ギルド
宿、金融業、預り商、飲食などなど多くの店があり、その中心地から少し西側に外れた職人街に、傭兵組合の建物を見つけた。
建物の中に入ると、大勢の人たちが会話をする歓談スペースがあり、右手奥にはずらりと掲示物が貼られた大きな掲示板がある。そして、中央奥にはカウンターがあって、数人の男が、カウンターの奥にいる男性を話し込んでいた。
周囲の会話が聞こえてくる。
「帝国の侵攻を、都市国家連邦を中心に撃退しているらしい。五か国半島のほうに行けば、もっと稼げるかもしれん」
「東方大陸で、竜の墳墓が発見されたそうだ、調査隊の護衛が募集されるかもな」
歓談スペースの彼らは、お互いの情報を交換しているようだ。
カウンターにいた男たちが離れて、自然と俺の順番になった。
受付の男……四十過ぎと思われる男は俺を見て、苦笑する。
「おいおい、ここに来るにはまだ早いと思うが、仕事の依頼なら歓迎だ」
「アルスといいます。登録をしたい」
「登録? お前、いくつだ?」
「十六……になる」
もう少しで……とは言わない。
「十六で人生を終わらせたくないだろ? せめて童貞捨ててから来いよ。後悔するから」
「……魔導士なんです。魔法の鍛錬と、稼ぎたいから来ました」
「ほぉ? 魔導士? へぇ? 本当に?」
疑われている……説明するより、見せたほうが早いな。
俺は、氷の槍を空中に作り出した。
瞬間。
談笑していた男たちが、武器を手に立ち上がった。
掲示物を眺めていた男たちが、一斉に俺を見て身構える。
皆、経験者たちなのだと理解できた。
「わかった……呪文の詠唱もしないで、しかも一瞬の発動……かなり仕込まれているな?」
「まだまだです……登録しても?」
「手練れなら、こちらからお願いする。失礼したよ、アルス……俺は――」
受付の男は喋りながら、周囲に手を広げてなんでもないと伝えた。
ガタガタと椅子を鳴らして落ち着いた周囲は、談笑を再開する。
「――ジェローム・ベフィット。このバルニアのギルドを経営している。字は書けるよな?」
「もちろん」
「これに名前、死んだ時の報告先を書いてくれ」
……死んだ時の報告先……リアルだ。
たしかに、言われてみればそうなんだけどさ。
死んだ時……コボルトの村はまずいから、コトラスのウェルゲイ……いや、迷惑をかけるわけにもいかない……やめておこう。
俺は、死んだ時の報告先は無しと書いた。
「家族は? いないのか?」
ジェロームの問いに、俺は頭をふる。
「いない。母さんがいたけど」
それだけで、彼には伝わった。
「悪かった。説明をする。仕事は掲示板に貼りだしている。請けたい仕事を俺に伝えてくれ。受付票を渡すからそれを発注者に見せろ。仕事が終わったら成功報酬はここで受けとることができるが、その金額の一割を俺に寄越せ。それが仲介料だ」
「わかりました」
「船や長距離馬車の切符をとる時や、宿をとる時や馬を借りる時に傭兵や冒険者は身元保証人をたてる必要があるが、お前の場合は無理だろうから、バルニア傭兵組合保証を使えばいい」
「わかりました……手数料は?」
もちろん、かかるだろうと思っての質問だ。
「手数料は不要だ。ただし、相手に迷惑をかけたにも関わらず、お前が償いをしなかった時は、この世から消えてもらう」
消えてもらう!
さらっと言えるところが……なるほど、暗殺者を囲っているのか。秩序を乱す者が、組合に出入りしている者だった場合、ここの信用問題になる……それに、暗殺者ってのは、単純な強い弱いじゃない。
寝ていたら、二度と目覚めない。
トイレで大をしていたら、死んでいた。
結局、人間は隙がある生き物だから……。
俺は、傭兵組合の登録証を受け取った。それはマント留めで、無くした場合、本人が組合に来れば再発行してくれるらしい。ただし、都度二百リーグを支払う必要あり。
ジェロームに会釈をして離れ、掲示板を眺めながら、迷宮に入る前の準備をどうしようかと考えていた。
仲間……コトラスの町で俺をチクった奴らも、傭兵や冒険者だったと思う……あの時は、彼らの稼ぎ口を荒らした俺も悪かったと思うが、実力なのだから文句言うなという気持ちが強かった。結局、ああいう奴らが、この空間には多いと思うので、それなら一人がいいと決めた。
ただし、荷物持ちがいる……見張り兼荷物持ち。
見張り……俺が寝ている時や、大をしている時など、見張ってくれないと困ることになる。
あと準備だ……服は、おさがりをもらった。革のジャケットとズボンは丈夫だし、鎖帷子は動きやすくていいものだ。さすが領主の持ち物……だけど、着替えはいる。
お金がいる……賞金はあるが、買い物するとあっという間になくなるだろう……持たせてもらった古ラーグ時代の金貨……ゼグスが渡してくれた金貨を売ってお金を作るしかないけど、怪しまれないか? ……いや、魔導士でいろいろ遺跡調査していた時に……待て、俺は初心者だった……そうだ! 母さんからもらったことにしよう……母親が魔導士で、それをもらったと誤魔化そう。
換金場所……俺は、ジェロームがいるカウンターに戻り、換金はどこですればいいかを訪ねた。
「換金? 宝石か? 遺物?」
「古い金貨……魔導士だった母さんが残してくれていたものなんです。どこかの遺跡で見つけていたものらしく、何かあったらこれを売れと」
「見せてみろ」
俺は革袋から一枚の金貨を取り出し、彼に差し出す。
ジェロームはまじまじとそれを眺め、俺を見た。
「古いな……模様からして、古代ラーグ時代のものだ。いい金貨だ。大学や収集家に売れば八万リーグは下らないだろうが、ここには大学はない。収集家なら、市場にいるだろう……ギルドでも換金しているが、そいつらよりも安くなる……俺たちも結局は転売目的だから……それでも、今ここで現金払いするが、どうする?」
「ジェロームさんにお願いしたら、いくらになります?」
「七万」
最低でも、一万リーグの稼ぎってことか。
ま、収集家を探すのも面倒だし、これからお世話になるだろうからお付き合いをしておこう。
「じゃ、お願いします」
「いいのか?」
「はい」
彼は奥の扉を開け、中へと声をかける。
「おい、金。七万」
「へい!」
奥に部屋があり、まだ人がいるようだ。
カウンターに、金貨が置かれた。
……帝国金貨か。なんか、ヴァスラ帝国に関係するものは敬遠したい気持ちなんだよな……嫌なことしかされてないから。
ま、一番流通しているから仕方ないけど。
「大金貨一枚と金貨二枚……細かくしたほうがいいか?」
「できれば」
大金貨一枚、金貨一枚、銀貨九枚、銅貨百枚を受け取る……けっこう重い……なるほど、預り商の看板が多いのはこういうことか。金貨や銀貨はヴァスラ帝国のものだけど、銅貨はバルニアのものだ……銅貨、ここで作っているってことは銅がとれるんだな。
「たしかに、受け取りました。ありがとうございます」
「なに、お礼を言うのはこっちだよ」
そうだ。
荷物持ちの件、この人に相談したらいいじゃんと気づいた。
「あの、地下迷宮に入ろうと思うんですが、荷物持ちの人を雇いたいんです。紹介してもらえません?」
「ポーターか。紹介できる。もちろん紹介料とるが、いいのか?」
やった! 助かる! なるほど、傭兵や冒険家に仕事を紹介するだけじゃなくて、こういう斡旋もしてくれるわけだ。
「いいです。一日単位? それとも人数ですか?」
意外そうな顔をされた。
なんだ? 変なこと言ったか?
「基本は一日単位だが、長期にわたる場合は長期契約を個別に結ぶ……内容によって料金も変わる。安い奴を雇うと逆に大変だろうから……お前の場合はベテランに頼んだほうがいいだろう。ただし料金は高めだ」
彼は俺を、本当に初心者だと思っているからそういう提案をしてくれているわけだ。この人にあれこれと相談したほうが、面倒が少なくていいかもしれない。
「お願いします」
「一日三千リーグ……高いがただ運ぶだけの奴より、お前にはいいだろう。何人かアテがある。紹介料はポーターへの支払いの一割分……五日間なら一万五〇〇〇だから、お前は一万六五〇〇を俺に支払い。俺がポーターに一万五〇〇〇を支払う」
「それで大丈夫です。お願いします」
「悪いが、明日十三時にまた来てくれるか? 何人かに声をかけておくから選んでくれ」
「ジェロームさんがオススメする方でいいです。俺みたいな若造でも、対応してくれて経験がある人をお願いします」
「……そうか、わかった。じゃ、明日十三時に会わせるよ」
「お願いします」
会釈をして離れて、建物を出た。
初対面の人にお願いするよりも、ここを通して頼むことで安心できると思えば、紹介料は高くない。ただ、一日三〇〇〇リーグが、高いのか安いのかもわからん……けど、そもそも、俺はこの世界……人間社会で暮らすのは初心者なんだから……。
待てよ。
帝国の庶民が一カ月の生活費約二万リーグと言っていたな……ここもそう変わらないなら、二万を一カ月三十日で割ると、約六七〇……となると日当三千リーグというのはいい稼ぎなのか? いや、仕事がない時はないだろうから、高い金額じゃないような気もするけど……悩むより慣れたほうがいいな、割り切ろう。
だいたい、俺は高いの安いの言える立場じゃないんだから。
さて、買い物はポーターと一緒のほうがいい。
宿を探そう。




