悪党成敗
迷宮を出た時はまだ昼前くらいだったが、タウジナス一味が本拠を構えている酒場に到着した時、空は暗くなり始めていた。
建物一階の酒場は、周辺の宿を利用する客たちが集まり、賑わっている。
この二階に、タウジナス一味のボスがいるらしい。
酒場に入ると、迷宮で助けたらしい男から声をかけられた。
「英雄! ありがとう! あんたのおかげで酒が飲める!」
「それは良かったよ」
笑顔で応じて、奥へと進み、カウンター越しに店員へと声をかけた。
「責任者はいらっしゃいます?」
「あ? 責任者?」
「ロイド・タウジナスさん」
名前は、ジェロームがメモってくれていたので知っていた。
「……若造、どういう了見だ?」
酒をグラスに注いでいた店員は、手を止めて俺を睨んだ。
俺は、迷宮でのことはすっかり街に広まっていると思い、これを利用しようと口を開く。
「迷宮で、新発見をしたのが俺です」
「……若い奴と聞いていたが……予想よりも若いな。でも本当か?」
「信じないなら、この話はここで終わり」
終わらせるなよ? という願いを男はかなえてくれた。
「言ってみな、要件を」
「迷宮の七層に、宝が眠ってる。評議会に報告して、賞金をもらうよりも運び出して売ったほうが儲かる。運び出しに協力してもらえないか? 儲けは折半……という話をしたいと思ったんだよ」
「どうして、頭にその話を?」
「嫌なら他に行くだけ……ただ、最初に訪ねてきたっていう、それだけの理由」
「ちょっと待て」
店員は言い、近くの男に目配せを送った。
その男が、奥へと消えていく。
「酒、飲むか?」
店員の問いに、「まだ若造なんでやめておきます」と答えると、バカにしたような笑みを向けられた。
あとで、仕返しをすると決めた。
消えた男が現れ、頷く。
「会うそうだ」
店員に言われ、カウンターの内側へと招かれた。そして男の後を歩いて奥へと入り、厨房を抜けて階段をあがる。
会わないと言われたら、突破していたけどね……いるかいないかを確かめたかっただけだから。
二階の廊下は狭い……一気に突入できないようにしているのかな?
木製のドア……男が、ドアを叩く。
「来ました」
「入れろ」
通されて、中に入ると十人ほどの男たち……見知った顔が三人いて、彼らは肩に包帯をしたり、歩行補助用の杖を持っていた。
あの時の、雑貨屋の奴らだ。
彼らも俺に気づき、立ち上がろうとしたが痛みで動かなくなる。
「知り合いか?」
部屋の奥に座っていた初老の男……彼の質問に、怪我をした奴らが喚く。
「頭! あいつが俺たちを!」
「この野郎! ノコノコと!」
「ぶっ殺してやる!」
……慌てなくても、これから相手してやるよ。
俺は頭と呼ばれた男に手で招かれ、彼へと歩くも部屋の中央で止まるようにと言われた。
「俺が、お前が会いたがっているロイド・タウジナスだ。で、宝を迷宮から運び出したいって? どんな宝だ?」
「黄金の棺」
……金細工がされた棺を大げさに言うと、相手は興味をもったと表情でわかる。
ロイドが、指をちょいちょいと動かして、俺に近づけと示した瞬間、俺は魔法を発動した。
火炎弾をロイド・タウジナスにぶつけ、護衛の男たちには風刃波を放っている。
一瞬で、爆発と絶叫が沸き起こり、ドアは吹き飛び、窓ガラスは窓枠ごと破片となって地上へと落ちる。
通りを歩いていた者たちの悲鳴。
俺は討ち漏らした男たちが、武器を手にするより早く、氷槍を彼らにぶつけていた。
氷の槍で串刺しにされた男二人が、信じられないという顔で倒れる。
ロイドは、身体の半身に大やけどを負いながら生きていた。
わざと、狙いを少し、外したんだ。
「お……おまえ……呪文を……えずにこれを……」
「おい、クズ」
焼けただれた奴の左胸を踏むと、ロイドは喉を絞るように悲鳴をあげる。
肩越しに、通路の方向から突入してこようとした男たちに、雷撃を放って倒しておいた。
迷宮からこれまで、戦いっぱなしだけど疲労は全く感じない。
興奮と怒りで、逆に頭の中はスッキリしている。
「お前みたいなクズでも、悲鳴をあげるんだな?」
「か……金ならやる……助け……」
「俺がお前を殺すのは、貧民街の者たちに雇われたからだ」
「な……なに?」
「お前たちが火をつけた、貧民街に住んでいた者たちの家族が、お前を殺す」
「ま……待て。待ってくれ……頼まれて……頼まれただけなんだ。オルグ商会に頼まれて……仕事なんだ」
「ああ、俺のこれも仕事だ」
俺は黒剣の先を、ロイドの喉仏に当てた。
「や……やめろ。俺にも家族がいて……子供が……」
「後で、送ってやるから安心しろ」
「きさ――」
剣を突き刺した。
動かなくなったロイドから離れ、通路へと向かう。あいつの家族まで手をかけようとは思わないが、ああ言えばロイドは絶望のまま死ぬ。
部屋から出る前、倒した男の一人がまだ動いていたので、黒剣でトドメをさして部屋から出た。そして、通路を進み、厨房に入ったところで料理人たちが武器を手にかかってきたが、魔法と黒剣で撃退する。
遅いし、軽いし……ろくに稽古もせず、武器を手に弱い者たちを脅していただけのくだらない奴らだと思った。
酒場に出ると、通してくれた店員が包丁を持っていたので、声をかける。
「やりますか?」
彼は首を左右に振った。
俺は笑みを浮かべて、氷槍を発動する。
店員は、胸に刺さった太い氷の槍を見つめながら、後ろへと倒れた。
客たちはすっかりと逃げ出したようで、店の中には誰もいない。
外へと出ると、人々が騒ぎ、治安維持の兵たちが集まって来ている。
俺も、客のフリをしてその場を離れた。
さ、オルグ商会に行こう。




