルトたちを無視して俺の前で止まる。

 俺は、頭を垂れた。

「アルス? 君がアルス?」

 耳心地がよい声……これが、魔王?

「アルス、君が子供なのに魔法を発動した子?」

「はい」

「じゃ、してみせて」

 彼女は言うと、いきなり至近距離で、火炎弾フレイムを発動した。

 正確には、発動する直前でそれを察知した俺が、次元遮断ベルベットヴェルムという高度防御魔法を発動することで、封じた。

 それくらいの防御魔法ディフェンシォでないと、防げないほどの威力だと直感でわかったから。

 何もおきない空間で、驚くのは彼女ひとり。

 コボルトたちは、何が起きるのかと心配する表情で俺と魔王をうかがっている。

 リーゼキュラは、微笑んだ。

 ゾっとするほど、美しい……。

「アル! あなたすごい! じゃ、これは?」

 魔王は、いきなり俺とタボに向かって、同時に雷撃トニトルスを発動していた。

 俺は一瞬で魔封盾スクトゥームを発動し、彼を守る。そして自分も魔封盾スクトゥームで、雷撃トニトルスを弾き返した。

 ガツンという衝撃で、たまらず俺は吹っ飛び、周囲のコボルトたちも地面を転がる。

 ふわふわと浮かんだままのリーゼキュラだったが、その頬に少し傷がついた。しかし、それはすぐに癒える。

 彼女は、地面に倒れたままの俺に近づいてきて、助け起こしてくれた。

「試してごめんね? でも大丈夫、もうわかったから」

「何が……ですか?」

「人間のあなたがこれほどの力を持っているのに、コボルトたちを傷つけないどころか、守る」

「……当然です。家族なので」

「口だけの人間を、わたしはたくさんたくさんたーくさん、見てきたの。人間は、口では言うのよ……彼は魔族だけど仲間だから、友達だから……でも、すぐに、あっさりとそれを裏切るの。でも、君は違うね? 好きよ、君」

「ありがとうございます」

「いいの、いいの。ゼグスが、コボルト側をやけに庇うから、ちょっと疑って来てみたけど、アラギウスの娘と、その子である君が、コボルトたちを仲間だというなら、きっとゼグスの言うとおり、君たちはうまくやっているのよね?」

「……あの、俺は本当に助けてもらっていると思うし、感謝しているんです」

 俺の説明に、彼女は俺の横に立つ。そして、コボルトたちをぐるりと見て、「離れていて」と言うと、顔を近づけてきた。

 膝をおり、俺と視線を同じくした彼女は、俺の首に指で触れる。

「ドキドキしているのは、嘘をつくからじゃないね? ……血、美味しそう」

「……俺は、赤ん坊の頃から、皆に守ってもらっているんです。だから、俺が皆を守れるなら、守ります」

「うんうん……わかっているよ、嘘じゃないって。君、いい子ね」

「……あの、本来なら、大人たちがゼグス様のところに訴えに行くのでしょうけ――」

「うん、言わないでいいよ。わたしはわかっているから」

 リーゼキュラはそう言うと、俺の頭をポンポンとした。

 彼女は羽根を動かして、フワリと浮くと口を開く。

「アル、ゴブリンは基本、嘘つきなの。でも、彼らはそうしないと生きていけない弱者なの……人間と一緒。だから許してあげて……二度と、コボルトたちを困らせないように、わたしのほうでちゃんとしておくからね」

「ありがとう……ございます」

「またね」

 そう言って、魔王は去っていった。



 - Il était appelé le Grand Mage. -



 それから、五日後のことだ。

 ゼグスの使者であるオーク戦士が、コボルトの村にやって来て、こう伝えた。

「これからは、西のゴブリン側だった土地もそなたらのものとする。奴らは消えてしまった……誰も手をつけねば荒れるゆえ頼むと、ゼグス様の仰せである」

 ……消えてしまった?

 ちがう。

 消されたんだな。

 魔王……こえぇよ。


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