壊れる日常
人は、いつまでも健康でいられる。
健康な時は、そう思っているものだ。俺も渋谷の地下であんなことになってなければ、今のこの元ルシアン今アルスというふざけた人生を送っていないはずだ。
幸い、コボルトの村に越してから、俺もマリーナも軽い風邪くらいしかひかなかった。
虫歯菌がない世界なのか、毎日のケアがいいからなのか、口内の不健康で苦しんだこともない。
あと一か月ほどで十五歳という頃になって、これまでの生活に変化が生まれた。
マリーナが、よく寝込むようになったのである。
医者に診てもらおうと言ったけど、彼女は拒否した。
「だめよ。見つかるかもしれない」
「もう十年以上も経っている。忘れているよ」
「ダメです……ダメ、ここは魔王の領域とはいっても、南はすぐに帝国領なの……万が一……」
「俺も子供じゃないし、逃げる時は逃げられるから」
「まだ……子供よ」
マリーナはそう言って微笑む。
俺は、マリーナを医者に診てもらいたい。
だけど、彼女は俺のために拒否をする。
そして、寝込んだ翌日には元気になっているから、治ったんだなと安心すると、しばらくしてまた寝込む……。
そしてだんだんと、マリーナは寝込む日が増えてきた。
医者に診てもらおうと説得しても、彼女は俺の言うことをきいてくれない。
どうしたものかと、コボルト達に相談し、彼らから説得をしてもらってもダメだった。
十五歳の誕生日を二人で祝った時も、彼女は横たわったままだ。
だけど、翌日、マリーナは嘘のように元気に起きていて、珍しく一人でゼグスを訪ねると言った。
俺も行くと言ったけど、彼女は笑って断る。
「畑作業の日でしょ? 夜には帰るから」
そう言って、彼女は出かけた。
- Il était appelé le Grand Mage. -
畑作業もひと段落し、続きは明日にしようかと思って腰をあげた時、タボの息子で戦士のガルが叫びながら走ってきた。
「アル! 大変! すぐに村へ!」
「何? またチビたちが井戸に落ちた?」
「マリーナが倒れた!」
俺は鍬を投げ捨て、芋を放って畑から出る。
今日は、ゼグスを訪ねて出かけていた。
何の話かは、教えてくれなかった。
村へと入ると、オークたちが俺を待っていた。
マリーナを担架に乗せて、ここまで運んでくれたらしい。
「アル、マリーナが倒れてだな」
オーク戦士のヴィシラムが、どう説明しようかと困っているところに、長老のヴィルと共にゼグスが姿を見せる。
「来たか」
獅子頭の魔人が、横たわるマリーナと俺を交互に身ながら口を開く。
「随分と状態が悪いのに、俺のところに来たようだ……いや、そうせねば、もう俺と会えないと思ったのかもしれない」
「マ……母さんは、ゼグス様に何を?」
「いや、俺の屋敷に入った直後に倒れた……人間の医者はおらぬゆえ確かなことはわからぬ……なので、リーゼキュラ様に来ていただくようお願いをした」
魔王に?
ヴィルが、口を開く。
「リーゼキュラ様なら、マリーナの身体に触れればどういった病気なのかわかるはずだ」
マリーナは、医者に診てもらうことをしなかった。
俺のためだ。
俺は……いつもマリーナに、守られているんだ。




