ミスリル
「残り二人は、グエイとジェイク……ジェイクは魔導士だけど、アルスに比べたら子供の真似事みたいな力量だ……だが、これまでいくつか仕事を成功させてきた自信が、もっと難しいことに挑戦したいっていう気分にさせたんだろうな」
うーん……たぶんですね、ダリルがいたから成功してたんじゃないの? その成功させてきた仕事ってやつ。
俺がこう思ってしまうほどに、このおっさんの剣の力量はすごいものがあると感じる。
三人で階段を降りて、小部屋の中を通過し、別の小屋の屋上がそのまま通路となっているので進み、階段をあがって、今度は降りて……面倒だ。
立体迷路の奥に、出口が見える。
近いようで、遠い。
巨虎獣に、いきなり襲い掛かられたら厄介だから、やはり光球はこういう迷宮には必須の魔法だろうな……だから母さんは、光球を使って練習させてくれていたのか。
立体迷路を通過し、奥へと進んだ時、死体がひとつ転がっていた。
「グエイ」
ダリルは、元仲間の死体を前に短く祈る。
「ねぇ、彼の遺体、キレイよね? 狂獣じゃない」
リューネ……同感だ。
小部屋には、死体の他はない。だけど、巨虎獣や狂獣がこの死体に手を出していないということは、そいつらよりも強者の獲物だと認識していて、奪わなかったという解釈が成り立つ。
小部屋には、さらに奥へと続く道……進むと、下へと降りる階段だった。
次は、四層か……ただし、あの広間には幾本もの通路があったから、全てを踏破するのはかなりの時間がかかると思う。
屍魔人のアルビルは、どこにいるんだろう?
いや、もしかしたら、その魔人の仕業なのかもしれないな。だから魔獣が手を出さないってことも考えられる。母さんと親しくしていたといっても、母さんの場合は、養父のアラギウス繋がりがあった。それがなかった場合、魔人なんだから人が攻撃してきたら撃退するだろ。
地下四層に降り立つと、一階のトンネルを連想させる巨大なトンネルだった。俺たちが降り立った場所は、左右に延びる中間地点のような場所で、どちらに行くかと左右を交互に眺めた。
「アルス、右から何かくるよ」
俺はまだ何も聞こえなかったが、リューネが言うならそうなんだろう。
ダリルが前衛に立ち、俺はいつでも魔法で迎撃できるように構える。その背後で、リューネが後方を警戒していた。
光球が、光球弾を撃ち始める!
連射……てことは、数が多いのか!
光球を追加し、視界を確保しつつまだ見えない方向へと、強力な魔法を発動する。
哭龍舞!
召喚魔法のひとつで、冥界の炎を呼び出し、示す方向へ直線で射出するこの魔法は、一切の結界を突き破る特性があり、母さんが教えてくれた魔法の中でも、凍王降臨に並ぶ威力と難易度だ。
射程範囲は術者の能力に左右される……どこまで届いたか?
多数の気配が失せ、光球が攻撃を止めた。
確かめるべく、三人で右方向へと進む。
「こいつは……すごいな」
黒皮狩人の死体が、トンネルの隅っこに数体、転がっている。そして中央部分は地面が抉れたようになっていて、それが奥までずっと続いていた……。
我ながら、えげつない威力だ。
「アルス、すごいな」
ダリルの誉め言葉に、スカした顔で「まだまだです」と答えたが、歴戦の彼に手放しで褒められて嬉しくないわけがない。
ただ、さすがに疲労を覚えた。
凍王降臨を使った時よりはマシか……だけど、やはり高難易度の魔法は疲れるな……。
「行き止まり……じゃないな。お前の魔法、ぶ厚い壁をぶち抜いてるぞ」
ダリルが呆れたように言い、俺たちは突き当りだったはずの場所で止まった。壁があったはずだけど、大穴が開いていて、奥の様子を光球で確かめる。
「……地下水が流れている……なんだ? キラキラしてるな」
ダリルが先に進み、俺、リューネと続く。
「魔鉄……」
地下の川がキラキラとしている原因を、リューネが言い当てた。
すごい!
すごい量だぞ、この輝きは!
ダリルが、肩越しに俺を見た。
「ドワーフたちは、ここではもう魔鉄は採れないと判断して離れたと言われている……だが、それは事実じゃなかったとこれが証明しているな」
「……彼らは、どうして離れたんでしょう?」
「ドワーフでさえ、逃げ出すほどに危険なことが起きたと考えるのが妥当だろう」
「それって、屍魔人かな?」
リューネの問いに、俺は首を左右に振った。
「いや、魔人が相手ならドワーフは戦うだろう。もっと違う何か……あるいは自然現象かも。ほら、魔将の城でもあったように、毒ガスとか」
「あ……なるほど」
「それだったら、そう記録するだろ」
ダリルの意見。
ともかく、地下水が流れてこむ先はとても進めない。それこそ、水の中で呼吸できないと無理だ。
「アルス、ここで休憩する?」
「そうする。ダリル、いいかな? さすがに疲れた」
「当然だ。でもお前、本当にすごいな!」
「そう! うちのアルスはすごいの!」
リューネの言いように、思わず笑った。




