ラヴァリス
「この階段の途中に、隠し通路があるはず」
シスが言う階段とは、前回は毒ガスが溜まっているということで撤退した階段だ。彼女曰く、そこまで降りる途中に、壁に偽装した扉があるという。
たしかに、前に来た時はいちいち壁を調べていなかった。
ドライヴを先頭に、シス、リューネそして最後尾に俺という順番で階段を降りて、途中、シスが立ち止まった。
「ここだ」
彼女は壁に空いた小さな穴――俺の指が入るかどうかという大きさの穴へ、人差し指を入れる。すると、カチリという音がして、壁がズズズと動き、通路が現れた。
「おおおお!」
ドライヴが興奮し、俺も思わずガッツポーズをする。
「でも、悪い奴らにこの穴も見つかっていたかもしれないよ?」
リューネの指摘に、シスが指を引き出して見せて、その心配を否定した。
「わたしたち、エルフの血が鍵なの」
見れば、彼女の指先には、針で刺したようにぷっくりと血がにじんでいる。
「痛い? 大丈夫?」
リューネが心配すると、照れた顔のシスがそっぽを向いた。
「べ……べつにこんなの平気よ、平気。さ、行くわよ」
「あんた、先頭で大丈夫?」
「……」
シスは素直に後ろへと移動し、ドライヴ、俺、リューネ、シスの順となる。
通路は平坦で、まっすぐ進むとその空間に出た。
バルニア迷宮の、あの空間に似ている!
ただ、あちらよりもこちらのほうが厳重だったという違いはあれど、空間の造りはそっくりだ。
立方体の空間の中央に、同じ棺が置かれていた。
……フラドに売った棺、偽物だった。
再会した時、殺されるんじゃないだろうかと脳内で案じていると、リューネが言う。
「フラドに売った棺、偽物だった……ばれたら、やばいかも」
姐さん! 同じ心配をしています。
彼女が俺を見て、コクリを頷いた。
「とにかく、中を確かめる」
シスが言い、棺の蓋を軽々と動かした。それは、彼女に反応して蓋がスライドしたという表現が正しい。
人ひとりがすっぽりと入ることができる棺の中には、子供の拳程度の宝玉がある。赤く鈍く輝いており、俺が手を伸ばそうとするとドライヴに止められた。
「待って。これは人が触らないほうがいい」
「そうなの?」
リューネの問いに答えたのは、シスだ。
「人間が触ると、その感情に支配される。強欲……に」
「封印を解除している奴らは、人間じゃないってことか?」
俺の問いに、シスは笑った。
「こんなバカなことをするのは、人間くらいしかいないでしょ? すでに異変が起きているけど、広まっていないだけか……触れたらダメなことを知っていて、触れないように保管をしているのか、どっちかだと思うけど」
なるほど。
「これは、どうする?」
リューネが、強欲の宝玉を見つめて言い、俺たちは黙った。
ここに、保管されているのは確認できた。
しかし、このままにしていて良いのかという問題がある。
「魔族自治区に運ぼう」
ドライヴが言う。
「僕が、ガルガンティアに渡すよ。それが一番、安全」
頭いい!
さすがケットシーの最高齢!
「途中、大丈夫?」
リューネが案じるが、彼はニコリとした。
「僕はこう見えて、すっごい速いんだよ? 大丈夫」
彼はそう言って、強欲を持つ。
そして、固まった。
え?
俺とリューネは、動かないドライヴを見つめた。
「ドライヴ?」
俺が呼ぶも、彼は固まったままだ。
「大丈夫?」
リューネが彼を覗き込む。
「にゃ!」
ドライヴが、パッと笑う。
「うわ!」
「びっくりした!」
驚く俺たちを見て、ドライヴがニャニャニャと笑う……。
悪戯をされた……。
「もぉ……何やってんですか」
シスが、呆れて声を出す。
「ドライヴ様、遊びすぎですよ」
彼女の注意に、ドライヴがニコニコとしながら先頭に立った。
「ごめん、二人を驚かそうと思いついちゃったんだ」
彼は上機嫌だった……。
- Il était appelé le Grand Mage. -
「んにゃ、僕はこの足でガルガンティアのところに行くよ」
魔将の城の外に出たところで、ドライヴが言った。
「お願いします」
俺が頭をさげると、彼は笑う。
「いいんだ、僕はこれでも速いから、すぐに着いちゃうからね。じゃ、シスは二人に迷惑をかけないように」
ドライヴの注意を受けて、シスが微妙な表情となる。
「そんなこと……わたしが迷惑を感じることはあると思いますが、二人に対してこのわた――」
「迷惑をかけちゃダメだよ」
発言をドライヴに遮られたシスは、頬をピクピクとしながら頷く。
「ド……ドライヴ様のご命令だから、仕方なくあんたたちに迷惑かけないように努力するから」
「戦いの時、ちゃんと戦ってよ」
リューネに追撃をされたシスが、「ぐ……」と声を漏らして黙った。
「んにゃ、またいつでも訪ねておいで」
ドライヴはそう言うと、ひょいとジャンプする。
え? と思う間に、彼は森の枝と枝をぴょんぴょんと跳ねるように移動し、すぐに姿が見えなくなった。
「……さすが、猫」
リューネが言い、シスがそれをとがめた。
「猫、じゃないわ。ケットシーよ。この世界で最も高貴なケットシーのドライヴ様なんだから、もうちょっと敬意をもってほしい」
「わかった、わかったよ。ごめん」
俺が謝ることでリューネの反論を封じ込め、歩き出す。
「ひとまず、中央大陸行きか、五か国半島行きかを船便を見て決めよう」
俺の提案に、リューネがシスを無視して歩き、最後尾にエルフがつく。
「ちょっと! 勝手に……」
文句を言いながらも、一人は不安なのだろう。
ぶつぶつと言いながら、ついて来ている。
リューネが、俺のすぐ後ろで声をかけてきた。
「ね、あの棺……偽物はよくないよね? フラド・ヴァラキを探す? 謝ったほうがよくないかな?」
「……たしかに、それはそうかもしれないけど、行先がわからない……いや、わかるな」
「戦場に向かってたよね? お金、返したほうがいいと思う。こういうこと、ちゃんとしないと後が怖い相手だと思う」
同感です。
なにせ、国が背後にいる傭兵団で、教導部隊だから……。
中央大陸に行くことになるかもしれないし、ここはちゃんとしておこう。
「シス、ということで、お金を返しに行かないといけない。寄り道になるけど我慢してほしい」
俺が伝えると、彼女は意外にも「わかった」とすぐに応じてくれて、こう続ける。
「不正をしないってのは、賛成」
ここから、東の方向……ローランド王国との国境を目指して移動か。
途中、宿場町で馬を借りるのもアリだな。




