討伐へ
湖までは、半日ほどの距離とユーリが教えてくれた。
「その畦道を右に」
彼の案内で、湖へと向かう。
「君はいくつ?」
「十五」
年齢を訊かれ、肩越しに答えた。
「弟と同じだ……危ないと思ったら、逃げてくれよ」
「そうします」
「どうして、この仕事に?」
「家族が病気で、薬がいるんです」
「……なるほど、君ひとりで倒せば百万リーグ総取り……高価な薬も買えるね」
百万リーグの価値がいまいちわからない……百万円という円単位ならなんとなくわかるんだけど……。
「ユーリは、しないんです? 討伐」
話しかけてくるので、話しかけた。
「死にたくないよ」
「……ま、それは俺もです」
死にたい奴なんて、いないだろう。
……マリーナも、きっとそうだ。
- Il était appelé le Grand Mage. -
出発が何時なのかわからなかったけど、湖に到着する頃にはすっかり暗くなっていた。
「じゃ、野営をして明日だね?」
ユーリの言葉に、頭を振って進む俺は光球の魔法を発動させた。
ひとつ、ふたつ、みっつ……五つもあれば、周辺一帯を照らすことができる。湖の奥までは諦めた。
「き……君は呪文の詠唱しないのか!?」
ユーリの問いに、俺は答えず火炎弾数発を湖へと撃ちこむ。
さっさと出てこい!
ドーン! ドーン! と火炎弾が水面にぶつかり爆発し、いくつもの水柱があがり、波がたち、爆風が八方へと吹く。
「ちょっと! 大丈夫なのか!?」
慌てるユーリを無視して、現れるまで火炎弾を放とうとしていたが、ヒュドラが姿を見せた。
巨大な蛇は、胴体が小屋よりも太く、頭部は巨大だった。牛でさえも一飲みできそうなほどの大きさで、赤い目を光らせている。
三つの頭が、俺を狙うようにもたげた。
俺は、化け物が地上へと上がってくるまで待つ。
来い! 俺、弱そうだろ? 早くかかって来い!
ヒュドラが、波をたてて地上へと滑るようにあがり、俺たちへと急接近してきた。
ユーリが、腰を抜かしたように座り込む。
俺は、重力系の高難易度魔法を発動させた。
冥魔封殺は、ヒュドラの身体全体を押しつぶす。
グシャリと潰れたヒュドラの巨体は、内臓と血液を爆発させたように周囲へと飛散させる。俺は汚れたくないので後退したが、ユーリは血をあびて真っ赤になった……。
ビクビクと痙攣するヒュドラへと、火炎弾と雷撃を撃ち続けた。
粉々になっても、再生しないようにと何度も。
「もういい! もう死んだ!」
ユーリの声で、俺は魔法を撃つのをやめる。
彼はヒュドラの血で汚れた顔のまま、俺の前に立った。
「……この目で見た。君が倒した……お、おめでとう! 君! すごいな!」
「……ありがとうございます」
「帰ろう。早く……早く帰って顔を洗いたい」
「ええ……帰りましょう」




