表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/45

迷宮で遭遇した美少女

 二日目の疲労で、三日目の午前中は体力回復に努めた。

 リューネは、初めての現場でこれだけできるのだからすごいと慰めてくれたのが救いだった。

 彼女が仮眠をとる間、砂時計を管理しながら体力と魔力の回復具合を計る。

 数値化できないので、全快の時と比較して今がどれくらいかなんてわからないが、悪い状態から抜け出した、というあたりだろうと思えた。

 リューネは、俺にたっぷりと眠らせてくれたが、自分は一刻だけの仮眠で起き上がる。

「ふぁぁ……ありがと。体力はどう?」

「大丈夫です。もう少し眠ったらどうです?」

「いや、あまり眠ると身体が動かなくなるんで、これくらいがいいの」

 彼女は水筒の水を飲み、少しだけ飲み込むと残りを吐き出した。

 ゴクゴクと飲む俺は、彼女がどうしてそうしているのかと気になる。

「水、少し飲んで吐くのはどうしてですか?」

「あ、これ? これはね、水を飲んだと脳を錯覚させてるの。普通に飲む時もあるけど、これからは移動だから、用を足したくなる回数を減らしたくてね。あと、水を飲んで激しく動くと胃が痛むこともあるから、気をつけているの」

 勉強になります。

 そういえば、サッカーの海外中継を見ると、選手たちはよく吐き出していたことを思い出した。

 次は、真似してみよう。

 たしかに、小便したくて負けるってのは情けないよな……。

 さて、移動再開。

 回廊で休んでいた俺たちは、昨日と同じく階段を降りて、ゴブリンたちを倒した広い空間に入った。

 壁面には、竜が支配する時代に描かれたと思われる壁画があり、壮大なものだ。魔法で照らして眺めていると、これを描いた人たちが地上へと戻る日を願っていた、その想いの強さを感じ取ることができる。

「足音が近い……後ろ」

 リューネの囁きで、広間の入口方向を見る。しばらく待つと、重装備の戦士たちがぞろぞろと現れ、その数は十を超えた。

「おい! お前たちが先行して入ったのか!?」

 戦士の一人に声をかけられ、俺は警戒しつつ答える。

「ええ」

「ここに散らばる、ゴブリンたちの死体……これもお前たちか?」

 広間には、昨日、俺が倒したゴブリンたちの死体がたくさん転がっている。どれも凍らせてから潰しているが、原型をとどめているものもあった。それらを見ての質問だろうとわかる。

 慎重な対応がいいだろう。

「違います。ここに来た時にはすでに」

 彼ら戦士たちは皆、身なりが立派で統一された装備だと見てわかった。

 何者だろう?

「あの身なり……ヴァスラ帝国の黒獅子リオーグ公爵家に仕える黒獅子リオーグ騎士団の騎士たちよ」

 リューネの言葉。

 ……関わりたくない。

 帝国四公のひとつ、黒獅子リオーグ公爵に仕える騎士なら、俺は関わっちゃいけないはずだ。

 先が気になるけど、ここは一度、撤退して離れたほうがいい……何も見つけられていないが、帝国の関係者との接触は最小限にしないと。

 騎士たちは、後方の誰かに道を譲るように左右へと別れた。

 現れたのは、白いマントに白い外衣をまとった黒髪の美少女だ。処女雪のように白い肌は、リーゼキュラを連想させたが、彼女に比べると生気に満ちた美しさといえる。

「そのほう! 道を譲れ!」

 いきなりの上から……。

 黒獅子リオーグ公爵家の騎士たちを従えているということは、身分が高い女性なのだろうと容易に理解できたが、その女性がどうしてこんなところに来ているんだ?

 といあえず、この場は穏便に。

 俺はリューネをちらりと見て、ここは従おうと目配せで伝えた。そして、壁面へと近づき反意はないと片膝をつくことで示す。

「殊勝な心掛けだ!」

 美少女は言い放つと、入口正面の奥に延びる通路へと進む。その彼女を、騎士たちが慌てて追いかけ、守るように周囲を固めて離れていった。

「何だったんでしょうかね?」

「さぁ? ……よかったの? 先を譲って」

「揉めたくありません」

 リューネは苦笑し、「じゃ、あっちの通路に行く?」と、入口から見て左方向へとのびる通路を指さした。

 そうだな。

 出くわしたくない。

 そちらへと進もうとしたが、先ほどの少女ご一行が慌てた様子で戻ってきた。

 なんだ?

 少女が先頭を懸命に走り、後ろに続く騎士たちは後方を振り返り迎撃態勢を整え……ようとして諦めて走り出した。

 なんだ? と思っていると、通路の奥から現れたのは、山羊の頭部をもつ魔人の黒司祭サバト率いるホブゴブリンの群れだった。黒司祭サバトは、強力な魔法戦士でかない強い部類といえる。そして、ホブゴブリンの数はざっと数えたが、十を超えてからは多すぎてやめた。

 完全に、逃げるタイミングを逸した俺たちが自然と魔族の集団に見つかり、逃げた奴らは入口から階段へと逃れようとするが、人ひとりがすり抜けられるだけの隙間に、多数の人が一斉に群がるので混乱していた。

「ジュリアン様! お早く!」

「マントがひっかかったの!」

「マントをお脱ぎに!」

「誰か脱がせて!」

 アホなんかな……。

 俺は火炎弾フレイムを数発、放つことでホブゴブリンたち攻撃しつつ、前進して黒司祭サバトへと斬撃を見舞う。黒司祭サバト防御魔法ディフェンシォでホブゴブリンたちを守ったが、それが自身の動きに遅れを齎すことになった。

 大量のホブゴブリンたちへ、広範囲を一斉に焼き尽くす炎宴アズズを放ちながら、黒司祭サバトへ迫ることで奴の動きを制約する。

 予想通り、黒司祭サバトは俺を迎撃するために魔法を使えず、ホブゴブリンの群れは俺の魔法によって火炎の渦に包まれた。

「ギャァアアアアアア!」

「ギャアアゥ!」

「ヒギャァアアア!」

 ホブゴブリンたちの悲鳴と絶叫を無視し、黒司祭サバトの鉄杖による攻撃を抜き放った黒剣で流し、その体勢を低く保ち下から上へと斬り上げる。

 黒司祭サバトの右手を斬り飛ばした斬撃を、振り下ろす動きで二撃めにつなげ、不気味な山羊の頭部を斬り飛ばした直後、ホブゴブリンの群れへと雷撃トニトルスを連発する。

 火炎の渦と、雷の放射が魔族の群れを蹴散らし、黒司祭サバトの首なし死体が地面に崩れたと同時に、敵を殲滅できていた。

 俺はリューネに手招きし、彼女は頷きながら荷物を背負い俺に駆け寄る。

 入口で、呆然としている美少女一行を無視して、俺は広間から左方向へとのびる通路を走った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ