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魔将の城からドライヴの村へ

 地上一階にあがったところで、デカいムカデの大群から逃げている男三人……俺たちをバカにした例の六人組のうちの三人を見つけた。

 かわいそうなので、リューネの反対をおしきって火炎弾フレイムで助けてあげると、あれだけマウントを取っていた奴らが手のひらを返して、媚びへつらってくる……。

 どこの世界にも、こういうくだらん奴らはいるんだな。

「アルスさん、ありがとうございます!」

「カインのやつ、レナとクロアだけを連れて先に逃げやがった!」

 彼らが言うには、リーダーは女の子だけを連れて逃げちゃったと……リーダーたちは上に逃げ、彼らはここでギリギリまで戦ったが無理となって逃げていたらしい。三年間の経験は何だったのだろうか……だめ、悪い顔で笑いそうなのを我慢して口を開く。

「悪いことは言わないので、あなたたちは撤退したほうがいいですよ。俺たちは上に用がありますので」

 助けた手前、名乗ってしまったがしかたない。

 出口までは、せめて自力で行けと伝えて、階段をあがる……直前、リューネが男三人に言い放つ。

「ブランド品で装備をかためても、ダメだったのねぇ! 残念!」

 リューネ……悪い顔になってる!

 笑顔、笑顔……にっこりして!

 でも、上にはあのリーダーがいるのか……女の子たちはどうしたんだろう? 二人いたはずだけど。

「彼ら、僕が見た時も逃げてたのに、よくまだ残っていたね」

 ドライヴが言い、たしかそうだったと思いだした。

 彼が俺たちと会った時に、そういう話になったはずだ。

 逃げまくりながらも、なんとか生きていたのは、三年の経験があったからなのかもしれないな……すばらしい三年間だったんだろうなぁ……。

 悪い笑みを浮かべそうになり、やめた。

 ダメだぞ、ダメ。

 他人の不幸を喜んではダメだ。

 二階にあがると、イケメンリーダーの死体があった……。

 俺が立ち止まっていると、背後からリューネがひょいと顔をのぞかせた。

「あ……」

 彼女も固まり、そっと俺を見た。

「力不足だったんだ。仕方ない」

 言いながら片膝をつき、彼の遺体を観察した。

 胸から腹部までが丸焦げになっている……火炎系とは違う焼け方だ。おそらく、雷撃系の魔法をくらったんだろう……そっと触れるとまだ熱い。

 逃げた先に、魔法を使う魔族がいたのか……ん?

 通路の奥から、その声が漏れているのが聞こえてきた。

 女性の……苦しむ声……ただ苦しむのとは違う。

「ドライヴ、リューネをお願いします」

 俺の言葉の意味を、彼女は問わずともわかっていた。

 通路にはいくつもドアがあるが、奥の開け放たれたドアから、その声が漏れてくる。

 ドアへとそっと近づき、慎重に中を見た。

 床には、露出した肌が黒く変色して動かない女性……顔はこちらを向いていないが、装備で六人組の女の子の一人だとわかった。おそらく、死んでいる。そしてもう一人は、裸となって床にうつ伏せていて、後ろから黒司祭サバトに犯されていた。

 魔法で黒司祭サバトだけを殺す……加減が難しい。それに、相手も魔法の使い手だ。防御魔法ディフェンシォで防がれて、見せしめに女性を殺されるとまずい……光珠ルベンが浮かんでいる。黒司祭サバトが警戒で作り出し、突入してきた奴がいたら撃つつもりだな? 

 他の入り口……ない。

 強行突破しかない。

 飛び出した瞬間、黒司祭が発動していた光球ルベンが、光球弾ルベンバラムを放ってきたが、魔封盾スクトゥームで防ぎながら駆ける。同時に、黒剣を抜き放ち、立ち上がった黒司祭サバト火炎弾フレイムを放つと同時に、防御魔法ディフェンシォで防ぎながら剣を一閃した。

 黒司祭サバトは後退することで躱しつつ、床に転がっていた錆びた長槍を足で蹴り上げ、宙で槍を掴むが、その時すでに俺は奴に接近している。

 黒剣で攻撃すると見せかけて、至近距離で雷撃トニトルスを放った。

 俺の魔法は、黒司祭に直撃し、ふっとんだ奴は転がって壁にあたる。

 動かなくなったが、追撃の火炎弾フレイムをぶつけてとどめをさした。

 黒剣を鞘に戻し、うつ伏せで泣き続ける女性にマントをかけた。そして、片膝をついて声をかける。

「歩けますか?」

 彼女は、答えない。

「リューネ! 来てくれ!」

 俺が呼ぶと、ドライヴとリューネが姿を見せ、室内を眺めて事情を理解した表情となる。そして、彼女は泣き続ける女性に肩を貸そうとしたが、女性によって拒否された。

「触らないで! ダメ!」

 リューネが怒らないかと思ったが、彼女は冷静で、俺に小声で言う。

「この子……魔族に……ただ辱めを受けたわけじゃない。魔人がもつ病気を感染させられたとわかっているから、触るなと言ってくれているの。わたしにうつらないように」

 そう言って、リューネがすでに死んでいる女性を指さす。

魔毒障ラヴェンゾイヘ。この人のように、血液が熱をもち血管を破って身体の中に漏れて、黒く変色しながら死んでいく病。バルニアでも見たことがある……」

 リューネはそう言い、短剣を手に女性を楽にしてあげようとしたが、俺は彼女にそれをさせたくなかった。

 俺は、泣きじゃくる女性の後ろに立ち、黒剣を振るう。

 マントに隠されたまま、彼女は楽になれた。

「……アルス」

「リューネには、させない」

 血に濡れるマントを眺め、祈りを口にする彼女の横でドライヴが俺に言う。

「埋葬するかい?」

「……いや、キリがない。せめて燃やすよ」

 俺は、火炎弾フレイムの威力をおさえて、女性二人の亡骸を燃やした。



 - Il était appelé le Grand Mage. -



 三階は、塔の頂上で屋根がなく屋上部分といえた。

 西の方角が、赤い。

 日が沈もうとしている。

 東の空に、巨大な生物の影が浮かんだと思ったが、それは竜に似た形の雲だった。

 魔導書、見つからなかった。

「アルス、君はいい魔導士だね?」

 ドライヴに褒められて、素直に嬉しい。

「ありがとうございます」

「認めるよ、君はマリーナの子だ」

 ケットシーノーブルに認められるなんて光栄だ。

 リューネが、単眼鏡を見ながら声を出す。

「ねぇ、また新しいパーティー、入ってきたみたいだよ」

 無理だと思ったら、さっさと逃げてくれればいいけど……肌寒いな。

 マント、もう使えないから二階に置いてきたけど、新しいのを買わないと。

 寝る時の掛布団や、雨風を防ぐのに重宝するんだ。

「アルス、出よう」

「ああ……ドライヴ、村にお邪魔させてください」

「もちろん。アルス、君になら、マリーナが置いていった魔導書、あげるよ」

 え?

 魔導書、あるの?

「もう、君が知っている魔法かもしれないけど」

「どんな魔法です?」

「さぁ? 僕は魔導士じゃないし、竜言語や古ラーグ語はわからないから」

 おい!

 意気消沈した後の大逆転じゃないか!

 いや、待て!

 まだ早いぞ……結局、母さんから教わった魔法であるなら新発見でもなんでもないのだから。

 でも、期待大だ!



 - Il était appelé le Grand Mage. -



 ケットシーの村は、魔将の城オプスィディアンシュロスから南西に少し移動した森にあり、到着すると可愛い猫人達の出迎えを受けた。

 もふもふぅ!

 癒しの楽園。

 だけど、死んでしまった二人のことを知らされて、村人たちが悲しむのは見ていてつらかった。

 コボルトに比べて、ケットシーは群れよりも個を優先すると聞いたことがあるけど、彼らを見ると、けっしてそんなことはないように思えた。

 友人の死に、心を痛めるケットシーたち。

「せっかく来てくれたのに、しんみりしてすまないね」

 ドライヴの気遣いに、「とんでもない」と答えたところで、彼の家に招待される。

 コボルトの村とは違い、石造りの平屋がこの村の家だ。

 そのひとつに入り、いきなり見つけた。

 ベッドの隅に、無造作に置かれた革の表紙に分厚い本こそ、魔導書だ!

「あ、それだよ!」

 駆け寄り、手にとる。

 表紙に書かれた魔法の名前……神々の黄昏ラグナロク

 知らない……魔法だ。

 興奮と驚きで、固まる俺をリューネが、覗き込んできた。

「どう? アルス、どう?」

「……知らない魔法だ」

「え?」

「これ、知らない魔法だ!」

「えええええ! やった! やったぁあああ!」

 二人で抱き合って喜ぶと、ドライヴが加わりたそうに見てきたので、三人で抱き合って喜ぶ。

「やったー!」

「ニャーニャニャニャニャー!」

「すごーい! アルス、さすが!」

 いや、俺がすごいんじゃないけど。

「どんな魔法?」

「ちょっと待って……読むけど、これ分厚いな」

 ずいぶんと暗くなってきたので、光球ルベンを浮かべて魔導書の頁をめくる。

 まず、一般的には魔法の呪文が記されて、後半がどのような魔法かの説明文となる。これも、構成は同じだけど本の厚みが他よりもすごい……。

 レア……ものの予感。

 呪文の箇所はとばす……今は必要ない。

 説明文を読む。

「えっと……まずこの書を手にとる者に告げる……」

 この魔法を考案し、創り出した大昔の人が古代ラーグ文字で記した説明文は、そう始まっていた。そして、続きを読み進める。

 集中する俺の横で、リューネとドライヴは夕食を食べ始めた……イワナの塩焼きがいい香り……だけど、俺は読む作業優先!

 難しい……これは、読み込まないと理解できないという類じゃなく、解読ができないタイプだ。

 説明文は古代ラーグ文字で記されているが、竜言語のひとつであるマキシ語の文法が用いられていた。さらにアナグラムも使用されていると気づく……母さんが、いろんな魔導書を記憶していて、教えてくれたからこそ気づけたことだ。

 これが普通の魔導士だと、魔法の使い方だけを習って魔導書を読み込まないから気づけない。

 母さんは、俺の知識欲を満たすためにあのような教育をしてくれていただけじゃなかった……本当の意味で、魔導士として一人前になれるように準備をさせてくれていたんだ。

 そうか。

 母さんはこれを若い頃に読み、魔導書の中には複雑なものもあると知っていたから、あれだけ基本を大事にしていたんだ。

 とても難解な魔導書と出会った場合でも、読み解けるように。

 長い時間を使って、魔導書を読み終えた俺は、お茶を飲む二人を見た。

 リューネとドライヴが、目を輝かせて――ドライヴは本当に目が輝いていた――俺の両隣に座る。

「どうだった? どんな魔法だったの?」

 俺は、どう説明すればいいのか少し悩む。

「どうした? 役に立たない魔法だったのかい?」

 答えない俺に、ドライヴが訊いた。

 俺は、魔導書を閉じる。

「アルス……どうしたの? こわい顔してる」

「……これ……神殺しの魔法だ」

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