出直した先で出会ったもの
地下へと下りた俺は、光球に接近してくる生物には撃てと命じて、進む。
呆れるほど、次から次へと魔獣が湧いてくる。
次々と光球が、撃ち尽くして消えていくので、次々と光球を作り続けていると、さすがに疲れてきた。
「……そんなに魔法を使って、疲れないの?」
システィーナの問いに、俺は苦笑を返す。
「疲れた」
「アル、撤退しよう。キリがない」
姐さんの判断に従い、後方を注意しながら地上へと戻る。
「ねぇ? ドライヴを頼ろうよ?」
リューネの提案に、システィーナがうすら笑う。
「ドライヴ様のこと舐めてるの? 最高齢のケットシーでアイリーン様に匹敵する存在なのよ?」
「舐めてないよ。でも、前も協力してくれたから。アル、どう?」
「そうだね……俺が変に頑固なせいで、俺たちが危険になるんじゃ意味ない。お願いしよう」
それにしても大蠍が大量に発生……て思っていたけど、おそらくは……俺が狂角獣を倒したことで、強者がいなくなったおかげで大蠍の活動範囲が広がった……ムカデやゴブリンを掃討したのも、関係しちゃっているのでは?
あれだ……バランスが崩れたのだ。
なので、おそらくだけど……大蠍をまた掃討すると、大蠍を天敵としている魔獣が活動範囲を広げてしまう……地上部分も、黒司祭を倒したことでバランスがおかしくなっているかもしれないので、要注意か。
「アル、後ろ! 来る」
「大きい?」
「速い」
俺は素早く最後尾に移動し、後方へと光球を飛ばした。
一瞬後、光に照らされたそれは、すさまじい速度で接近してきた!
とっさに、黒剣を抜き放ってその爪を防ぐ。
黒豹!
魔獣は左右の爪で連続攻撃をしかけてきて、俺を防戦一方にした直後、壁を蹴って信じられない動きで首を狙ってきた!
まずい!
ズドン! という衝撃音で、黒豹が空中で止まる。
俺の背後から、氷槍が発動されて、魔獣を串刺しにしたのだ。
苦しそうに鳴いた黒豹に、黒剣でとどめを刺す。
「システィーナ、助かった」
システィーナは、震えていた。
「と……とうぜんでしょ! かかかかか感謝しなさいよ!」
どもってるだろうがよ! とつっこむのは我慢して、再び先頭に立つ。
最後尾のリューネが、システィーナの背中を叩いたと乾いた音でわかった。
「いたぁい!」
「よくやったじゃん! さすが!」
「いちいち殴らなくてもいいじゃない、暴力女が」
「なに? 何か言った!?」
「なぁんにも」
……魔獣が寄ってくるから、静かにしてほしいと思った。
- Il était appelé le Grand Mage. -
「それで、僕のところに来たのかい?」
ドライヴは笑いながら言い、俺は頭を下げた。
魔将の城から撤退した俺たちは、ケットシーの村へと直行している。
そして、ドライヴに一緒について来てほしいとお願いして、彼は快諾してくれた。
システィーナはもともと、俺たちとドライヴの関係に懐疑的だったが、ケットシーの村に一緒に入り、俺たちの関係を見るなり目を丸くしていた。
「あの、ドライヴ様、本当にいいのですか? 一緒に来ていただけるのですか?」
システィーナの問いに、ドライヴはニコニコとする。
「いいよ。僕、アルとリューネ、好きだから」
彼はそう言うと、ウズウズした顔で俺たちに言う。
「ね? あれしよ? 三人でこうやって」
どうやら、三人で抱き合って喜び合うってのを、気に入っているみたいだ。
何がツボなのか、いまいちわからないけど、喜んでくれているなら嬉しい。
「よーし!」
リューネが声を出し、両手を広げる。
俺とドライヴ、リューネが抱き合って声をあげる。
「攻略するよ!」
「おー!」
「にゃにゃにゃー!」
三人で叫んでいると、一人、俺たちを見て何かを訴えていた。
「リューネ」
俺が姐さんに尋ねると、彼女がシスティーナを誘う。
「やる?」
「あ……当たり前でしょ、仲間なんだから!」
四人で輪になり、気合いの声をあげた。
- Il était appelé le Grand Mage. -
翌日の昼前に、俺たちは魔将の城に到着した。
ドライヴがいてくれるおかげで、昨日のことが嘘のように静かだ。
それでも、時々だけどドライヴが何者かに警告を発することがあった。
「僕の友達を傷つけたら許さないよ」
「敵意を向けたら、怒るよ」
彼のおかげで戦闘になることなく、順調に地下の深部へと到達することができた。
地下六層の玉座の間から奥に進み、鉄格子で封じられている階段の前に立つ。
システィーナが、風刃波を発動して、鉄格子を切断し人が通れるだけの穴を作った。びびってなければ、優秀な魔導士だと思う。呪文の詠唱をしないことは言うまでもないけど、予備動作がまったくない。それだけ、何度もなんども練習をおこなった結果だとわかる。
このことから、やはり長寿のエルフや魔族のほうが、魔導士に向いていることが理解できるだろう。人間は彼らに比べて、許された時間が圧倒的に少ないのだから。
「じゃ、水の精霊の加護でわたしたちを守るから、じっとしていて」
システィーナの指示で、俺たちは彼女を中心に集まった。
一瞬で、周囲の気温が下がったような感覚になる。
「水の精霊の加護で包んだ」
彼女の言で、ドライヴを先頭に階段を降りる。
長いながい階段は、延々と地下まで続いているのではないかと思うほどだ。
開けた場所に出ると、そこはマグマの川にできた中州のようなところで、水の精霊の加護がないと立つことさえ不可能だろう。
「何も、ないね」
リューネの言葉に、システィーナが首を左右に振った。
「いえ、何か、いる」
「いる? こんなところに?」
リューネが問い返した時、ドライヴが頭上を見上げる。
釣られて、俺たちも上を見た……それは、そこに浮いていたのだ。
人の大きさほどの、竜。
赤い外殻に、蝙蝠を連想させる羽が四枚、そして、身体よりも長い尾の先は刃物のように鋭い。
大きくないのに、見た瞬間、全身が汗で濡れた。
その圧力を前に、呼吸が早まる。
「ヴァルカニアス」
ドライヴの呟きに、俺は母さんから聞かされた神話を思い出した。
炎の精霊を束ねる王であるイフリートを竜騎士にして、金竜討伐に協力した竜だ。竜であるのに、竜の王を倒す側についたとされている。
そんな竜が、どうしてここにいる?
ヴァルカニアスは、瞼を閉じている。
どうやら、眠っているようだ。
本能が、立ち去れと命じている。
いや、その竜の存在そのものが、俺たちに訴えているように感じられた。
「封印されていない」
システィーナの言葉。
彼女は、小声で俺たちに言う。
「竜を封印する時は、必ず魂と身体を別々にして封じる。でもこれは……ただ眠っているだけ。つまり、この竜が自ら望んで、ここで睡眠をとっていると言える」
「起き……たら……どうなるの?」
リューネも、苦しそうに問う。
「さぁ? でも、わたしたちが……殺されないことを願うしかないわ」
システィーナは比較的、平気のような印象を受けた。
俺が、先頭のドライヴに声をかける。
「立ち去ろう」
「……そうしよう。静かにね。こういう時、誰かが転んで、竜が目覚めるなんて嫌だからね」
よくあるパターンだ。
四人で、階段の方向へと向きを変えた時だった。
『ふふふ……我に会いに来たのではないのだね?』
頭の中に、直接とどく声は若い男のものだった。
誰の声? と問うまでもない。
俺は、頭上のヴァルカニアスが目を開いて、俺たちを見下ろしている光景に喉を鳴らす。
『怖がらなくていい。ケットシーが一緒ということは、君たちの魂は汚れていないだろうからね』
竜はふわりと、俺たちの前に着地すると笑みを浮かべる。
『ただ、懐かしい匂いがする魂がある。人間』
竜は、俺を見ている。
先程までの、威圧感は薄れ、どこか心地よさを感じ始めていた。
「俺のこと……を? ご存知なのですか?」
『君のことは知らない。しかし、バルボーザに選ばれた魂だということはわかる』
それって……忌み子ってやつじゃないのか?
『忌む? 違う――』
頭の中を、読まれている。
『選ばれた魂ということだ。他の世界でその魂は肉体から切り離された後、バルボーザに見つけられ、この世界に運ばれてきた。バルボーザは、意味のないことをしない。おそらく、君にしかできないことがこの世界にあるから、バルボーザが君という魂を選んだ……我はそう感じるよ』
この時、リューネが俺の腕に触れた。
目があうと、彼女は俺を案じる表情だとわかる。
ヴァルカニアスは俺とリューネを確かに見たし、俺たちの頭の中を読んでいたはずだけど、何も触れずにシスティーナへと視線を移した。
『エルフ、彼を助けるように。それがきっと、君らの種の助けにもなるはずだ』
「はひ!」
『我は、また眠るよ。戦いの傷が癒えるまでは』
ヴァルカニアスは、俺たちにそう伝えると、すうっと空中に浮かびあがり、また瞼を閉じる。
彼が瞼を閉じると、心地よさが消え去り、最初に感じていた圧に襲われる。
これは……睡眠の邪魔をしたら許さないという意味だな?
俺たちは、ドライヴがいたから、殺されなくてすんだんだ……。
リューネの提案にしたがって、ドライヴを頼ってよかった。強行突破で降りてきていたら、ここで命を落としていたかもしれない。
「アル」
ドライヴに声をかけられて、思考を止めた。
「あ、ごめん、帰ろう」
「……うん。それに、君の話を上で聞かせて……僕は、そうしないといけない」
ドライヴが、真剣な顔で言った。




