ダリルという中年剣士
モフモフの楽園を出て、西南西へと向かう道中、そのパーティーと出くわした。
「いい加減にしろ! そんな考えじゃ死んじまうぞ!」
「あんたこそ、いい加減にしなさいよ! やってもみないで文句ばっかり!」
「そうだ! あんたは何様なんだよ!」
「今回はリナに同意だ。ダリル、あなたはいちいち指図が多いんですよ」
揉めてらっしゃる。
街道の真ん中で……。
他の通行人は俺たちだけ。
自然と、街道の隅っこを前後の隊列で避けて歩くようになる。
追い越す時、三人が一人を置いて、同じ方向へと歩き出した……て、やめてよ。同じ方向に行くの……なんか気まずいじゃん?
「ちょっと休憩する?」
リューネの提案に賛意しかない。
俺たちは街道から少し離れ、剣で草を払って場所を確保した。この季節、野草や野花は俺たちの身長ほどに成長しているし、草というよりも木みたいな奴らもいる。映画などで、どこまでも続く草原なんてあったけど、あれは空撮だから草の背丈がわからんだけだとわかった……草、すごいんだから。
マントを地面に広げ、二人で並んで座る。
水筒の水を飲み、干し肉をちぎって食べていると、置いていかれた一人……中年男性が三人を追うように歩き出した。
おっさん……謝るのかな? どういった経緯かは知らないが、三人に批判されるくらいだから、おっさんが老害的な助言を上からして、若者が反発ていう図式なんだろう。
三人とおっさんの距離は、十分すぎるほどに開いていて、三人はもう豆粒程度にしか見えない。
一本道の向こう、そびえる山脈がすでに見えているけど、その東端の岸壁に開いた隧道の入口まで、ここから約一日……どうやら、三人とおっさんも、大隧道に用らしい。
フレゼレシアで、いくつか大隧道に関する仕事が出ていたから、それらのひとつを請けたんだろう。だけど、おっさんと若者三人が喧嘩別れをした。
「リューネ、喧嘩したとしても、俺が先に謝るから許してね」
前世の経験から、先に謝るという特技を保持している俺の言葉に彼女が笑う。
「わたしが悪くても、アルスが謝るってこと?」
「そう」
「なに、それぇ! わたしが謝れない女みたいに言わないでよ」
リューネがニコニコとして言い、「でも、たしかに先に謝りたくない時ってあるよね」と続け、思わず笑ってしまった。
「そうなの?」
「ある。たしかに、わたしが悪いって自分でも思うんだけどね。でも、謝るのは悔しいというか、俺が悪かったよ、ううん、わたしのほうこそ……ていう展開を待ってる時は多々あった」
「恋人いた時?」
「いた時」
「イケメン?」
「太っちょで、丸い顔がかわいい人……でも、彼は戦争に行って……」
「あ、ごめん。変なことを聞いて」
「嘘」
嘘!?
目を丸くした俺を、彼女は口を開けて笑う。
「ごめん! あははははは! そんなに信じなくてもいいじゃない! 生きてます! 喧嘩別れ。わたしが悪かったのよ」
「……なんだ、じゃ、謝られるのを待っていたら、謝られないまま別れたってオチか」
「若かったのよねぇ……」
「おばちゃんみたいな言い方、やめたほうがいいよ」
「誰がおばちゃんだよ」
リューネは笑顔で、俺の肩を肘うちする……加減しているようで、地味に痛かった。
- Il était appelé le Grand Mage. -
大隧道に到着した。
わかりやすく言うと、大トンネルだ……リーフ山脈を東西に貫くこのトンネルは、普通にトンネルとして通過する分には何も怖いことはない。
しかし、トンネル一層から地下へと降りる階段があり、地下へ地下へと降りていくと、そこは迷宮というか遺跡というか……竜が支配した時代にドワーフたちが築いた地下都市なのだ。
そしてやはり、魔族や魔獣がいる。
トンネル部分は幅四メートル、高さ十メートル程で、東西約十キロという長さだ。俺たちが使う距離を測る単位だと、幅ニロード、高さ五ロード、長さ十バルクとなるが、どうしても日本人だった頃の癖で、メートルで覚えてしまう。
商隊とすれ違う……満載の荷は魔族自治区で採掘している魔鉄だと輝きでわかった。リーフ王国が豊かなのは、魔族自治区との魔鉄独占取引契約を結んでいるからで、これを各国に輸出する富が国を強くしている。
運ぶ人たちと、その護衛たちが俺たちに会釈をして離れていく。
二人でトンネルへと入り、松明が等間隔で照らす通路をひたすら西へと進む。このトンネルのおもしろいのは、中間地点に宿場施設があることで、その施設の地下に、深部へと続く階段がある。もちろん、俺たちの目的は、その階段から行ける地下深くだ。
宿場に到着すると、あの中年戦士が一人、食事をしていた。三人とは合流できなかったみたいだ……店内はにぎわっていて、相席をその戦士とすることになる……勝手に気まずく感じる俺とリューネだが、会話しないのもおかしいので、世間話をと思ったが先をこされた。
「あ、お前ら……いたな、街道に」
覚えてますよねぇ……あんなところに遭遇しちゃったんだもの。
「ええ、大変ですね?」
「大変だよ……若い奴らは浅はかだ。でも、死なれたくない……先に地下に入っちまったみたいだがね」
この上からの物言いに、彼らは反発をしてたんだろう。ただ、こうして近くで会話をすると、彼はなんというか……穏やかな人のような気がする。
「喧嘩、どうしてです?」
リューネの問いに、男性が照れたような笑みとなる。ここで、名乗ってなかったと思い出し、注文をするより先に名乗った。
「あ、すみません。俺はアルス、彼女はリューネです。バルニアから来ています」
「ダリルだ。中央大陸のゴート共和国からだ」
ここで、店員に声をかけられる。
「注文、決まった?」
黒板の先頭に書かれたラグー・ディ・マイアーレと水を二人分、注文した。
ダリルは、ニジマスの香草焼きレモンソースを食べている。
美味しそう……いや、満腹になって動けなくなるのはマズい。
「喧嘩の理由はな……ま、俺も悪いんだ。我慢してりゃいいのに、我慢できなくなってな……まだあいつらの技量じゃ、この地下の深部は早いってことをわからせたかったんだ……だけど、それが余計なおせっかいだったみたいだ」
「付き合い、長いの?」
リューネが質問し、彼は苦笑したまま続ける。
「いや、ま、そうだな……一年を長いととるか短いととるか……たまたま、北方大陸のオークトー大墳墓であいつらを助けたことがきっかけで、ここまで一緒に来たんだがな」
「それまでは一人だったの? 珍しい」
「いや、仲間と一緒だったが、俺たちの組とあいつらで、オークトー大墳墓の一角獣を倒そうという仕事だった……散々にやられてな……俺の組は、二人しか生還できず……俺は五体満足だったが、もう一人は片腕を失い傭兵稼業は引退だ……で、あいつらも半減している……お互いに、大変な経験を共有したことで仲間意識が芽生えてここまで一緒だったが……悪い。くだらん愚痴になるからやめるよ」
ダリルは言葉をとめて、ニジマスの身をナイフとフォークでほぐし、口に運ぶ。そして、水を飲み、付け合わせのサラダをフォークで起用に食べていた。
ピンとくるものがある。
この人、おそらく出自はいいところだ。というのも、ナイフとフォークの使い方がキレイなのだ。
どうして傭兵に? などと勝手な想像で興味をもった俺だったが、料理が運ばれてきて、意識は美味いものへと奪われた。
「はいよ、お待たせ」
骨付き豚バラ肉を煮込んだパスタは、出来立ての香りと湯気で食欲をそそる!
お行儀悪く、ズババ! ズババババ! と食べる俺とリューネをダリルが微笑んでいた。
「うまそうに食べるな?」
「あ、お行儀悪くすみません」
「いや、そのほうが美味そうだ。君らもここで休憩ってことは、この後は下か?」
「ええ、そのつもりです」
「あいつら、ここで休憩も取らずにさっさと進んだみたいだ。できれば、追いついてもう一度、説得したいんだ……君らが何を目的にしているのかわらかにが、取り分を狙ったりしないから、途中まで協力しあえないか? 俺はこれでもそこそこ強いから、魔族相手の前衛を任せてくれていい。君、魔導士だろ?」
なんでわかるの?
疑問を飲み込むも、顔に出ていたらしい。
「雰囲気、としか言いようなない。魔導士と、ポーターだけってのは珍しい……よっぽど強いか、馬鹿のどちらかだと思うが……その年期の入った黒剣を持っているあたり、強いんだろ? でも、負担が軽くなるのは歓迎すべきじゃないか?」
こういう申し出を、上からなんだよおっさん! とか言って退けるのはもったいない。
それに、彼はなんというか、落ち着いていて信用できそうな雰囲気だ。初対面の人を、いきなり全て信じることなどできないけれど、あちらが仲間を見つけるまで一緒に行動をするっていう程度はいいだろう。
「わかりました。よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしく」
三人で、行動することになった。




