聖なる騎士団
俺はケイルズに、これまでのことを話した。
その話は長かったけれど、彼の仲間も俺の友人たちも俺たち二人の邪魔をしないでくれた。
「――それで、一人となった俺は村を出て、マリーナがしたいと言っていた魔導書を探す旅に出たんだ」
ケイルズは頷くと、彼の仲間たちに言う。
「すまないが、俺はこの方を前にして、隠し事はできぬ。許してくれ」
彼の仲間たちは、無言でうなずいた。
彼らのリーダーがケイルズで、さらに信頼されているのだと感じる。
「殿下、私はあれ――」
「待って、ケイルズ。俺のことはどうかアルスと呼んでほしい。マリーナがつけてくれた名前なんだ。友人たちは、アルと呼ぶから、アルと呼んでほしい」
「承知しました、アルス様……しかし私は、諦めておりません」
諦めてない? 何を?
彼は、仲間たちを見て頷くと、彼らは一斉に俺の前で片膝をついた。
「ちょ……ちょっと、ケイルズ」
「アルス様……と今はお呼びします。私は今、帝国の宰相を倒すために活動をしております」
彼はそう言うと、後方に控える仲間たちを眺めながら口を開く。
「この者たちは、同志です。皆、帝国宰相であるシュバイク侯ズラターンによって家族を殺され、復讐を誓った者たちです。そして、彼奴を倒し、幽閉されている先帝陛下をお助けした後、改めて殿下……アルス様をお迎えにあがろうと考えておりました」
……超絶、迷惑な話なのだけど、やめろ! と拒否れないのは相手が恩人だから……。
困った俺の内心は、顔に出ていた。
それを見たケイルズも、また複雑な心境を表情に表す。
沈黙を破ったのは、シスだった。
「ね、あんたらの事情はわかったけど、誰が吸血鬼なの?」
彼女の問いに、ケイルズが俺を見る。
……彼が?
シスは、深刻さなど感じさせない口調で話す。
「あんた? アルの知り合いが吸血鬼? 七つの罪の力を使うために人を捨てたのなら、悪いことは言わない。それに頼らず、宰相って奴をやっつける方法を考えて」
シスの言を聞き、理解できた。
七つの罪を、人が持てば大変なことになると教わっていたからだ。
彼女は、彼らが七つの罪を探す者達と仮定して、今の指摘をしてみせた。それは、相手の反応で、推測を確かめようという意図だろう。
大食いのポンコツだと思っていたけど……意外だ。
ケイルズが、シスを見る。
「エルフ……残念ながら、お前の忠告は無駄だ。もう始まっている」
「シスレミルファンギュロンフェンティーナロンヴェル。アルの知り合いなら、シスでいいわよ。七つ魔の王の召喚をして、特定の敵を排除することを目的としているなら……おすすめできない方法なんだけど」
彼女はそう言うと、宝物庫であった空間の奥を指さす。
「また、出て来た」
見ると、蜥蜴人たちがぞろぞろと姿を見せ始めている。
知能は低いが武器を扱えるし、群れで行動する彼らは俺たちを見て、鳴き声をあげながら近づいてきた。
「ひとまず、あれらを排除しましょう」
ケイルズの案に、異論はない。
彼らが戦おうとするので、俺たちは後方で待機をさせてもらう。
「いいの?」
リューネの問いに、俺は頷く。
「お任せしていればいいと思う。彼らが危なくなったら、助けるよ」
こう言った俺だったが、その必要はまったくなかった。
ケイルズは恐ろしく強く、また彼の仲間たちも一騎当千の強者ばかりだ。
仮に今、俺たちが彼らと敵対して戦うことになったなら、危ないように思う。
そう時間をかけず、蜥蜴人の群れを掃討したケイルズたち。
ケイルズが、俺に言う。
「シス殿が、おすすめできないという理由をお聞かせください。ここで、少し休憩をしましょう」
ケイルズが言い、彼の仲間二人が歩哨として前後に立った。
遠慮なく座らせてもらった俺の隣で、リューネが干しブドウ、サラミを取り出す。
「血はあげられないけど、分けますよ?」
彼女の申し出にケイルズが笑い、彼の仲間二人が笑みを浮かべてサラミを受け取る。
それを見て、シスも手を差し出していた。
- Il était appelé le Grand Mage. -
「まず、アルス様に説明をしないといけませんね」
ケイルズは穏やかな表情で言うと、仲間が差し出した瓶を受け取る。
血が入った瓶、だ。
彼はそれを両手で持ち、口を開く。
「私は、お二人と別れた後、追手の者達と戦い続けました」
俺はこの時、彼の敵になることだけはしたくないと感じた。
あの村で、穏やかに過ごせた俺の日常は、ケイルズの犠牲によって成り立っているとわかったからだ。
「その中で、先帝陛下が幽閉されたと聞きました。自分にはどうすることもできないと思ったのですが、その時に訪れていた土地がちょうど、宰相の奸計によって取り潰しを受けた諸侯の土地だったのです。彼らはその時、家族を失った者たち」
ケイルズの言葉で、四人が俺を見る。
男三人と女性一人。
年齢は、俺よりもずっと上だけどまだ若い。
「彼らは諸侯に仕えていた騎士の家族、親族……家族、家、資産を宰相によって奪われました」
ケイルズはそこで、血の瓶へと視線を落とした。
「私は逃げるために、彼らもまた生き延びるために、協力関係となり……その輪は大きくなりました。しかし、悲しいことに私は老いた」
彼はそこで、悲し気な笑みとなる。
「時間を惜しみ、禁忌に手を出しました」
「それで、ケイルズは吸血鬼に?」
「ええ。仲間に優れた屍術士がいます。彼の手で……ですがこれにより、不死人となった今の私は、短時間ならば七つの罪に触れることができるようにもなった」
ケイルズはそこで、シスを見た。
「シス殿、エルフの君にはわかるまい。短い生しか許されぬ人の悩みなど」
シスは干しブドウの袋へと手を突っ込みながら、彼に応じる。
「逆に、お前たちもわたしたちの悩みがわからんだろう? お互い様でしょ?」
「悩み?」
ダリルの問いに、シスは頷く。
「長すぎる寿命のわたしたちは、いつも見送る側だ」
彼女の言葉に、俺は胸の痛みを誘われた。
脳裏に、マリーナとの別れが蘇る。
俺は、シスを見る。
大食いエルフのくせに、繊細なところもあるんだなという思いと、食べながら言うなよという批判が半々だった。
シスは干しブドウの袋をくしゃっと握りつぶし、ケイルズを見た。
「お前の事情はわかった。わたしは無理強いできる立場じゃないけれど、お前が無残な姿となるとアルが悲しむだろうと思って言う」
彼女の言い様に、ケイルズは表情を消す。
「七つ魔の王は、お前たちが思っているような神とか悪魔じゃないのだ。災厄……病といえばわかる?」
「病の原因……てことか?」
ダリルの指摘に、シスは頷く。
「そう。確実に死に至る病の素……召喚者は、最初の発病者だ。全身の毛穴から、血を流して死ぬだろう」
彼女はそこで、リューネに手を差し出しておかわりと求めるも、リューネはその手をパシンとはたいた。
「けち」
「一人で食べすぎ」
シスは恨めしそうな表情でリューネを見ながらも、続きを話す。
「ともかく、わたしは伝えたぞ。それに、誰が七つ魔の王のことを言い出したのかわからないけど、そいつに騙されているか、そいつ自身もわかっていないかのどっちかだと思う」
俺はケイルズを見て、尋ねる。
いや、おそらくそうだろうと思うことを、確認したかったのだ。
「屍術士に、宰相を倒すためということで、教わったのでは?」
「……そうです」
ケイルズは、小さく頷いた。
彼の仲間の一人が、口を開く。
「しかし閣下、グレンダルフ様はどうしてそのようなことを仰ったのでしょうか?」
グレンダルフという人物が、ケイルズを吸血鬼にして、さらに七つの罪を開放したがっているのか。
「グレンダルフとは?」
ダリルの問いに、ケイルズが一呼吸の後、答える。
「我らの指導者だ。我々、聖なる騎士団の総長だ」
彼はそう言うと、溜め息をついた。




