表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
59/63

ダリルの実力

 宿場の地下二階は宿泊房で、ドワーフたちが大隧道を掘る時に使っていた宿舎をそのまま、宿に改装してあった。牢獄を連想させる作りで、連泊はしたくないなとリューネと話し、ダリルも笑って同意してくれた。

 その宿泊房の奥に、オークが立っていてドキリとしたが、魔族自治区の魔族だそうだ。

「こっから先、危険しかない。戻るなら今だ」

 オークが俺たちの心配をしてくれているなんて……リリスの森を思い出すよ。

「行きます」

 俺が答え、オークが道を譲ってくれる。

 一本道の通路の先は、人二人がようやく並ぶことができる下り階段だ。

 宿泊房が地下二階だから、地下三層からが迷宮となるようだ。

 光球ルベンをふたつ、前後に浮かばせると、ダリルが唸る。

「お前……すごいな。呪文詠唱なしで光球ルベンをふたつ同時か」

「もっと出せますが、今はこれで十分です」

「もっとだと?」

「うちのアルスは、一番の魔導士なの」

 リューネが、我が子を自慢する母親みたいな言い方をした……。

 姐さん、とからかう時は呼ぼう。

 一本道は、広い空間に繋がる。光球ルベンの数を増やし、照らす範囲を広げると、大広間であるとわかった。そして、広間からはいくつもの通路が延びている。

「あいつら、どれに入った?」

 ダリルの問いは、自問だが声になったというものだ。

 リューネが、最後尾で疑問を口にする。

「魔族自治区は、人間と共存している……でも、この大隧道の地下は、そうじゃない……おかしくない? もしかして、危ないのは魔族じゃないんじゃないかな?」

「なるほど……魔獣系の巣ということか」

 俺は言い、ダリルにどの道へと進むか問う直前、ひとつの通路から女が現れた。

「リナ!」

 ダリルが叫び、現れた女性がハッとして俺たちを見た。そして、慌ててこちらへと駆けて来るが、その後ろに現れた狂獣バーサクが、背後から覆いかぶさるように襲いかかる。

 まずい!

 狂獣バーサクの爪が、リナの背を裂き、彼女が叫ぶ。

「きゃぁあああああああ!」

 魔獣が彼女の肩に噛みつき、肉と骨を食いちぎる。

 グチャボキ! という異音に、悲鳴が重なる。

「あああああ! ああああああ!」

 魔法で攻撃すると、リナも殺す……! しかし、もうあれでは助からないだろ!

 ダリルがすでに走っていた。

 狂獣バーサクは、獲物を取られまいと顔をあげると、咆哮した。

『グゥオオオオオオオオオオオ!』

 勇気を折る叫びメティオテロレーム

 俺は動揺するも、これまでの経験で身体は動いた。

 ダリルは、なんと両足を踏ん張って耐えると、それを反発ステップにして加速に使う。

 魔獣は、俺たちがひるまないと見て、リナを咥えると反転した!

 おい! 連れて行く気か!

「待て!」

 ダリル! 先行するな! ああ! 行っちゃうな! あれはわざと誘ってんだ! 深追いはダメ!

「リューネ!」

 肩越しに背後を見ると、なんとか踏ん張って立つ彼女を目があう。駆けつけ強化ムスクロルムを使い、彼女と荷物を抱えて走った。

 ダリルを追うと、通路の奥の少し広がった空間で、彼が狂獣バーサクの爪を長剣で弾き飛ばしたところだった。

 ダリルは長剣を巧みに操り、さらに素早い動きで魔獣の横に移動し、その左腕を付け根から切断する。均衡を失った狂獣バーサクは、耐えきれずリナを口から離した。

「リナ!」

 ダリルの声に、彼女は反応しない。

 狂獣バーサクは、片手を振ってダリルに襲い掛かる。

 彼は長剣でその爪を弾き、返す刀で魔獣の肩に斬撃をくらわせた。硬い皮膚と体毛ですら、彼の剣を防ぎきれず、巨体は出血を強いられてよろめく。しかし、致命傷とはならず、狂獣バーサクは怒りで三つの目を滾らせて仁王立ちした。

 ダリルに加勢し、がら空きとなった胴へと雷撃トニトルスをぶつける。直後、くの字となった巨体の首に、ダリルの長剣が振り下ろされた。

 デカい頭部が落ちて、切断面から魔獣の血が噴き出る。みるみる地面を赤く黒く染めた。

「リナ」

 ダリルが彼女を助け起こそうとしたが、虫の息となった彼女は、動かすことすら危ないとわかる状態だった。左肩……首の付け根から乳房の上部、左腕の付け根がごっそりと噛み千切られていて、血管から一定の調子で血液が噴き出ている。

「リナ……」

 ダリルの声に、青ざめた彼女は何も言えない。

 そして、死んだ。

「ほ……他の二人は?」

 リューネの問いに、俺たちは通路の奥を睨む。

 リナはこの奥から逃げてきた……ということは、この奥に彼らが生きているなら、いるはずだ。

 彼女の亡骸を、火炎弾フレイムで燃やす。

「ダリル、あなたは勇気を折る叫びメティオテロレームに耐性が?」

「ああ……何度もくらってきたから慣れた」

 それだけ、経験を積んできたということか……それに、彼の動きはすごかった。相手の攻撃を全て読み切っていて、防御を攻撃の起点にしていた。

 おそらく、剣だけの戦いをしたら、ボコられる……。

「しかし、アルスはすごいな……あの威力の雷撃トニトルスは見たことがない。しかも呪文の詠唱なしだ……呪文の詠唱をしないで魔法を発動させることは至高とされているが、下手が真似すると発動失敗か、発動しても威力がないっていうことが多いが、お前はすごいな」

「いえ、師がよかったんですよ」

 ダリルが剣をおさめ、「行こう」と言って前を歩く。

「リューネ、歩ける?」

「歩ける……あれ、卑怯だよね、あれはナシってルールを作ってほしい」

 おもしろいことを言う……。

 通路の先は、立体迷路と言えばいいだろうか。

 おそろしく広い空間は、通路と階段が交差し、簡単そうに見えて死角も多い。

 俺は、光球ルベンを五つ作りだし、先行させて索敵をおこなう。

 ……攻撃されたら反撃しろ。

 光球ルベンに命じて、俺たちはゆっくりと通路を進み、高所を維持するように努めた。

 さらに、先へと進む。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ