現場は勉強になる
交代で睡眠をとった後、大をもよおした俺は回廊の真ん中でした……。
人間、生きていると仕方ないんです。
リューネに見張ってもらってふんばったのは、恥ずかしくて嫌だったけど、そういうのをふくめて彼女は笑った。
「うんこ、我慢して死にたくないでしょ? さっさとしなよ」
美人の口から!
さすが、ポーターのベテラン……。
安い布で拭いて……紙は高いから仕方ないんです。汚物は専用の汚物袋にいれて、後日、洗って再利用……悪い? これがこの世界の常識なのだ。俺がケチなわけじゃない。
圧倒的に、物が貴重な世界。
スッキリして、先へと進む。
回廊の奥は、下層へと下る階段があった。光球によって照らされた壁面には、竜との戦いの歴史を壁に描いているようで、これはこれで大発見のような気がするも、俺が求める発見じゃない……。
「アルス、これは一度、上に発見の報告をしたほうがいいんじゃない?」
「……壁画を、ですか?」
「そう。これ、すごい発見だし、この先はきっと重要な施設だと思うけど……」
「……せっかくだし、もう少し先を確認してからあがりましょう。魔導書目的なので」
「そっか、わかった。そうしよう」
階段は、五十段ほど。
正面には、両開きの大きな扉……すばらしい彫刻……。
強化の魔法で筋力を高め、扉を押し開く。
石扉よりも重い!
くそ……魔法の効力がきれた……もう一度!
結局、五回も強化してようやく人ひとり分の隙間ができた。
光球を中へと進ませて、後に続く。
……広い空間は、エントランスホールと思われた。光球をいくつも浮かべて室内を照らすと、奥行きはざっと五十メートルはあるだろう。幅は十メートルほど、高さは四メートルから五メートル……巨大な空間だ。
入り口からみて、左手と正面奥に通路が伸びているのがわかる……が、俺たちの気配を察知したのか、正面奥からそれが現れた。
……牛頭魔人。
魔人がその名につくが、屍術で作られる魔獣が正しい分類だと思う。
こいつがいるということは、こいつの食料になる奴がこの奥にいる……ゴブリンどもがまだいるだろうし、他の魔族、昆虫類もいるのだろう。
「グゥオオオオオ!」
牛頭魔人が雄叫びをあげて突進をしてきたので、火炎弾を放って撃退した。
俺の火炎弾は、一発で強敵を仕留める威力だとわかる。ゼグスが相手だった時は、軽々と防がれていたから自信を失いかけていたが、あの魔人が異常だったのだ。
倒れた巨体は、しばらく苦しんでいたが動かなくなり、そのまま燃やされ続ける。
奥、左の通路から、続々とゴブリン、ホブゴブリンたちが現れ始めた。
「アルス、大群だよ!」
リューネの警戒に、俺は魔法発動で応えた。
「凍王降臨」
俺たちだけを防御魔法で守り、それ以外の空間を、絶対零度で包むことで一切を瞬時に凍りつかせる。
氷系統最高難易度で、全魔法の中でも難易度は五指に入るこの魔法は、発動した直後、立っていられないほどの疲労感を強いてきた。
強力な火炎や雷撃で掃討すると、壁や天井を崩さないかと心配だったのでこの魔法にしたのだが、やはり難しい魔法を使うのは要注意だ。
片膝をついた時、リューネが肩を貸してくれた。
「大丈夫?」
「さすがに疲れました」
百は軽く超えると思われる化け物たちが、凍り付いたまま動かない光景を前に呼吸を整える。
時間がたてば、氷が溶けてしまうから、その前に潰してしまおう。
重力系の魔法を連発し、一掃したところで俺は魔力が尽きた。
「上に戻ろう。ここは、奥から何が出てくるかわからないからね」
「ええ」
「歩ける?」
「なんとか……」
肩を借りて、階段をあがる。
やはり、大規模な群れ相手に強力な魔法を使うと後がしんどいな。
勉強になった。
もっと鍛えないといけないこと、そして、強い魔法を使えばいいというわけじゃないことを、だ。
ゼグスや母さんが、あれだけ強いのに稽古の時は火炎弾や風刃波、氷槍をよく使っていたのは連発できるうえに、魔力管理がしやすいからだと理解した。
倒せばいいというものじゃない。
動けなくなっている時点で、失敗なんだ。




