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巫女の存在

「なんとまぁ! 成功したのに盗まれた!?」

 カーリーの驚きに、心苦しい俺は余計なことを言わず、頷くだけにしておいた。

「総督閣下……さぞ残念がるだろうねぇ……親バカだから」

「じゃ、すみません。俺たちは大隧道に向かいます」

「はいよ」

 組合ギルドを出て、宿を探す俺とリューネは、後ろからの気配で立ち止まり、振り返った。

 例の四人組が、下品な笑みを浮かべている。

 大勢の通行人たちが、何事? という顔で俺たちを見ていた。

「お前、棺、どこに隠した?」

「もっと高い値で売れる先、見つけたのか?」

「黙っておいてやるから、分け前をくれ」

「攻撃してきたら、一人がギルドに走ってお前の嘘を報告するぞ」

 くだらん奴らだ。それに、大勢の人の目があるところだから、俺が無茶なことをしないと思っていい気になっている。そして、彼らが言っていることは事実なのだけど、俺はまったく付き合う気はないので、憤るリューネをなだめてから口を開く。

「お前らと別れた後、さすがに疲れて困っていた時に出会った冒険者たちに、手伝ってもらいたいと言ったんだよ。そうしたら、逃げられた。十人くらいいたな」

「それが本当なら、証明しろ」

 俺は付き合う気はないので、お前らが嘘をついているという主張をすることにした。

「じゃ、お前らが言っている嘘、本当だという証明をお前らがしろ」

「な! お前! 俺たちは嘘を言ってないだろ!」

「俺から棺を奪おうとしていたロクデナシだろ? 人から奪うことしかできない卑怯者は嘘もうまいな?」

 堂々巡りに持ち込む。

 そこからは、聞くに堪えない罵詈雑言を浴びせられた。

 俺は、周囲に人だかりができた頃合いで大声を出す。

魔将の城オプスィディアンシュロスで、俺たちを脅してきて! 負けそうになったら命乞いして逃げたくせに! 大勢の前では俺が攻撃できないと安心して、嘘で俺を脅すクズども! お前らみたいな奴らがいるから! 冒険者や傭兵は身元保証人をつけないと宿にも泊まれないんだろ! 迷惑なんだよ!」

 前半と後半は、事実だろ。

 中盤は、俺が嘘をついているんだけど……。

 でも、集まった人たちの表情を見れば、また四人組の反応を見ると、俺の言がこの場では真実となっていることは明白だ。

 とどめだ。

「お前らが仮に、本当のことを言っていると言い張るなら、ギルドのカーリー立ち合いのもと、決闘で勝負をつけよう! 俺は一人、お前らは四人でいい」

 彼らは、すごすごと逃げ出す。

 通行人たちが、「嘘つきめ!」「卑怯者!」と野次るのを見て、高揚よりも残念な気持ちが強い。

 野次馬たちは、おもしろがっているだけだ……無関係なくせに、四人組の情けない姿を見て喜んでいるだけ……。

「あ、アルス、あそこの宿、あいてるよ。呼び込みしてる」

 リューネが見つけた宿。

 外観が立派……高級そうだけど、儲かっているしいいか。



 - Il était appelé le Grand Mage. -



 お風呂つきの高級宿で一泊し、大隧道に向けての準備を一日かけておこなった。

 そして、フレゼレシアを出発し、南を目指す。ちょうど、ケットシーの村の近くを通るだろうから、ドライヴの顔を見に寄ってみようと二人で話した。

 大金は、宝石に換えた。

 母さんが、翠玉の魔導士ベリルメイジと呼ばれていたとドライヴから聞いたので、エメラルドの指輪を購入し、左手中指にはめた……三百万リーグ! リューネは、ダイヤモンドがいいと言い、これも同額のものを買っている……女性は宝石大好きだなぁ……でも、旅費に困った時は売るんだからね?

 古代の金貨とあわせて、けっこうな額……この世界ではお金に執着していないけど、あればあったで嬉しいものだ。

 街を出て、街道を南へと向かう。

 南東に延びるリーフ公道をそのまま進めば、王都に繋がるが今回は用がない。俺たちは公道から南西に延びる街道を選び、オムロ山地へと方向を転じた。

 透き通った青空と、おだやかな風は心地よい。夏になるというのに、過ごしやすさは抜群だ。リリスの森も暑くはなかったが、この東方大陸も気候は冬が厳しいタイプなのかもしれない。

「ねぇ、つけられてるよ」

 リューネの声に、肩越しに背後を見れば、例の四人組が十人ほどに増えて、俺たちの後ろをついてきていた。

 目的を尋ねるまでもない。

 あいつらは、お金が欲しいのだ。そして、かかされた恥の仕返しだろう。

 立ち止まり、振り返る。

「殺しに来たのであれば、殺される覚悟があると受け取る。いいな?」

 俺が声をかけると、十メートルほど離れた場所で彼らが立ち止まる。

 四人組のリーダーが、武器を手に口を開いた。

「十体一で、俺たちに勝てるわけないだろ! 金と、その女を寄越せ! 女! おとなしくしておけば、優しい買主のところに売ってやるから安心しろ!」

 俺はそれが返事だと受け取り、風刃波ベントスを一発放ち、少し遅れて二発目を発動させる。時間差による攻撃で、一発目は彼らの魔導士が防御魔法ディフェンシォで防ぐも、二発目がくるとは思っていなかったらしく、応援で参加した戦士が真っ二つになる。

 同時に、俺はすでに前進していて、抜剣からの一撃で一人を屠った。斬撃の動きにあわせて、左右に雷撃トニトルスを放つことで、二人を同時に吹き飛ばす。

「ま! 待て!」

 リーダーの男が叫ぶ。

 俺は黒剣を払い、一人を斬り、火炎弾フレイムで二人を火だるまにした。

「ぎゃぁあああああ!」

「うぁああ! うわぁあああああ!」

 女性戦士が、腰を抜かす。

「こいつ! 呪文を詠唱しない!」

 彼女はそう叫んだ直後、俺の斬撃で頭部を地面に転がした。そして、返す刀で何かを言いかけたリーダーの左腕を斬り飛ばす。

「がぁああああああ!」

 リーダーが地面に倒れ、左腕をおさえてうずくまる。生き残りが逃げ出したが、雷撃トニトルス風刃波ベントスを連発して仕留めておいた。

 苦しむリーダーに蹴りをいれ、仰向けにしたところで剣先を突きつける。

「た……たす……」

「お前、どうせこれまで、似たようなことを何度もしてきたんだろ……だから今度もうまくいくと思ってたんだろ。クズはクズらしく死んどけ」

 黒剣を突きさし、リーダーはビクビクと痙攣をして口から血を吐く。そして、身体から力が抜けたところで、火炎弾フレイムで燃やす。

「アルス、ここら乾燥してるから火事になるかも。消火しておいたほうがよくない?」

 うーん……たしかに。

 魔獣が死体を漁りにくると厄介かもしれないけど、火事で一帯が燃えるよりマシか。

 俺は氷槍バラスを炎にぶつけて相殺することで、火を消した。



 - Il était appelé le Grand Mage. -



 ケットシーの村。

 ドライヴは俺たちが再訪すると、喉を鳴らして喜んでくれた。

「ウグイをたくさん獲ったんだよ。ご飯、食べるよね?」

 いただきます!

 ウグイを木で作った串に刺し、そのまま炭火の周囲に差しこみ焼いていく。囲炉裏は村にひとつだけで、その囲炉裏がある小屋と周囲にケットシーたちが集合して、火の加減をみたり、会話をしているのを眺めていると、平和だなと微笑ましい。

「大隧道に行くの?」

 ドライヴの問いに、ウグイを受け取るリューネが頷く。

 俺も、出来立ての塩焼きを受け取った。

 泥臭いと言われるウグイだけど、おそらくこの村の近くの川は水質がいいのだろう。甘い身とホクホクとした食感は、これまで食べた焼き魚のトップ!

 岩塩も、いい塩梅だ……。

 俺は出来上がったウグイを、後ろで待つケットシーへ手渡しながらドライヴに尋ねる。

「ドライヴ、七つの罪が封印されていることって知ってます?」

「七つの罪ね、聞いたことはあるよ。でも、僕らはそういうの興味ないからねぇ……リューネ、ウグイ、ふぅふぅしてほしい」

「うん、貸して」

 リューネにウグイをふぅふぅしてもらうドライヴは、「あ、そうか」と言って続ける。

魔将の城オプスィディアンシュロスにも、罪のひとつが封印されているとか言われているみたいだけど、知ってたかい?」

「実は、その封印されていた棺を持ち出すことになりまして」

 俺は最初から、ドライヴに棺に関する話を聞いてもらう。

 当初はその価値を知らなかったが、冒険家や傭兵たちに触発されて、仕事になっていると知って棺を持ち出した。そこで、信用できる人物が魔道具ネザーレリック神遺物アーティファクトを保護しているというので、売ったところまでを話した。

「……ということで、封印された罪ってのは何もなかったんだ。もしかしたら、封印するという儀式をおこなうことが目的だったんじゃないかと思うんだけど」

「いや、アルス、それは違う。封印はたしかにされていたはずだよ。封印を担当したハイエルフの子が、大隧道の先、魔族自治区にいるから」

 え……そうなの?

「彼女、世界各地に分散して七つの罪を封印した。本来であれば、中央大陸のイシュクロン王国へ引っ越す予定だった一族の娘なんだけど、イシュクロン王国のフォーディ族と仲がよくなくてね……こっちに留まっている」

「じゃ、その人に会えば、気になっている件、聞けるかもしれない」

 俺の思考は、言葉になっていた。

「気になっている件?」

 ドライヴの問いに、リューネが答える。

「フゥ……ちょうどいいよ、はい……バルニアにも、似たような棺があったの。バルニアの棺も開けられていたんだよ。誰かが封印を解除しているんじゃないかって」

 彼女の言葉に、ドライヴは難しい顔をする。

「よくないね……僕らにとってはあまり関係のないことだけど、大昔……竜との戦いにおいて、相手の力を弱めるために行われたことだと知っている……」

「ドライヴ、こう言っちゃなんだけど、ケットシーも魔族の一員ですよね?」

「そうだよぉ? 襲いかかるかもぉ」

 脅かそうとしてふざけるドライヴに、俺とリューネはわざとらしく怯えてみせると、周囲のケットシーたちが楽しそうに笑った。

 俺も笑みとなり、話を続ける。

「ここに来る前、魔族に協力を求める人間たちの組織があると聞いたんだけど、それってドライヴたちのところには来ました?」

「総督閣下の協力要請のことじゃないよね? 他はないよ……ま、僕らは誰かのために何かをするってことはあまり興味ないんだ。よっぽど気に入っている相手じゃなければね」

「そうか……」

「大隧道、行くのなら魔族の自治区に行けばいい。そこで封印の巫女に話を聞けば、君らが気にしている七つの罪のこと、聞けるかもしれないよ」

 たしかに、そうだ。

「魔族の自治区の、どこに行けば会えるの?」

 リューネの問いに、ドライヴはウグイを飲み込んで答える。

「自治区の中心に、ガルガンティアの都がある。そこにハイエルフ七氏族のひとつ、ヴェル族の屋敷があるから、行けば皆が知っているよ。巫女の名前はアイアラマリンシュッドフィルガーリーンヴェル」

 名前がなげぇ……覚えられない。

 困惑する俺を見て、ドライヴがニコニコとして続ける。

「アイリーンて、言えば伝わるよ。ヴェル族のアイリーン……この子も小さい頃から知ってるんだ。僕の名前を出せば大丈夫、話は聞いてくれるだろう……リューネ、もう少しフゥフゥしてほしい」

「いいよ、貸して」

 ドライヴは、他のケットシー達よりも猫舌なのだとわかった……。


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