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魔法を教えてもらう

「ルシアン様、魔法にご興味が?」

「うん」

「……以前、ランプが灯っていたのはルシアン様が?」

「……おこる、いや」

「怒りません。もしそうなら、素晴らしいことですもの」

「うん」

「まぁ……あの頃から魔法を……天才だわ」

 天才……でも、大人の人格のままで、身体が赤ん坊だからな。他の子よりも、賢く思われても当然なんだろう。

「魔法発動をできるということは、すでに魔法術式を無意識に簡略化されているわけか……ということは、魔法の呪文詠唱も必要なく脳内処理だけで具現化を……」

 なんか難しいことをぶつぶつと話し始めたぞ?

 呪文があるの?

 俺はイメージしただけなんだけど。

「ですが、そうですね。呪文詠唱を省略し、魔法発動を為せるのはすばらしいことですが、基本をおろそかにしてはいけませんから……ルシアン様、まずは数学のお勉強から始めないといけませんが、よろしいですか?」

 よくない。

 パッパッパと魔法を使いたい。

「いや」

「ダメです。才能だけでいい気になった者が没落していくのを幾人も見ました。基本を学ぶことは、絶対です」

 数学……というか、この世界の数学ってどんなの?

 ま、暇だからいいか。



- Il était appelé le Grand Mage. -



 魔法の勉強……クッソおもしろい!

 数学、歴史、言語の勉強をマリーナにみてもらっている。

 生後6カ月ですることじゃないと、マリーナに言われたけど、魔法を学ぶには必要なことだそうだ。

 もちろん、書いたりするのは無理なので、簡単な計算問題なんだけど、魔法とどう繋がるのかがわかってくると、おもしろい。

 魔法発動は、解なわけだ。

 呪文は、計算式……型となるから方程式だ。

 火をおこしたい。

 これを魔法でおこなう場合、魔導士の血が流れていることが前提条件になるが、炎のイメージを脳内で強くする。このイメージを鮮明にするために呪文が存在している。

 俺は前回、ずっと念じて炎を出した。

 マリーナは、それをこう教えてくれる。

「ルシアン様の才能は素晴らしいのですが、実際に魔法を発動するまでに、時間をかけると間に合いません。例えば、魔獣と対峙している時に、炎で撃退しようにも発動までに時間がかかると間に合わないでしょう?」

「うん、わかる」

「それを簡単にするために呪文があり、数学でいう方程式といえます。解を得るには、どの方程式を用いればよいか……炎の場合はこれ、水の場合はこれ、というように系統があり、魔導士はそれぞれ、得意系統に個人差があります。ルシアン様は想像だけで炎を出した……火炎系統が得意なのかもしれません」

 いいね、火炎という響き、好き。

 こうして、マリーナにみっちりとお勉強をみてもらい、また多く存在する魔法ごとに呪文が存在するので、その呪文を読むために魔法言語たる古ラーグ語も少しずつ教わる。

 こんなことをしていると、あっという間に月日がたった。



- Il était appelé le Grand Mage. -



 俺が早熟とわかった時から、両親はそれまでよりも頻繁に通うようになったが、俺にとっては、たまに来る親戚のおじさんおばさんみたいなもんだ。

 とくに母親は、自分の趣味や付き合いが忙しいらしい。会いに来ても、すぐに「読書会のお時間でございます」という声をかけられて離れていく……お前はもうちょっと母親らしくせぇよと説教してやりたい。

 まだ父親のほうが来てくれて……マリーナと父親の会話を聞いていると、父親はもっと会う時間を増やしたいと思ってくれているようだ。だけど、戦争をあちこちでしていて大変らしい。戦いを仕掛けておいて大変だというのは図々しいと思うが、この世界の偉い人の価値観では、そうなんだろうと思うことにした。

「マリーナ、ルシアンを頼む卑怯な俺を許してくれ」

「いえ、陛下。お役に立ててこれほどの喜びはございません」

 ある日の二人の会話。

 ピンときた。

 父上は、マリーナと実は……マリーナもそうなんだな? でも、二人はそうはならなかった……マリーナ、つらいんじゃないかな?

 女心なんてわからないけど、好きな男が政治で他の女と夫婦になって、生まれた子供の面倒をみている……殺さないで! と願いたくなる状況だ。

 でも、マリーナは本当にいい人で、先生だ。

 優しいし、魔法も歴史も物語もなんでも教えてくれる美人で明るく最高の乳母……いや、お母さんだと思う。

 でも、魔法を人前で使うことは禁止された……。

 どうして? と問うと、彼女は困った顔をして答えた。

「ルシアン様は、わたしが予想していた以上の天才です。わたしも、嬉しい一心でご希望にお応えすべくお勉強をみさせて頂きましたが、早すぎます」

「……ごめん」

「ああ、謝らないでください。ルシアン様は悪くありません。悪いのはわたしです。まさか生後十一カ月で呪文の詠唱なしで、魔法発動できるほどの才能をお持ちとは思わず……わたしはルシアン様のお側におりますから理解しておりますが、他の者たちはヒくでしょう」

「ひく……」

「最悪、忌み子だと言われてしまうと大変です」

 忌み子、嫌な言葉……俺も嫌だ。

「わたしがもっと早くに、この危険に気づいて勉強を止めておけばよかったのですが……ルシアン様との時間が楽しすぎて……嬉しくて……わたしが悪いのです」

「まりーな、わるない。まりーな、はは」

「え? いえ、わたしはただの乳母ですから」

「まりーな、はは、好き」

 俺は日頃、一生懸命にお世話してくれるこの女性に感謝を伝えようと、できるかぎりの発音で言葉を発した。

「まりーな、ありがと。ぼく、まりーな、すき」

 抱っこされて、ギューとされた。


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