エルフは大食いなのか?
読書に没頭していると、リューネが「あ、夜だ。宿に帰らないと」と慌て、二人で急いで帰路につく。
宿に戻ると、戸締り直前だったらしく「おせぇよ」とオークに叱られ、「もう飯も片付けたぞ、これしか残ってない」と言われたのは、兎肉のローストだった。
無人の食堂に、光球を浮かべて二人で食卓につく。兎のもも肉、胸肉などを香草とキノコ、ニンジンなどとじっくりと焼き上げたローストは、コボルトの村で食べていたものよりも数段上の美味だった。
うまい!
「アルス、魔法の勉強、おもしろいね」
「そう? だけど言語を覚えた後が大変だよ。旅の時は、勉強みてあげるよ」
「あ、生意気! 上から!」
「魔導士としては、俺が先輩だから」
「先輩、さーせん、よろしく」
二人で笑い、しょうもない話をして、食事をしていると、オークが食堂に顔をのぞかせた。
「おい、あんたらに客」
誰だ? と思うと、食堂入口にはクソ生意気なエルフが姿を見せる。
「ちょっといい?」
システィーナはそう言うと、俺たちが返事をする前に入って来て、同じ卓につき、勝手にローストへと手を伸ばし、素手で食べ始める……。
え? エルフってこんななの?
「アイリーン様が言うから、しかたなく付き合ってあげることにしたから。もぐもぐ……おいしい、これ」
「一緒に行動する気になったってこと?」
リューネの問いに、彼女はもも肉にかぶりつき、美味しそうに咀嚼すると飲み込んで口を開く。
「そう。たしかに、人間社会を移動するのに、人間の僕を連れていたほうが便利だもの」
ムカつく……けど、我慢だ。
「わたしは明後日、出発する予定にしていたのだけど、それでもいい?」
ムカつくエルフの問いに、俺とリューネは少し悩んだが、ここで長居する理由もとくになく頷きを返す。
「それでいい。一点、ぜひ同行してほしい場所がある」
俺は、例の城の深部のことをシスティーナに話した。水の精霊の加護で、暑い場所でも行動したいと伝えると、意外なことに快諾してくれた。
「いいよ、それくらい。ちょっとくらいの寄り道だから」
リューネが、意外、という脳内を表情に出すも、エルフは鶏肉を食べることに夢中……ていうか、こいつ、全部食べやがった!
「おい! 俺たちのご飯だったんだぞ!」
「え? そうだったの? ま、これから仲間になるんだし分け合う気持ちは大事よ、じゃ、明後日の朝、迎えにくるから」
立ち去る大食いエルフの背を、二人で睨んだ。
……エルフ、大食いなの? あいつが特殊なの?
- Il était appelé le Grand Mage. -
ガルガンティアの城の地下で、丸一日こもって勉強をした。
リューネはもともとラーグ語とヴァスラ語を話せたが、文字の読み書きは得意ではなかったこともあり、魔法を使う練習に入るよりも、まずは語学の勉強優先となった。
俺が読書をする横で、彼女はひたすら本の模写をする。ひたすら呪文を書き写すことで、読む、書くの練習になるからだ。これは、マリーナが勉強をみてくれていた時の勉強方法である。
「腕、つかれたぁ」
「頑張って、マリーナ」
応援するつもりで、彼女の右手をとり、腕をマッサージしているとシスティーナがやって来た。
「なに? 交尾を始めるの?」
バカか! お前は!
「マッサージをしてもらってんのよ! 腕が疲れたから」
リューネが言い、馬鹿エルフは彼女が書いていた模写を眺めて少し驚いた顔になる。
「へぇ? おもしろいことしてるね? これ、いい勉強になる。人間のくせにやるじゃない」
褒められているのに、ムカつくのは仕方ない。
こいつ、超絶美人だけと性格はどブスだ。
システィーナは俺たちが勉強をしている場所から、梯子をするすると降りていった。下に用があったみたいだ。
気を取り直し、勉強を続けていると彼女が梯子の下から声をかけてくる。
「ねぇ! ちょっと本を運ぶの手伝ってくれない?」
面倒くさいな! もう!
「リューネは続けていて」
俺が梯子を下りて、地下三層にいたシスティーナへと近づく。
「どれ?」
「これ、とこれ。わたしはこれを持つ」
冥魔封殺と、冥星引閃の魔導書を渡されて、左脇に抱えるようにして持ちながら尋ねた。
「これ、練習してるの?」
「そ。重力系、使いこなしたいんだけどなかなか……」
たしかに、俺も使えるようになったのは他系統を習った後だ。
「あんた、どの系統が得意なの?」
梯子を昇っていると下から問われて、少し考えて答える。
「雷撃かな……たぶん」
「雷帝とか、使える?」
「使える」
「へぇ? 人間だからダメなんだろうと思っていたけど、あんた、ドライヴ様が認めただけあって魔法に長けているのね?」
「どうも」
元の場所に戻り、続いてあがってきたシスティーナに魔導書を渡すと、彼女は珍しく笑みを作った。
初めて、見たかもしれない。
ずっとそれでいろ、と思うほどにキレイだった。
中身はドブだとわかっていても、性欲を持て余した若い俺には仕方ない反応で、見惚れているとリューネの手がにゅっと伸びてきて、俺の左手を抓る。
痛い!
声には出さず、立ち去るシスティーナを見送ってからリューネを見た。
「鼻の下、伸ばして情けない」
「……そうかな?」
「ま、アルも男の子だもんねぇ? 隠れてコソコソしてるし」
な!
ななななな! なんでばれとるんだよ!
「でも、あれはやめといたほうがいいよ、あれは」
「……わかりました、姐さん」
「姐さん言うな!」
魔導書で、おでこを殴られた……。




