薬ができるまで
町には闘技場があり、俺を馬鹿にした男たちも本業はそちらだったらしい。
ギルさんから、お金がたくさん必要になると聞いて、待っている間、闘技場で金稼ぎをしようと応募した。
初日の相手は、武闘家ルーシンと名乗る男だったが、ゼグスに比べて遅いし非力で魔法を使うまでもなく勝った。
二日目の相手は、剣士でハサンという男だった。この人も、ゼグスに比べて剣の振りは遅く、動きもバレバレなので秒で勝てた。
三日目の相手は、コトラス闘技場で、昨年まで王者に君臨していた戦士だったが、ゼグスに比べて攻撃が軽いし、剣を振る時にいちいち「は!」「てい!」「おら!」と声をあげるので簡単に勝てた。
四日目……から、闘技場に向かう道中で声をかけられるようになり、女の子たちから花をもらうようになった。そして相手は、俺が対戦相手と聞いて逃亡してしまったそうだ。
五日目は、闘技場のほうから遠慮してくれと言われてしまった……。
「アルスは強すぎるの。わかる? 勝負にならないし、賭けも成立しないからダメなの」
エリザの説明に、諦めるしかないと理解できた……。
三回の戦いの賞金総額は八万リーグ……聞けば、帝国の辺境であるこのあたりだと、庶民の生活費一カ月あたりは、二万リーグほどだという。
……ヒュドラ討伐、でかかった!
俺は、この八万リーグも使わないで貯めることにした。
あと二万リーグ、何かで稼いで一回分の薬を買いたい。
- Il était appelé le Grand Mage. -
薬ができるまでまだ日があるので、エリザの付き添いで、町で唯一の医者を訪ねた。診察希望の人たちがずらりと待っているので、俺も待つことにする。
「先に話をしてもらうように頼むわよ?」
「いえ、待ちます」
「……あなた、変わっているのねぇ? 子爵閣下のお客様だから、融通をきかせてあげられるのに」
「そういうの、慣れていないので……慣れたら、あとが大変そうで」
「図々しい奴らが多い世の中で、謙虚さは貴重よ。ご両親がすばらしいのね?」
「ありがとうございます」
結局、夕刻となって診察時間が終わってしばらくして、時間をとってもらえた。
診察室で、まだ若い女性を前に意外さを覚えながらも名乗る。
「ご無理言ってすみません。アルスといいます。お話を聞きたくて」
「リサ・オーリーです。こちらこそお待たせして……どうぞ」
「リサ、この子はこれでも子爵閣下のお客様で、ヒュドラ討伐の成功者なの。協力してあげて」
「まぁ! じゃ、闘技場で連勝した若者って、あなた?」
俺はうなずき、話題を戦いのことからマリーナのことへと変えた。
「ええ、ですがそれよりも、どうしても知りたいことがあるんです。家族の病気のことで」
「ご家族が?」
「血が毒になるという病気だと、旅の医師に言われまして」
「……血腫?」
「そういう病名はわからないのですが、薬師の方も血腫という病名を口にしていました」
リサは顎をつまみ、視線を転じて窓を見る。
診察室の窓からは、夕暮れの町を行きかう人々と、オレンジ色の空が見えた。
女医は、ため息をつき、俺を見て口を開く。
「血腫……ならば、投薬が有効です。薬師の方と会ったならもう手配済みだと思うけど、最低でも十五回から二十回ほど、完治までに必要……つまり、裕福な家でないと治ることはない病気なの」
「……稼ぎます」
「まだある。血腫には二種類あって、進行が早いものと遅いものに別れる……でも、どちらも発症から治療まで、早ければ助かりやすい……ただ、血腫は全身をめぐる血液の異常だから、発症から治療までに時間が経っているのなら……その異常が体内の他の場所に移っているかもしれない」
俺はこの説明で、マリーナが患っているのはガンのようなものだと理解できた。
血液の……一気に不安が押し寄せてくる。
どうしよう?
いや、やることは決まっている。
仕事だ……仕事をして、薬を買って……とにかく、薬が出来上がったら一度、村へ届けて……。
「アルスさん? アルスさん?」
女医に名を呼ばれて、考え事に集中していたと気づいた。
二十回……今、十回分の薬は作ってもらっている。あと、半分……。
「エリザさん、あのヒュドラ討伐のような大きな仕事、ありませんか?」
「うーん……この辺りは田舎だから、もう少し南に行けば、北部一帯の中心都市ペテルベルグがある。そこには(ギルド)があるから、仕事がたくさん集まっていると思うけど……」
「どれくらいの距離ですか?」
「馬で駆けて一日半ってとこかしら……」
……村に帰ったら、薬を渡して、すぐに出発しないと。
俺はリサ先生に感謝し、医院を後にした。




