書庫はあったが……
ロイタール遺跡の管制室から、さらに下へと下る階段を見つめた。
ごぉん、ごぉんという音が、一定の間隔で下のほうから聞こえてくる。
高い天井を見上げると、いくつものファンが回っていた。
どれくらい、地下なのだろう?
階段の下まで降り、ドーム状の施設の前に立つ。
出入口は、コードを入力したり、網膜チェックを受けないと進めない造りだ。
「ここまでか」
俺の言葉に、後ろのリューネが言う。
「わかるの?」
「入れない。鍵とかじゃなくて、暗号がいる」
シスとダリルが、操作盤を適当に押していたが、まったく開く様子はなかった。
『Three incorrect attempts detected. Access has been disabled for one hour.』
どこからともなく女性の声で、そう言われた。
全員がキョロキョロする中で、俺だけは理解できた。
「三回、入力を間違えたからしばらく使えないようにするってさ」
俺がシスとダリルに言うと、二人が気まずそうに操作盤から離れる。
ザイードが、床に這いつくばって下を覗きながら声をあげた。
「おい! 透けて見えるぞ!」
彼のように、俺も床に這いつくばって、下を見る。
特殊なガラスの床だったらしく、至近距離から下の様子が見えた。
ドーム状の施設から、下へとエレベーターが繋がっていると思われる。
そして、下部の底には、いくつも円形の扉があり、それはびっしりと床を埋め尽くしていた。
俺には、それが何なのか――嫌な想像がついてしまった。
核兵器。
この下には、それが眠っているんじゃないのか?
床に座り、一人、考える。
仮に……仮にだ。
この世界が、とんでもなく未来の地球と仮定した時、もしかして、説明がつくんじゃないのか?
月がある。
空気もある。
動植物が似ている……違うものは、とてつもなく長い年月の中での変化……そして魔法も、人類の進化だとすると一応は考えられる。
俺が生きていた二十一世紀の日本だって、大昔は、でかい爬虫類が陸上をうろついていたのだ。その前は、地球のほとんどは海だったようだし、とても人が住めない環境だったとも知っている。
「どうした?」
ダリルの問いに、俺は顔をあげた。
「いや、ここはもう何もないと思う」
「でも、書庫はどうする? 下にあるって記録は残ってるんだろ?」
「書庫、たぶん、あっちじゃないかな?」
シスが言い、管制室のほうを指さした。
「お前、知ってるのか?」
ダリルの問いに、彼女は首を左右に振る。
「いや、入ったことはないけど、封印の間の奥に、扉がある。わたしはその扉を開けてない」
なるほど。
俺たちは階段をあがり、再び封印の間へと入った。
たしかに、ドアがある。
鍵……当然、かかっている。
「壊したらどう?」
リューネの言葉に、俺は首を傾げた。
この施設が、核施設だったとして、レンガや石じゃないから魔法で破壊できるのかと思うも、試してみるしかないと決める。
「離れていてくれ」
俺の言葉に、全員が封印の間の外まで後退した。
火炎系の、最高難易度をぶつけてみるか……。
「恒星炎撫」
魔法の名を、つぶやく。
一瞬で、俺が狙ったドアが蒸発する。その周囲も、数千度の炎を受けて溶けて流れ落ちた。
液体となった金属が、階段下のガラスへと落ちる……。
……待て。
その下って、たしか――。
背筋が冷えた。
まずい。ものすごくまずい。
と……止めないと!
「凍王降臨!」
俺は、全員を結界魔法で守ってから、氷系最高難易度の魔法で空間全体を凍りつかせた。
液状となった高温の金属は、滝のような形となって固まる。
扉の向こう、部屋の一部が融解しているが、入れないことはなかった。
「……殿下」
ケイルズの声。
「だから、殿下はやめてくれる?」
「……素晴らしい!」
ケイルズが目を見開いて叫んだ。その後ろで、彼の仲間たちが騒ぐ。
「とてつもないお力だ!」
「七つの罪など頼らなくても、殿下がおわせば勝てる!」
「すごい! 呪文の詠唱なしで恒星炎撫と凍王降臨よ!」
「しかも、平然とされておられる!」
……正直、照れた。
内心、とんでもなく焦っていたけど、焦りすぎて、無表情なだけだなんて言えなかった。
- Il était appelé le Grand Mage. -
「書庫?」
入った誰もが、怪訝となる。
だけど、俺には理解できた。
一台の端末が正面奥にある。
つまり、本などで保管されているのではなく、データになっているのだ。
端末に近づき、手でふれると起動した。
パスワード……わかるはずがない。
ロイタール遺跡の地下に、書庫があり、貴重な書物や楽譜が眠っている……ということが記録として残っていることから、おそらく……それは事実なんだろう。
だけど、その記録を残した人は、大昔の……この施設を作った人たちに近いと仮定すると、相当に古い……今からずっと過去の人たち。
意気消沈して、氷魔人がいる階層へと上がった俺たちは、そのまま地上へと出ることにした。
通路には、氷魔人がいる。
彼に、手をあげて挨拶をすると、通してくれた。
……一度、敵ではないと認識すると、これで通れるらしい。
「皇太后陛下、がっかりなさるよね?」
リューネの問いに、頷きを返す。
先頭を行くケイルズたちが、どういうわけか、歩く速度を落とした。
「どうした?」
ダリルの問いに、先頭のジュールが言う。
「……通路が、来た時と変わっている」
「なに?」
前に出ると、左右に別れた三叉路だった。
「一本道、だったよね?」
リューネの言葉に、俺は頷いた。
そうだ。
まっすぐ、一本だったはず。
俺は、最後尾のシスを見た。
彼女なら、知っていると思ったからだ。
「ああ、六層に降りると、道が変わるんだ」
なんのことはないという言い方のシスに、全員が呆れた。
早く言え!
「左だよ」
彼女の言に、では右は? と思った。
「右は?」
「行ったことがない」
「行きますか?」
ケイルズの問いに、頷きを返す。
進むと、すぐに広い空間に出た……。
邪悪な気配が、漂っている。
ケイルズが、警戒を強めながら前に出た。
「ご注意を……かなり危ない相手かと」
彼は言い、剣をすらりと抜いた。
それを合図に、彼の仲間たちも武器を構える。
シスが背後を守り、俺とダリルはケイルズたちの後ろについた。
なんだ?
広い空間に、その邪悪な気を放つ奴の姿はない。
肉体がない、霊体?
守護霊ならば、それが宿る肉体があるはずだが……。
ん?
音?
……しししししし、と音がする?
右!
「右!」
俺が叫ぶより早く、ダリルが叫んだ。
同時に、俺は右方向へと雷撃と火炎弾を放つ。
何もいなかったはずの空間で、俺の魔法は爆発する。
防御魔法!
爆発で色づいた空間に、その姿が一瞬、露わとなった。
女の上半身に、蛇の下半身!
蛇女の見た目だが、ただの蛇女じゃない!
擬態して、姿を隠す蛇女。
「石眼蛇姫か!」
ケイルズは、盾で顔を隠しながら叫んだ。




