魔将の城の探索開始
魔将の城が、はっきりと見えてきた。
同時に、冒険者と思われる集団も目に入る。
彼らは、いざこれから! というところのようだ。
魔将の城……近くで見ると、巨大な黒い城で、切り立った岸壁を背に築かれていた。おそらく、地下はこの岸壁の中……つまり山の中にも掘り進んで延びているのだと思える。
ゆるやかな上り坂の先に城壁があり、中央に城門がある。そこで集まって会話をする六人組の集団が、俺たちに気づいた。
お互いに、魔将の城に用があることは、尋ねるまでもないことだ。
会釈をして通り過ぎようとすると、男に声をかけられた。
「おい、お前。まさか、たった二人で入る気か?」
「はい」
短く応えた俺に、彼らは失笑する。
「馬鹿なのかよ!」
「死にたいのか!」
男たちの大笑いを、女性陣が止めようというフリで煽る。
「やめたげなよ! 初めてなんだと思うよ」
「守ってあげたら? かわいい顔してるし」
彼女らの言葉を受けて、彼らのボスらしきイケメンが、憐れむような表情で俺に言う。
「俺たちは、もう三年もやっているパーティーだ。いろんなところにアタックして、経験を積んで、ようやくこの魔将の城挑戦する準備ができたと自負している。君たちはどれだけの経験を積んだんだい? 準備はできているのか?」
マウント取る気満々のイケメンと、俺たちを馬鹿にしたような笑みの一同。
答えたところで、結果はわかっている。
俺はできた人間じゃなく、馬鹿にされたら腹が立つ普通の人間なので、いちいち相手してムカつくよりも、ここはスルーしようと決めた。
「行こう、リューネ」
俺よりも、喧嘩腰の顔つきをしている彼女に声をかけ、さっさと先に進んだ。
「困った時は大声だしなよ! 助けてやるからな!」
イケメンが声をかけてきて、彼らの嘲笑が重なる。
城門をくぐり、雑草が伸び放題の敷地内を歩いていると、後ろのリューネが大きく溜め息をついた。
「アルスが我慢するから、わたしがあれこれ言うのもおかしいって思って黙っていたけどさ、あいつらムカつかない? あいつらがやられそうになったところに遭遇しても、助けたらダメだからね」
こえぇ……。
「いや、目の前にいたら助けてあげないとマズいんじゃないかな?」
「全然、平気だよ。ったく、なに? あの嫌味な奴ら……贅沢な装備してた。ブキャンドのフードに、アルティスのマントに、コルバーヌ・シェロンのブーツに……どうせ汚れるのに高級品ばっか……悪いことして稼いでるんでしょ、どうせ……化粧もばっちりして、どういうつもりなんだろ」
……ブランド名まで! よく見ておられます!
いつか、買ってほしいと言われる日がくるのだろうか。
リューネは、装備でもマウントをとられたと思って、ムカついているわけか。
「リューネは化粧してなくてもキレいだし、準備もしっかりしてくれて頼りになるし、後ろを任せられるポーターだよ。あんな奴らは忘れたらいい」
後ろから、背中をバンバンと叩かれた。
肩越しに彼女を見ると、照れてらっしゃる。
機嫌、よくなってくれたようだ。
よかった。
- Il était appelé le Grand Mage. -
魔将の城の正面玄関は巨大な鉄の扉で、閉ざされている。
侵入口を探すと、あっけなく見つかった。外壁の一部が崩落していて、そこから中に入ることができるとわかった。
「アルス、建物が崩れるかもだから、魔法は気をつけてね」
「ああ、威力を抑えて対応するよ」
「……それでも、すごすぎるんだからすごいよねぇ」
廊下は左右に伸びていて、まずは左へと進んだ。
温度が、低い? そう高い山じゃないが、それでも関係するのか?
どこかで、悲鳴があがった。
さっきのムカつく奴らじゃないだろう。彼らは俺たちよりも後ろにいるんだから。
バルニア迷宮の時も、違う場所でおきた悲鳴が聞こえてきていたけど、ここもやはり、有名な遺跡だけあって、すでに何組かが入っているらしい。
「上? 下?」
リューネの問いは、地上部分を上にあがるのか、それとも地下へと下りていくのか、というものだ。
「未踏域は下だ。下に行こう」
「了解。じゃ、後ろはわたしが見てるから」
「ああ。光球を出す」
彼女の手が、俺の肩に置かれた。これは、進む速度や方向を見なくても把握するためだとわかり、俺たちはバディなんだなと改めて緊張する。
さっきの奴らはどうでもいいけど、リューネだけは守らねば……いや、守ると決めた。
前後に光球を飛ばし、視界を確保する。廊下は幅二メートルほど、高さはもう少し高い。床は石材だが苔や汚れで真っ黒であり、おそらく血も流れたのだろうと想像した。
ん?
前のほうから、逃げてくる人……が、倒れた。
その人に覆いかぶさったのは、巨大なムカデ……おいおい、大人よりもデカい。
「巨百足! 人を食べる毒ムカデ!」
リューネの声と同時に、俺は光球に攻撃命令を出している。
光球弾が巨大ムカデの頭部と吹き飛ばしたが、人……男はすでに背中を噛まれていた。
駆け寄るも、苦しむ男の背中が不気味に腫れあがり……膨らむと爆発する。
骨と肉と血液をばらまいて、爆発したような男性は声もあげずに動かなくなった。
……絶対に、噛まれたくない!
ん?
奥から、続々と巨大ムカデの大群が……十や二十じゃない。
俺は、炎獅咆哮を発動した。
俺の前方に一瞬で炎が渦巻くと、それは前方へと何重もの火炎放射をおこなう。巨大な炎に飲みこまれ、焼かれる巨大ムカデたちはキィキィと気味悪い音を発した。
どれだけの数を倒したかなどわからない。
ムカデが完全にいなくなるまで、燃やし尽くした。
「あいかわらず……圧倒的ね」
「近寄られたくない」
「同感」
二人で前進を再開する。
途中、いくつかあった扉も無視して、とにかく奥へと進むことを優先した。
「アルス、後ろに気配。音が聞こえる」
俺は壁際へと移動し、前にも後ろにも対応できる姿勢をとる。
後方から、ゴブリンの群れが姿を見せる。
五体……難しい相手じゃない。
火炎弾を放ち、一蹴した。
「アルス、前からも」
俺はすぐに反転し、迫る敵……こちらもゴブリンの群れ!
氷槍の連発で、現れたゴブリン数体を圧倒した。
後ろのほうから、悲鳴が聞こえてくる。
「きゃぁあああ! 死んでる! いっぱい死んでる!」
「あわてるな! 動きゃしない!」
「おい! 人がやられてるぞ!」
マウントとってきた奴らだと、声でわかった。
シカトして、先に進む。
すると、二階へと続く階段と、地下へと下りる階段が正面に現れた。
迷わず、下を選ぶ。
「アルス、さっきの逃げてきた人」
「ああ」
「どっちから逃げて来たと思う? 二階、下……」
「デカいムカデ……だから、下じゃないかな?」
「やっぱり」
地下一層に降り立つと、洞窟というよりも屋内だ。壁、ドア、そして廊下……ドアのひとつを押し開き、空き部屋だと確認して先へ進む。
ふたつ、みっつ……めの部屋で、無残に食べ散らかされて状態の人の死体を見つけた。手の形で、人だったんだなとわかるほどひどいものだった。
時間はそう経過していない。
さっきの、逃げていた人の仲間……だろう。
よっつ……五つ目の部屋は、扉が開かない。
鍵がかかっている……てことは、もしかしたら、中は誰にも見られていない状態なのかもしれない。
ゲームだと、鍵があわない的なことで進めないが、これは現実だ。
火炎弾で、吹っ飛ばした。
期待したが、中は何もないガランとした空間だった。
どうして鍵をかけた?
中へと入ると、リューネが一か所を指さす。
「アルス、壁の色が違う」
「……本当だ」
「バルニアの時と、一緒じゃない?」
色が違う壁を、火炎弾で破壊すると、やはり通路が現れた。それはすぐに、下へと続く階段になっている。
迷わず、下へと進んだ。




