ゼグスの稽古
村に帰り、俺が狂獣を倒したことが広まると、皆が俺を称えてくれた。
もちろん、マリーナも喜んでくれたけど、その後に叱られた。
「ゼグスに稽古を? ダメです!」
「どうして?」
「あれは本当に危険な魔族です。魔人と呼ばれる強力な種で……その中でも高位の魔将級なの。危険だし、魔人が人に稽古をつけるなんて聞いたことがない」
「でも、もうお願いしちゃった」
「……わたしも立ち会う」
「は?」
「稽古の時は、わたしも立ち会う。でないと、許可しません」
許可しません……マリーナに、もしかしたら初めて言われたかもしれない。
なんだか、微笑ましい。
「アル? 笑顔で誤魔化そうとしてもダメよ」
「わかった。じゃ、一緒に」
「約束よ」
- Il était appelé le Grand Mage. -
ゼグスの稽古、一言でいうと、地獄だった
「おい! どうした? もう終わりか?」
「まだです!」
「剣の振りが遅い。腕の力だけだ。すぐにへばるし、それでは斬れん」
ガツン!
木の棒で殴られてふっとばされる。
「アル、大丈夫?」
マリーナに抱き起され、よろめきながら立ち上がる。
眼前、約二メートル先にはゼグス。
強い……魔法が強くなれたからって、いい気になったらこいつらみたいな化け物に殺されて終わりだ……魔法を発動しても、防がれて、接近されて殺される。では、接近される前に防げないような魔法で、と考えても、あちらが魔法攻撃してくれば、防御魔法を発動しないと結局はやられる……。
堂々巡りだ……。
よくわかる。
強い相手だと、自分の非力さがよく理解できた。
「マリーナ、大丈夫。手を抜いてくれているから」
「はっはっは! 手を抜く俺相手に、やられっぱなしか? さ、一本とって終わりにしよう。さっさと来い」
「行きます!」
斬撃を、あっさり躱され、蹴られた。
「うぐ!」
地面を転がり、苦しむ俺にゼグスが笑う。
「いきます! と言って来る馬鹿か? お前は? 攻撃しますと宣言したら、躱されてそうなる。蹴りでよかったな? 剣だと死んでいたぞ」
そうだよ!
俺は馬鹿か?
声をかけてから攻撃なんて、漫画じゃないんだから!
立ち上がる。
呼吸を整え……だぁ!
ゼグスが急接近してきた!
相手の攻撃を、マリーナに教わった体術で躱すも、直後に火炎弾を発動され、防御魔法で防ぐしかない! 反撃できないまま、ゼグスの連続攻撃を防ぐことしかできず、体当たりで吹っ飛ばされた……。
奴は、俺なら魔法攻撃を防ぐとわかったうえで、それも踏まえて連続攻撃を組み立てていた……。
俺の行動が、奴に支配されている。
それから何度も挑んだけど、蹴られ、殴られ、ボコボコにされて稽古一回目は終了……しかも、かなり手加減されているという自覚があった。
「アル、顔は無事、よかったわね」
「よく……ない」
情けなくなった。
いっぱしに、強いつもりだった。
魔法を使えるだけだと、実戦じゃ通用しない。
強力な魔法も、発動がばれてしまうと意味がない。とくに、ゼグスのような強い相手と戦う時は、魔法戦闘と通常戦闘を同じレベルまで……それも最高度まで高めないとダメだ。
ゼグスはここで、マリーナを誘う。
「どうだ? お前も戦ってみるか? 息子の代わりに俺から一本とってみろ」
「……それじゃ、少しだけ」
マリーナ……断ると思ったけど、彼女は俺の剣を握るとゼグスと正対した。
両者、向かい合ったまま動かない。
だけど、わかる。
お互いに、仕掛ける呼吸を計っているんだ。
ゼグスが動いた!
一瞬で火炎弾を発動させたゼグスに、マリーナも氷槍を発動し対抗する。二人の魔法がぶつかりあい、すさまじい水蒸気となって周囲に爆風を撒き散らした。俺は転げながら体勢を整え、立ち上がった時、二人は至近距離でぶつかりあう。
マリーナは、強かった。
ゼグスの魔法を、防御魔法で防ぐのではなく、攻撃魔法をぶつけて相殺することで無力化し、さらに魔法を連発することで相手に防御を強いる。一方のゼグスも、簡単にはさがらずマリーナに挑み、魔法とみせかけ殴打を浴びせた。
ゼグスの拳を、マリーナは地面を転がって逃れる。
追撃のゼグスが蹴りを見舞ったが、マリーナは立ち上がりながら剣を一閃した。
危険で鋭い半円を、ゼグスは半身で躱す。
稽古は、そこで終わった。
「人間にしてはやる。そして、息子に戦い方を見せたな?」
「アルに稽古をつけてありがとうございました」
マリーナの感謝に、ゼグスは俺を見た。
「よい母をもったことに感謝するといい。アル」
「はい……ゼグス様にも、感謝申し上げます」
魔人は、くぐもった笑い声を残して去った。




