第六十話 現実の朝
目が――開いた。
天井。白い天井。
起き上がろうとして――身体が重かった。長い間、動かしていなかった。筋肉が錆びついたように、思うように動かない。
「……起きた!」
誰かが声を上げた。
視界が安定してくる。部屋。個室。窓から――光が入っている。
窓の外――朝だった。
「……聞こえますか」
穏やかな声。医療スタッフらしい人物が、前に立っている。
「……聞こえる」
「体に、痛みはありますか」
「……ない。重い、だけ」
「少しずつ、慣らしていきましょう」
ゆっくりと体を起こした。慎重に。時間をかけて。
窓の外に、朝の光がある。青い空。雲。当たり前の、普通の空。
「……朝、か」
思わず呟いた。
ゲームの中でずっと――灰色だった空。やっと来た朝。しかし外の朝は、当たり前に来ていた。ゲームの中で戦っている間も、ずっとここで。
「……いいな」
ドアが開いた。
「……起きた?」
知らない顔がドアの隙間から覗いていた。だが、見覚えのある声。
「お前、リリィか」
「そう、初めまして、私、莉理。時松莉里。待つって言ったから。ゲーム会社に問い合わせて押しかけちゃった。ちゃんと許可取ってるからって」
「……そうか」
莉里が部屋に入ってくる。「カイは……来なかったけど」
「……そうだな。来ない」
「何があったの?」
ネオは少しだけ考えた。
「……後で話す。少し、長くなる」
「聞く」
「……今は」
ネオはもう一度、窓の外を見た。
「朝を、見ていたい」
莉里は何も言わなかった。ただ――隣に来て、同じ窓を見た。
二人で、しばらく。朝の光を見ていた。




