ロイタール遺跡の地下深くへ
ロイタール遺跡の地下深くへと、俺たちとケイルズの隊は協力して降りようと決まった。
途中、現れる魔獣はどれも下等な種で、数は多かったが俺たちにとって難しい相手じゃない。ただ、俺がこう言えるのは、ケイルズたちがいるからだ。そして、ダリルの加入がでかい。
彼はやっぱり、できる人だ。前衛に出ると、多対一でも巧みな剣術と体裁きで、下等な魔獣程度なら相手にならなかった。そして、リューネはまだ弱いけど、風刃波を使えるようになっているので、地味だけど助かっている。
俺が、魔法を使わなくていい状況が増えたからだ。
ただ、どうしても強敵と出くわすことはある。
牛頭魔人の群れとの遭遇が、それだった。
さすがに俺が、火炎と雷撃の魔法で蹴散らすことになったが、それまで温存できていたからできたことだとも言える。
「アルス様は、すばらしい魔導士におなりになりました」
ケイルズの感嘆に、俺はマリーナのおかげだと答える。
この時、ケイルズに従っていた剣士ザイードが、俺を見て口を開いた。
「閣下、アルス様は魔導士の素質があり、赤子の頃の記憶もお持ち……もしや、竜に愛された者ではありますまいか?」
女性剣士のメリッサも、俺を見て頷く。
「そうです。それならば、ぜひ表舞台に出て頂かなければ!」
超迷惑なんだけど、ケイルズの仲間だからはっきりと言うのはつらいところがあります……。
「それなんだけど――」
リューネが、倒した牛頭魔人の脚から、弩の矢を抜きながら口を挟んだ。
「――アルスがそれを望んでいると思う? そっちで勝手に盛り上がるのはいいけど、アルス本人の気持ちを考えてあげてほしい」
姐さん! ありがとう。
俺が言いたいことを、言ってくれました!
ケイルズの視線を受けて、俺は頷く。
「俺は、帝位とは、帝国とか、あまり関わり合いになりたくないのが正直なところです」
「……アルス様、申し訳ござません。勝手なことを申している自覚はありますが、我々は簡単に、わかりましたと応じるのは難しいのです」
ケイルズは言い、通路の奥を示す。
「しかし今は、まず先へ向かいましょう」
「……そうだな。そうしよう」
歩きながら、考える。
たしかに、吸血鬼になってまで戦うケイルズと、その仲間たちだ。
目の前に、宰相打倒の旗印的な存在の俺がいて、諦めろと言われてもなかなか難しいだろう。
だけど、と俺は続ける。
もし俺があのまま帝国にいて、皇子から皇太子となり、皇帝となっていたら?
それはそれで、少し複雑だ。
マリーナは、死ななくてもよかったはずだ。
ケイルズも、吸血鬼にならなくてよかった。
……だけど、村の皆やゼグスやリーゼキュラと出会うことはなかっただろう。
俺は、すぐ後ろを歩くリューネを肩越しに見た。
「なに?」
俺が隠し事をしていたことを知っても、彼女は態度を変えない。
いや、たぶん、いろいろと言いたいことはあるだろうし、聞きたいことはあると思う。
だけど、それをしていないだけだ。
「ありがとう」
リューネに感謝を伝えると、優しい笑みを見せてくれた。
- Il était appelé le Grand Mage. -
五層は、まっすぐな一本道がずっと奥まで続いている。
先頭を進むのは、ケイルズの仲間でジュールという剣士だ。その後ろに、魔導士のハミルが続き、ケイルズ、ザイード、メリッサが進む。その彼らに、ダリル、俺、リューネ、シスとついて行く。
最後尾のシスは、時々、後方に向かって氷槍を撃っていた。
隠れていた奴らが、こそこそと後ろから迫って来ていたらしい。
「閣下、何かいます」
ジュールの声に、最後尾のシスが声をあげる。
「あ、ダメ。ちょっと待って」
シスが駆け足で先頭に立つと、まっすぐに伸びる通路の先を見つめる。
俺は彼女の横に、並んだ。
「どうだ?」
「うん、いる。にこやかに通り過ぎよう」
「……大丈夫か?」
「わたしは、大丈夫」
「俺たちは!?」
「試すしかない」
……。
いや、他に方法がないし、戦いにばれば犠牲者を覚悟しないといけないほどの相手だ。
俺は、ケイルズたちに伝える。
「敵意がないと示せば、戦いにならない可能性がある。まずはそれを試します」
「勝てないほどの敵ですか?」
ケイルズの問いに、彼がこれまでとてつもない経験をしてきたのだと理解できたけど、相手のことを伝えると、彼は納得した。
「なるほど……氷魔人か」
シスを先頭に、ゆっくりと進むとその姿が露わとなる。
まるで、氷河から削られて作られたような人形、とでも言えばいいだろうか。全身が氷でできていて、頭部はつるりとしているが、目の箇所には濃い闇のような穴が二つ、空いている。
シスが、まずは手を振る。
そして彼女が、その横を通り過ぎた……通過できた!
次、俺。
緊張しつつ、手を振って、氷魔人の横を通過……。
「This is a restricted nuclear weapons facility. Do you have clearance to enter?」
喋った!
俺は思わず立ち止まり、氷魔人を見る。先に通過したシスも、驚いて立ち止まっていた。
シスが竜言語の古いものだと言っていた魔人の言葉を、俺は理解できた。
なぜなら、英語だったからだ……。
「I don’t have clearance, but I need to get in.」
俺が、入館証はないが入りたいと伝えると、氷魔人が答える。
「Entry granted. Proceed at your own risk.」
許可するが、自己責任だと言われた。
「Can they come in too?」
俺が皆もいいか? と問うと、氷魔人は道を譲るように、端に立つ。
誰も通過を許されなかった場所を、難なく通過した俺たち……。
「すごい! お前、古代竜言語を操れるのか!?」
シスが俺を褒めてくれる……珍しい。
「いや、あれは……」
竜言語じゃない。
俺が、前世で使っていた言語のひとつだ。
説明が、難しい。
「あ! 扉があるぞ!」
ザイードの声。
俺は、その扉を見て、胸のざわつきを誤魔化せない。
その扉は、前世の時に何度も見たことがあるもの……エレベーターで間違いなかった。
ロイタール遺跡?
氷魔人は、こう言っていた。
Restricted nuclear weapons facility.……核兵器関連の立ち入り禁止エリアだと。
- Il était appelé le Grand Mage. -
全員で箱に乗り込み、ひとつだけのボタンを押す。
俺が操作するのを、皆が驚いた顔で見ていた。
「アル、知ってるの?」
「……来た事はないけど、同じものを知っている」
説明が難しい。
感覚的には、十秒ほど。
扉が開き、俺たちはその場所に出た。
「管制室」
俺の言葉に、皆が目を見張る。
「……ここは、ここは何だ?」
ケイルズの動揺に、皆も反応する。
それぞれが見たこともない建築物の中で、戸惑っている。
「明るい……どういう仕組み?」
リューネの困惑に、シスが答える。
「封印はこっち」
そうか……こいつは前、来たことがあるんだ。
彼女がいう、封印場所は管制室の奥、通路を進んだ先だった。
シスが、レバーを引くと重い扉が開いた。
無機質な部屋の中央に、その箱は置かれている。これまでと同じく、棺ほどの大きさだ。
「封印は解かれていない。どうする? お前たちは、世界に災いを広げたいか?」
シスがケイルズたちに問い、彼らはお互いを見た。
相談する彼らを横に、俺は通路に出る。ガラス張りの通路から、施設下部がよく見えた。ここはまだ上層部で、下に降りる階段がどこかから伸びているのが見えた。同時に、底のほうには巨大なドーム状の装置があり、他にもたくさんの設備が発光することで生きていると示している。
「アル、お前はここ、どういうところかわかっているのか?」
ダリルの問いに、俺は悩んだ。
リューネも、横に立つ。
「……さっきの、皇子であったことと、関係があるの?」
彼女の問い。
俺は、封印の間に振り返ると、彼らはまだ話し合っている。
俺は、シスを呼んだ。
「シス、ちょっといい?」
「休憩か? 干し肉を食べよう」
ニコニコで近づいてきた彼女に、そうじゃないと言うとがっくりとされた……。
「大事な、話をする」
俺は言い、三人の反応を見た。
シスだけが、「干し肉」とぼやき、二人は真面目な顔で俺を見ている。
俺が、口を開く。
「俺は、前世の記憶がある」




