第五十四話 最後のマスター魔法
扉の向こうに――何もなかった。
でも――空気が違った。ここだけ、密度が違う。光の重さが違う。これが、世界の原点。すべてのデータが始まった場所。
ネオは一歩、踏み込んだ。
その瞬間。
```
【Master Authority Complete】
【マスター魔法:《エビルウィンド・フロム・ハデス》取得】
強制サーバーシャットダウン――世界を終わらせる
```
そして。
```
【全マスター魔法:取得完了】
【GM認証:完全回復】
【管理者権限:全解放】
```
ネオは、止まった。
「……戻った」
光が、隣に来た。「……そうだね」
「全部――戻った」
「うん」
ネオは空を見上げた。コア領域の白い天井を。満ちている感覚がある。かつてはあったはずの何かが、全部戻ってきた感覚。
「……お前が壊したのか。最初から、権限を俺から奪ったのは」
光は、少しだけ――黙った。
「……違う。あれは、本当に外部の仕業だよ。私が望んだことじゃない」
「でも――お前は、気づいてた?」
「……気づいてた。だから――ずっと見てた。音央が、ちゃんと取り戻せるか」
「信じてたのか、俺を」
「当然でしょ」
迷いなく、言った。言葉に引っかかりがなかった。
「……音央が取り戻せないなら――誰も取り戻せない。そのくらい、私は知ってる」
ネオは、しばらく黙った。
「……馬鹿だ、お前は」
「知ってる」
「信じすぎだ」
「知ってる」
「……ありがとう」
最後だけ――静かに言った。小さく、低く、確かに。
光が、笑った。




