第五十九話 ネオとヒカリ
コア領域に――ネオとヒカリだけが残った。
静かだった。この世界で、これほど静かな瞬間は初めてだった。
「……聞きたいことが、ある」
ネオが言った。
「なんでも」
「……お前は、このままここにいるのか」
ヒカリは少しだけ間を置いた。
「……いる、しかない。私はもう――外には出られない。コア領域に混ざってしまってるから」
「……そうか」
「でも――」
ヒカリが笑った。「音央がログインするたびに、会えるから。それで、十分だよ」
「お前は――いつも、そういうことを言う」
「何が?」
「十分だ、って。足りなくても、十分だって言う」
「……だって、十分なんだもの」
ネオは、少しだけ――黙った。白い空間の中で、黒い猫が立っている。
「……俺は、足りない」
「音央」
「足りない。お前がいないのは――ずっと、足りなかった。このゲームのGMをやっていたのも――ここにお前の痕跡があるから、だったと思う」
ヒカリが、黙って聞いていた。
「……分かってたよ。だから――ちゃんと会いに来てくれて、嬉しかった」
「……俺が来るの、待ってたのか」
「待ってた。でも――来なくていいとも思ってた。音央には、外の世界がある。ちゃんと、そっちで生きてほしかった」
「……どっちだよ」
「どっちも、本当」
ネオは笑った。おかしくて笑ったのか、それとも別の理由で笑ったのか、自分でも分からなかった。
「……また来る」
「うん」
「毎日は来ないかもしれない」
「いつでもいい」
「……でも来る」
「待ってる」
ヒカリが――また、笑った。いつもと同じ笑い方で。ずっとそうだったように。
「……元気でいてね、音央」
「お前もな」
「……私は、元気しかないよ。ここにいる限り」
ネオは少しだけ考えてから――言った。
「……そうか。それなら、よかった」
それだけ言って、《エビルウィンド》を構えた。
自分一人のためだけに――発動する。
「……行ってくる」
「お帰り」
一人残されたヒカリはふと呟く。
「カイはね、音央と私の子供なんだよ。音央の遺伝子データと私の遺伝子データから生まれた――大切なシステム、このゲームそのものなの」
そういうと、ヒカリはコアの奥へと消えていった。
そして、世界が光に満たされていく。




