遭遇戦
魔族の母の森の南端に到着し、行けるところまで馬車で行こうと思った時、彼らと遭遇した。
男女が五人ほど、完全武装で俺たちを見ていた。
ダリルが、俺に目で合図をする。
ここは、彼に任せよう。
「おーい、あんたら討伐隊か!?」
ダリルが彼らに声をかけ、向こうが応じる。
「避難の途中か!? 避難するなら反対方向だぞ!」
彼らは、武器を持ったまま俺たちへと近づいてくる。それを見て、ダリルが馬車から降りながら、中の俺たちに素早く言う。
「戦争を利用して、身ぐるみを剥ぐ悪党はいる。襲ってきたら、やってくれ」
「わかった」
短く答え、俺は馬車に残り、リューネに出てもらった。馬を操るシスは、フードで顔を隠している。
「娘と二人、避難するところだったんだ」
「へぇ、お前、怪我してるじゃないか」
五人組の一人が、にやけた顔でダリルに近づく。
その表情を馬車の中から盗み見ていた俺は、確かめるべくもなく、彼らは俺たちの荷を奪おうという魂胆だと感じた。
ダリルは、念押しをする。
「さっさと離れることにするよ。南に行けばいいのかな?」
「その前に、荷を確認させろ」
ダリルが、肩越しに頷いた。
俺はドアを開いた直後、風守護を使って先頭の男へと突進し、その顔面に肘をぶつけ、倒れる男の腹部に膝をいれた。
「がは!」
男が悶絶した瞬間、リューネは一瞬で構えた弓矢を放ち、後ろの男の左肩を射抜く。
シスが馬上から、氷槍を放って長身の男を倒した。
ここで、傭兵たちがようやく状況を飲み込む。
無事な男女が、武器を構えながらも動揺で動けない。
ダリルが、彼らに問う。
「で、もう森に入ったのがいるのかな?」
「え?」
男は、質問の意図がわからず呆けた。
その隣で、女が武器を捨てて口を開く。
「ははは入りました! 入っています!」
「どれくらいの規模だ?」
「黒竜騎士団と、黒獅子騎士団、黒蝶公家が抱える毒蛾衆、傭兵たちが」
「規模。規模を言え。中隊規模か?」
ダリルの問いに、男が頷く。
「いえ、百人は超えます」
「面倒だな」
ダリルは言い、転がっている男たちを見て続けた。
「見てのとおり、助けてやりたいが俺は怪我人だ。お前らで彼らを運んでやってくれ」
「わわわかりました!」
馬車に戻り、シスが馬を進める。
「少し奥で、降りよう。馬を離して……その背に荷物を載せよう」
ダリルの案で、進むことを決めた。
- Il était appelé le Grand Mage. -
先頭を歩くのはリューネで、ポーターの頃から異変を察知するのがうまかったので、お願いした。その後ろに俺、ダリル、そして最後尾にシスだけど、今の彼女はもうモグモグ歩きを卒業している。
普通にしていれば、美しく気高いエルフに見えるんだから、いつもこうしていてほしい……。
先頭のリューネが、身を屈めた。
俺たちも彼女にならい、低姿勢を維持して彼女の後ろにつく。
リューネが、茂みの向こう、木々の隙間を指さした。
オーク戦士が、騎士たちと戦っている!
黒獅子騎士団だ。
リューネも俺も、まさかジュリアンはいないだろうなと思ってしまう。
オーク戦士は、多勢に無勢であっという間に囲まれた。
助けたい。
ダリルに、肩を掴まれる。
「アル、ダメだ」
「でも」
「先に、進むのが先決だろ? お前の仲間の安全を確かめて、逃がすのが先だ。違うか?」
「……」
「あのオークは戦士だ。戦い敗れれば、それは仕方ないことだ」
「……行こう」
俺たちは、彼らから見えないように移動する。
逸る気持ちを堪えながら、コボルトの村へと慎重に向かった。
そして、三日後、俺たちはついに、コボルトの村だった場所に到着したのだ……。
- Il était appelé le Grand Mage. -
「アル……」
リューネの声に、反応できない。
俺たちが暮らした村は今、焼き討ちにあったとわかる惨状だった。小屋は全て灰燼に帰し、畑の作物は無残に荒らされて、井戸は破壊されている。そして、コボルトたちの死体が、点々と転がっていた。
「アル」
ダリルの声。
俺は、震える身体を制御できない。
「なんだぁ? お前ら」
向こうから、三人の男たちが現れた。
黒装束の彼らは、暗殺者集団の毒蛾衆だとわかる。
「傭兵ども、もっと奥に行ったのではなかったか?」
「こいつら、弱いから森の入口の監視役だった奴らじゃねぇかな?」
「たしかに、ガキと怪我人じゃ仕事にならねぇが、よく採用されたな?」
俺は、村の惨状はこいつらの仕業だと決めつけた。
怒りを、抑え込むのは不可能だった。
火炎弾を発動し、一人を吹き飛ばしたと同時に、黒剣を抜き放って二人目を斬り伏せた。風守護の加護で加速した俺の動きを、男たちは全く追えていない。
三人目が、腰を抜かした時、リューネがその脚を射抜く。
「痛ぇ!」
「おい、コボルトたちがいたはずだ。彼らはどこだ? まさか皆殺しにしたんじゃないだろうな?」
俺が痛がる男の胸倉を掴んだ時、彼はせせら笑う。
「犬ころども? 知らねぇよ。そこらへんに転がっているだろうがよ」
俺は黒剣で、その男の左手を手首のところで斬り落とす。
「ぎゃ!」
「言え。楽に死なせないぞ」
「アル!」
リューネに止められたが、シスが男の股間を蹴った。
「うぐぅ!」
「こら、シス。お前はどうした、いきなり?」
ダリルに叱られるも、彼女は悶絶する男の股間を、また蹴り上げる。
「がぁああああ!」
「あちこちで、コボルトが死んでる。コボルトの仇だ」
シスは、魔族自治区にいたから、感情的には俺に近いのだろう。
ダリルが苦しむ男に、尋ねた。
「金玉、潰されたくないなら早く答えろ。コボルトたちは逃げたのか?」
「そそそそ……そうです」
「で、お前らの仲間も、それを追って北に?」
「ははははい! はい! でも! 馬鹿強い魔人が出て来て、膠着状態でして!」
……ゼグスだ。
間違いない。
「今も、戦っているのか?」
ダリルの問いに、男はコクコクと頷く。
「はい! そうです。戦っています。戦っていると思います」
「で、お前らはどうして離れた?」
「得意なのはだまし討ちなので……」
ダリルが俺を見る。
その目は、もういいぞと伝えてきた。
頷く。
「やめて。潰さないでください!」
男の懇願に、俺は怒りを増す。
コボルトたちを殺したくせに、お前らは助かろうとする。弱い者には強く出るくせに、勝てないとわかれば平身低頭する。
「アル!」
リューネが、前方を睨んで叫ぶ。
黒装束の集団が、こちらを見て慌てていた。
「おい! 何をしている!?」
「貴様ら!」
彼らに向かって、助命を懇願していた男が立ち上がった。
「助けてくれぇ!」
俺はそいつを蹴とばし、新手の集団へと魔法をぶつける。
火炎弾を五発、一瞬で発動させていた。
防御も回避も許さない速度と精度で成した先制攻撃。
一瞬で新手が吹き飛び、仲間の登場に喜んだはずの男が震えて俺を見上げる。
「お前を殺すことに、何も躊躇いはない。お前らも、魔族相手にそうしてきたんだろ?」
「た……助けて」
俺は、懇願を無視した。




