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転生皇子の魔導録 ー未発見の魔導書を求めてー  作者: ビーグル犬のぽん太
第一章 アルスという名になって
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魔王の言葉

 ゼグスに稽古をつけてもらい始めて、半年が経過しただろうか。

 最近は、マリーナも一緒に来ると言わなくなった。おそらくだけど、ゼグスが本当に俺を鍛えてくれていること、怪我をさせないように手加減をしてくれていることを、この半年間で見極めたから、ついてこなくなったんだと思う。

 人間を鍛える魔人。

 それも、魔将アスモデウス級の魔人。

 そりゃ、疑いたくもなる……。

 コボルトたちに聞いたところ、ゼグスはリーゼキュラに仕える魔族の中でも、二番目に強い大変な実力者らしい……これが二番なの? というか、リーゼキュラはもっと強いのかと思っていて、休憩時間にゼグスに尋ねると、意外な答えが返ってきた。

「強い弱いで、上下が決まるわけではない。お前ら人間もそうだろう?」

 たしかに。

「リーゼキュラ様は、我々にとって特別な存在なのだ。いうなれば……お前にとってのマリーナといえば、わかるか?」

「お母さん的な、ことでしょうか?」

「そうだな、それがわかりやすかろう」

 ……あの少女が、この獅子頭のお母さん? 違和感しかない。

 ただ、ここ半年ほど、ずっと稽古の相手をしてもらっている俺はひとつだけ、断言できることがある。

 この魔人、魔族だけどいい人……人じゃないから、いい魔族? ともかく、親切だ。

「武を極めようという者は嫌いではない。ただし、お前とマリーナは例外だ。他の人間は殺して食べて終わりだからな」

 喜んでいいのか、悪いのか、よくわからんけど、俺たちは食べないようだからよかった。

 このゼグスに稽古をつけてもらうことで、戦い方がずいぶんとマシになってきていると思う。 



 - Il était appelé le Grand Mage. -



「おや? いい背中になってきたじゃないか」

 川で顔を洗っていたら、声をかけられて振り返ると、魔王が浮いていた。

「うわ!」

 驚いて、川に落ちた……。

「ふふふふ……ごめんごめん。驚かそうとしたんじゃないんだよ」

 川からあがり、片膝をつくと彼女は笑う。

「おお! 大人になってきたね? 礼儀をわきまえて」

「ありがとうございます」

「いくつになったの?」

「十三歳です」

「人間の十三歳は早いね? もうわたしと身長が変わらない」

 リーゼキュラはそう言うと、俺に立てと所作で命じる。

 逆らうわけにはいかないので、緊張しながら立った。

 はっきり言って、強さがどうこういう相手じゃないと本能が訴えてくる。

 それにしても、何だろう?

「ゼグスが君を鍛えていると聞いて、興味をもったの。君は、どうして強くなりたいの?」

 ……そう問われると、難しい。

 だけど、嘘や誤魔化しは……殺されそうだ……。

「俺は魔法が得意です」

「うん」

「どこまで魔法を極めることができるか、という興味がひとつと、強ければ選択肢が増える世界だと思うから」

「……子供らしくない答えぇ」

 魔王は楽しそうに笑い、俺の隣に並ぶとペタリと地面に座った。

 砂や泥で汚れるからと慌てたが、彼女はそうして俺に言う。

「いいね、君。それは大人のような回答だけど、本心に近いね?」

 嘘はついていない……んだけど。

 俺は、彼女のやや後ろに片膝をついた。

 肩越しに俺を見る魔王は、微笑んでいるように見える。

「でも、もっとまっすぐに言ってほしいな」

「まっすぐ?」

「うん……誰からも指図されないだけの強さが欲しい」

「……」

「この場合、強さとは、富、権力、戦闘力、いろいろな種類があると思うけど、君の場合は戦闘力ね?」

「……はい」

「いいんじゃない? 強ければ、弱い者を守ることもできるし、弱い者を狩ることもできる」

 なかなか、怖いことを言う……。

「戦闘力……精神と肉体の強さ……になるね?」

「はい」

「次に、試したくなるはずよ?」

 そうだ……実際、俺はもうすでにその気持ちがある。

「いいのよ、難しい顔をしなくても。強くなりたいって気持ちは、悪いことじゃない。でも、強くなった時にどうあるかを考えないまま力と技を鍛える者が多いから、君はそうはならないでね」

「……ありがとうございます」

 美少女はクスリと笑って、すぅっと滑るように去っていく。

 ……魔王なのに、とても言いこと言う……気をつけよう。

 増長は、身を滅ぼすから。



 - Il était appelé le Grand Mage. -



 コボルトの村から北……森の奥へと一時間ほど進んだ場所に、泉を中心に草花が群生する一帯がある。ここだけは樹木が遠慮していて、ひらけた場所になっていた。だから稽古に都合がいいと、ゼグスがこの場所を稽古場所に指定したのだ。

 俺、コボルトたちの戦士が参加する稽古……最初は俺だけだったけど、いつの間にか人数が増えて、十人のコボルト戦士と一緒にゼグスの稽古に参加している。

 剣の振り方、体重移動など基本的なことから、攻防一体の実戦稽古、そしてゼグスによる講習も勉強になった。

 彼は千年ほど生きているそうで、それまで戦ってきた強敵との戦闘を語ってくれる。その中で、何が分岐点になったのかなどを教わるのはタメになった。

 しかし……ゼグスは頭もいい。俺たちに、わかりやすいように言葉を選んでくれているので、理解しやすい。

 稽古を終えて、コボルトたちは先に村へと戻るけど、俺は残ってゼグスと一対一だ。

 手加減をしてくれているとはいえ、最初の頃に比べて随分と戦えるようになってきた。

 この一年で、かなり成長できたと思う。

 ただ、あちらは木剣で俺は実剣というハンデは変わらない。

「攻守の切り替えが遅い! 攻めながら、守る! 守りは攻撃の初手! 死にたいのか!?」

「相手の重心をみろ! 逆をつけ! 逆を!」

 叱られながら、教わる。

 斬撃を見舞った直後、ゼグスの氷槍バラス防御魔法ディフェンシォではなく氷槍バラスをぶつけて相殺しながら、雷撃トニトルスを放ち、ゼグスが魔封盾スクトゥームで防ぐすきに剣を垂直に振る。

 ゼグスは木剣を手から離すことで俺の攻撃を躱し、脚で剣を弾いてすぐに掴み直した直後に一閃を見舞ってきた。

 後退しながら剣で弾き、地面を蹴る反発で加速し斬撃をくらわせる。

 ガツン! という衝撃。

 ゼグスが腕で、俺の剣を防いだ。

 彼の二の腕から血がこぼれ落ち、俺は慌てた。

「すみません!」

「いや、見事だ。予想外の攻撃……お前はあのまま後退すると思っていた俺を上回った」

 剣を捨て、腕から血を流すゼグスに歩み寄ると、彼は俺の肩を掴む。

「次の稽古からは、実剣と同じ重さの木剣を使え」

「あ……ありがとうございます!」

 認められたと思い、嬉しかった。

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