旅立つ日
水遊びをする小川に、来ていた。
母さんを埋葬したんだ。
皆が一緒に、お墓をつくってくれた。
タボは泣いてばかりで、まったく作業を手伝ってくれない。
ケイもずっと泣いていたけど、誰よりも穴を掘ってくれた。
母さんを穴に寝かせて、皆で土をかける。
コボルトたちは、キューキューと泣き続けた。
母さんのお墓の前に座る。
どれだけ、そうしていただろう?
コボルトたちが、そっと離れていっても、俺はそこにいた。
これから、どうしたらいいんだろう?
俺は、母さんがいない世界なんて、想像していなかった。
辺りが暗くなってくる。
ふと、遠くから白い何かがフワフワと近づいてくるのを見えた。
見つめると、リーゼキュラだとわかる。
俺が立ち上がろうとすると、彼女は手を少し動かして、そのままと伝えてきた。
俺は地べたに座り、彼女もまた、隣にペタリと座る。
「ヴィルから、知らせを受けた。ゼグスは、来ない。悲しんでいるところを、君に見られたくないんだと思うよ」
意外なことを聞いた。
「君はどうするの?」
「……森から、出ていくことが前提のような質問ですね?」
「出て、行くのだろう?」
「……出て……行きます」
「うん、いいんだよ? わたしたちへの遠慮なんて不要だ。君は自由だよ。本来、何者も、皆、平等に自由だ。それに君は、わたしたちの家族だ。家族が独り立ちするのを、応援したいじゃないか?」
「……」
「アル、でも疲れたら帰っておいで」
「……リーゼキュラ様も、ゼグス様も、魔族なのに人間の俺に親切です。どうしてですか? どうして、人間の俺を家族と言ってくれるんですか?」
「どうして? うん……どうしてだろう? でも、わたしもゼグスも君が好きだ。コボルトたちも、この森にいる魔族は君を仲間だと思っている。家族だと、感じているんだよ」
「……」
「もちろん、マリーナのこともだよ」
俺は、自然と涙を流していた。
リーゼキュラが、俺の頬にキスをする。
驚いて彼女を見ると、美しい笑みを見た。
「したいこと、見つけているんでしょ?」
「はい」
「マリーナのお墓は、わたしたちが守るから安心して」
「……リーゼキュラ様、すみません。泣いて……いいですか?」
俺は、魔王に抱きしめられて、涙を溢れさせた。
声をあげまいと、懸命にこらえる。
リーゼキュラが、俺の髪を撫でながら囁いた。
「アル……アルス・マリーナ・ファウス……マリーナの子。君のこれまでの人生は、マリーナのおかげで素晴らしいものだった。これからは、君が自分で、素晴らしいものにしていくの。だからその前に、今は……マリーナのために好きなだけ泣けばいい。我慢なんてしなくていい……いいんだよ? アル」
俺は、声をあげて泣くことができた。
- Il était appelé le Grand Mage. -
魔王が励ましてくれた後、俺は村に戻り、ヴィルに旅立つことを伝えた。
すると、ゼグスからの品を預かったと言われ、渡されたものは片手剣だ。
赤い縁取りの黒い鞘から、剣を抜くと漆黒の刀身。
銘は、わからないそうだ。
昔、ゼグスが倒した竜の眷属が使っていて、魔法の力が備わる貴重なものらしい。
「お金に困れば売ればいいし、武器として愛用してもいいし、任せると仰せだった」
「売れないよ、こんなすごい剣……ゼグス様は館にいらっ――」
俺の言葉を遮るように、ヴィルが言う。
「ゼグス様は、会いに来るなと仰せだ……たぶん、アルが旅立つこと、わかっていたけど寂しくお感じなのだと思う……困ったら、いつでも帰ってきていいというお言葉も、預かっているから」
俺は、胸がキュッとなる感覚にたじろぐ。
まさか……こんな世界で、それも人間ではない魔族から、そういう言葉を聞かされて……コボルト達も言わないだけで、寂しがっているのだとも、ヴィルは暗に伝えてくれたのだ。
コボルト達も、俺を止めたくても止めない。
この森は、頼る者を受け入れて、望む者を送り出す。
俺は、頷きをヴィルに返した。すると彼は、地面に置いてあった革袋を掴む。
見ただけで、相当に重いとわかった。
「あと、これが旅費」
革袋を開けると、古い時代の金貨……革袋にいっぱい。
相当な額……になると思う。これらを換金できていれば……いや、よそう。
過去を悔やみ、責めたところで……マリーナは生き返らない。
「村を出て、どうするの?」
ケイの問い。
「未発見の、魔導書を探す旅をする」
俺は、笑顔でそう答えた。
そう。
これが、俺がしたいことなんだ。




