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薬が買えるという町

 ゲームなら、町に入ったところに人が立っていて、話しかけると「ここはコトラスの町だよ」と教えてくれるけど、そんなものはない。

 到着した町の名前などわからないまま、薬師をどう探せばいいかと悩んでいると、広場のほうからその声が聞こえてきた。

「コトラス子爵閣下は戦士をお求めである! 東の湖に住み着いたヒュドラ討伐に、我こそは思う者は応じよ! 褒賞は百万リーグだぞ!」

 大金なのかどうなのかわからないけど、ヒュドラか。

 巨大な多頭蛇で、頭の数でその格を判断できる。有名な個体は中央大陸のヤマタノオロチと教わった。

 マリーナは博識で、いろんなことを教えてくれて……。

 ヒュドラは複数の頭を同時に潰さないと、何度でも復活してしまうのが厄介な特徴だ。また種族としての強さも魔獣でいうと、大怪獣ベヒモスに勝つまでに成長する個体もいるが、ゼグス相手に稽古しているので、たぶん……大丈夫だろう。

 広場へと向かうと、すでに五人の男たちがいた。彼らは受付の女性と会話をしている。

 俺は、受付の横で声をはりあげている呼子の前を過ぎて、男たちの後ろに並んだ。

 男たちの一人が、俺を見てせせら笑う。

「おっとぉ? お嬢ちゃん……なんだ男かよ、何の用だ?」

「……ヒュドラを倒す」

「はい?」

「応募する」

「おいおい! お前ら! このガキも参加するってよ!」

 男たちが俺を見て笑うも、俺は彼らを押しのけて受付の女性に話しかけた。

「俺も参加します」

「武器は? 持っていないみたいだけど?」

「魔導士だ」

「へぇ? じゃ、ここにサインを」

 書類に、アルスと記した。

「アルスね? 一人?」

「はい」

「死んだら、誰に連絡を?」

「……しなくていい。ヒュドラの頭はいくつ?」

「三つの頭……なかなか大きい個体だけど……本当にやるの?」

「はい」

 受付の女性は苦笑し、後ろで俺たちの会話を聞いていた男たちが下品な笑い声をあげるも、リーダーと思われる男が女性に言う。

「おい、こいつが俺たちの後ろに隠れて、百万の分配を狙っているなら問題だ。やめさせろ」

「ダメよ。それに、もしそうだったら貴方たちで排除すればいいでしょ」

「……わかった。おい、ガキ」

 リーダーが俺を睨む。

「お前、ふざけたことを企んでいたら殺すからな」

 俺は無視して、受付の女性に質問する。

「薬師はどこに? 褒賞金で薬を買いたい」

「生きて帰ったら、紹介するわ。ヒュドラ討伐に行く際は声をかけて。監視員を同行させるから」

「じゃ、これから行く」

「え?」

 驚く彼女に、「これから」と再び伝えて、男たちの笑い声を無視する。

 こっちはさっさと、薬を買ってマリーナに届けたいんだ。

「昨日までに、すでに五組の手練れたちが討伐に向かい、誰も生還せず……準備をちゃんとしなさい」

 女性は親切心で言ってくれているようだけど、準備も何も金がないので何もできない。道中、リスや兎を狩って焼いて食べていたくらいなので空腹は感じるけど、我慢できないほどじゃなかった。

 早く終わらせたい。

「薬を早く買いたい。今からだ」

 俺の言葉に、女性は呆れた様子だったが、それ以上は言わなかった。

「わかった。ユーリ!」

 広場の隅、幾人かの男たちの一人が振り返り、近づいてくる。

 長身でしなやかな体躯は、彼も戦士なのだろうと思われた。

 女性が口を開く。

「彼はアルス。応募者よ。これから仕事に向かう。一緒に行って」

「了解……アルス、よろしく。子爵閣下に仕えているユーリ・ティンバーだ」

「よろしくお願いします」

 ユーリは無駄口を叩くでもなく、歩き出した俺の斜め後ろに続く。

 さっさと片付けて、早く薬を買おう。

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