帝国領
村を抜け出して五日後、完全に帝国領に入った。
魔族の母の森を背に、丘陵地帯を進み続ける。季節は春から夏に向かう頃合いなので、野営も楽で助かった。
畑が見えてきて、その先に集落もある。
俺は小川に寄り、数日の汚れを落とそうと服を脱ぎ、水浴びをした。
さすがにまだ、水は冷たい。
マリーナが作ってくれた服……布のシャツを着て、ブレイズを履く。
緊張していたけど、鼻歌混じりを装って村に入った。
人……農作業中の人たちが、俺に気づいて、こちらを眺めていた。
集落に入る。
コボルトの村に立つ小屋のほうがマシと思われる家々……貧しい村なんだろう。
人々の顔も、汚れが目立つ……古い油のような垢臭さが空気に混じる集落の中を歩いて、周囲を観察すると、誰もが俺を見ていた。
よそ者だと、思われているんだろう。
閉鎖的……いや、待て。この世界の辺境だとこれが当たり前じゃないのか?
ここはさっさと、通過したほうがいいか?
幾人かの子供が、俺に駆け寄ってきた。
大人たちが止めようとしたが、子供たちが俺に近づき、見上げてくる。
「お姉ちゃん、誰?」
「どこから来たの?」
「どこに行くの?」
お姉ちゃん?
「俺は、男だよ」
「えー!」
「うそー」
子供たちの親がやって来て、俺から彼らを引きはがすと背後に隠す。
俺は、敵意はないと見せるために、両手の平を胸のあたりで広げて見せた。
「すぐに行くから……通らせてください」
穏便に通過しようとしたが、進む先には農具を武器代わりにした男たちが待ち構えている……三、四……一人増えて、五人。
「止まれ」
長身の男に言われて、立ち止まった。
「ここは通さねぇ」
「……では、引き返して迂回します」
「ダメだ」
「どうしてです?」
「おとなしくしろ。その顔なら、高く売れそうだ」
……最低な村だ。
俺を捕まえて、人身売買でお金を得る?
相手がそうくるなら、仕方ない。
あの子供たちの親もいるだろうから、殺さないように……脅かすだけでいいか。
俺は、一瞬で炎の塊を空中に創りだした。
「な!」
「魔法だ!」
「呪文の詠唱をしなかったぞ」
「魔導士だ!」
慌てて逃げ出した彼らを無視して、俺は炎の塊を空中に浮かしたまま歩き、村を出たところで魔法を中断した。
待てよ?
振り返ると、村の人たちが集まってきていて俺を見ていた。
「薬を! 買えるだけの大きな町はこの近くに?」
俺の問いに、一人の男が進み出て口を開く。
「悪かった。税金を搾り取られて困っていたんだ。町なら、南東に二日ほどで着く。そこなら薬師がいるだろう」
「ありがとう」
俺は南東に向けて、歩き出した。




